北海道大学文学研究院で准教授を務める川崎公平さんは、Jホラーの映画を専門に取り組んできた研究者です。前編では、ホラー映画研究の道に進んだ背景や、ホラーと映画の関係に対する独自の視点を伺いました。後編では、最近の映画との付き合い方や、研究の今後の展望について深掘りしていきます。
【金山晋・法学部1年 千﨑亮汰・保健学科1年 田崎介盛・総合教育部1年 緑川千晶・教育学部1年 望月清香・総合教育部1年 𠮷川涼乃・総合教育部1年】

川崎公平さん
どのくらいの頻度で映画館に行きますか?
あぁ、減りましたね……(笑)子どもができてから減りました。あまりにも行っていないので、頻度を言いたくないくらいです。週に一回でも行けたらいいほうですね。…… 今、「週に一回も?」って思ったでしょ?(笑)
一番映画館に通っていた時の頻度はどのくらいですか?
映画館に一番頻繁に行っていたのは、東京にいた時期でしょうか。ただ、映画自体を一番観ていたのは、大学2年、3年生や大学院生の時です。レンタルビデオやDVDで、年に数百本は観ていたと思います。
大学時代の思い出について聞かせてください。
もう北大にはいないのですが、中山昭彦という先生がいて、その方の授業がとても印象に残っていますね。当時僕は映画研究の知識がなかったので、映画ってこんなに面白く見ることができるんだ、と衝撃を受けました。その先生は当時、今僕が教えている講座の教員で、院生時代には指導教員になっていただきました。
あとは、毎日のように遊んでいました(笑)。友だちはそれなりにいて、彼らとよく遊んでいたのですが、同時に一人でいろいろするのも好きでした。こういう人間になるくらいですから(笑)。ヴィレッジヴァンガードで漫画を買って、シアターキノで映画を観て、当時「PIVOT」というビルにあったタワーレコードでCDを買って……典型的なサブカル野郎だったと思います。

研究室にある楳図かずおの作品
ホラー映画以外にも、漫画や小説の研究はしていますか?
昔は漫画の研究をしていました。卒業論文の題材も手塚治虫でしたし、大学院に進んだ当初は、好きだった楳図かずおの研究をしていました。ですが心の奥底で映画のほうが好きだと感じていたところがあったため、徐々に映画へシフトしていきました。ただ漫画、特に楳図かずおについては、しっかり研究してみたいと今も思っています。あとは小説も、怖いものは若い頃から好きで読んでいましたし、今でも読むことがあります。
川崎さんが長年研究してきた中で、ホラー映画の研究に向いているなと思うご自身の性質・気質、また反対に「この能力が欲しいな」と思うことはありますか?
向いてるなと思うのは、「諦めが悪かった」ということだと思います。研究を続けるには、諦めの悪さと粘り強さが必要だからです。そして、「映画好き」なことも助けになりました。欲しいのは集中力ですね。年々集中力を失っている気がします。
ホラーをプロの視点で研究されてきたからこそ、新しい作品を観ている時、「次はこんな展開になりそう」と予想がついたりすることはありますか。
ああ、そういうことはあります。ただ、昨今のホラーの作り手たちはそういう定式も分かっているので、その上でどう裏切るかといったことも考えて作っていると思います。
では、むしろ予想が裏切られたと感じることの方がよくあるのでしょうか。
はい、よくあります。ただ、僕はあまりそうやって構えて観るタイプではなく、どちらかというと気楽に楽しみたいタイプです。最近はYouTubeやテレビ東京の深夜番組などで、ドキュメンタリー風ホラーが流行していて、観た人がいわゆるカッコつきの「考察」をする文化があって、YouTubeのコメント欄などに考察を投稿していくんです。みんなすごく一生懸命に作品中の違和感や気になる部分がないかを観察するのですが、作品がクイズやパズルになっているような気がして、個人的にはノれません。もっと気楽に楽しんで、わぁ怖い、という見方が僕は好きです。そのため、昨今の考察カルチャーみたいなものにはなかなか入っていけない感覚があります。

川崎さんが一番興味を持っているホラーの演出方法を教えてください。
さまざまなものがありますが、なかでも僕がとても興味を持っているのは、「人間が人間のままでいて人間ではない」ということを映像でどう表現するか。これがすごく面白いです。僕は幽霊が好きなんですが、俳優をどこに立たせて撮るかという工夫でただの人間がお化けに見えてしまうことがすごく面白かったんです。窓に人影が映っているだけなのに、どうしてこんなに怖いんだろう、と。たとえば高校生の時『女優霊』を観て、「すごく怖い」と同時に「なにか面白いかも」と思ったのもそういうところからです。
人がよく分からないドロドロしたものに変化したり、特殊メイクのゾンビが出てくるといった描写は、分かりやすく怖いですが、それとはまた違って、その辺にただ人が立っているだけなのに怖い、というような演出が僕にとってはすごく面白かったです。だからこそ、そうした演出をよく採用するJホラーに興味を持ったのだと思います。
ご自身は、どんなものが怖いですか。
僕は怖がりなので、いろいろなものが怖いです。まず当たり前ですが、痛そうなものは怖い。たとえばボクシングなどの格闘技で、殴り合って血が出たりするのを見るのは結構平気なんですが、関節が変なふうに曲がったりするのはすごく嫌なんです。僕はサッカーが好きで、わりと熱中して観るんですが、結構ひどい怪我の時は足がぐんにゃり曲がったりするので、それは見ていられません。あとは、虫も怖いし…ほかにもたくさんあります。
他人が怖いと思っているものは、大体僕も怖いと思っています。高いところも、幽霊も、死ぬのも、生きているのも、人間も、怖いです。

今、ホラー作品を作るとしたら、どんな作品を作りますか。
すごく難しい質問ですね。実は数年前、東京に住んでいたころに少し考えていたものがあります。東京って札幌に比べるとセミがすごく多くて、あるとき自転車に乗っていたら顔に向かってセミがバーッと飛んできて、走行中の車に轢かれそうになるという恐怖体験をしました。そこから少しセミ恐怖症になったんです。そこで考え始めた映画のアイディアなんですが、夏になったら目には見えないセミの鳴き声が無限に聞こえてくるという、セミのホラー。これはできるなと思いました。
「セミホラー」はきっと、B級映画的なものも含めて、製作している人は探せばいると思います。というのも、セミは音響の怖さが使えますから。それから無数のセミが襲ってくる、幼虫が土から出てくるなど、空間的な技法もいろいろ使えるので…… やっぱり作るならセミのホラー映画ですね。
* 後記:後日川崎さんより『「セミホラー」ですが、インタビュー後に公開された「口に関するアンケート」でやられてしまいました』と追伸をいただきました。
今後どのような研究テーマに挑戦していきたいですか。
最近はホラー映画研究は一区切りついた状態で、ホラー研究と関連しつつもまた別の関心から、戦後日本映画の研究に取り組んでいます。抽象的な説明になってしまいますが、「個人」と「共同体」との関係を研究したいと思っています。たとえば国や会社、家族などの「ある共同体」と一個人との関係は、闘っていたり、個人側が共同体側に抑圧されたりなどさまざまです。そういった関係性の現れ方について研究を進めたいと考えています。

【編集後記】
川崎さんは、ホラー映画の中でも、人間が人間の姿のままでありながら人間ではない存在のように見える演出に興味を持っている、と語ってくださいました。幽霊や怪物を直接登場させるだけではなく、人の立たせ方や映像の撮り方によって、不気味さや恐怖を表現できることが印象に残りました。さらに、先生がホラー映画を作るなら、セミの鳴き声を生かした「セミホラー」を作りたいというお話も興味深かったです。
今回の取材を通して、ホラー映画の研究は、作品の怖さを調べるだけではなく、映像の表現や人間、社会について深く考える研究でもあることを知りました。また、研究を続けるためには、自分の興味を大切にし、行き詰まっても諦めずに取り組むことが重要だと感じました。
インタビューに不慣れな私たちに対して、一つひとつの質問に丁寧に答えてくださった川崎さん、本当にありがとうございました。
この記事は、金山晋(法学部1年)、千﨑亮汰(保健学科1年)、田崎介盛(総合教育部1年)、緑川千晶(教育学部1年)、望月清香(総合教育部1年)、𠮷川涼乃(総合教育部1年)が、主題別科目「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果です。