私たちは日々、空気中に漂う病原菌や有害物質にさらされています。それでも、私たちが何事もなく、日常生活を送ることができるのはなぜでしょうか?それは、皮膚が有害なものの侵入を防ぐ、バリアとして機能しているからです!そして、このバリアを形成するのに不可欠な存在がいます。それが「セラミド」です!セラミドにはさまざまな種類がありますが、皮膚のバリアをより強くするしごでき(仕事ができる)セラミドが存在します。私はこのセラミドを作る酵素を探し、新たなセラミドの機能などを明らかにする研究に取り組んでいます。
【伊藤優太・生命科学院修士1年】
あなたの皮膚を守る!バリア機能とセラミド
空気中には、病原菌や有害物質がプカプカと浮いています。しかし、そのような環境にいても、皮膚や体には特に問題はないですよね?これには、皮膚のバリア機能とセラミドが深く関係しています。
皮膚の代表的な機能として、体外からの異物侵入を防ぐバリア機能があります。このバリア機能により、私たちは空気中を漂う病原菌や有害物質の影響を受けにくくなっているのです。皮膚バリアを主に担うのが、皮膚の最も外側にあり、体内で作られた脂質や死んだ皮膚の細胞で構成された層です。この層は角質層と呼ばれており、角質層に含まれている脂質の1つがセラミドです。セラミドの減少はバリア機能の低下につながり、かゆみと湿疹(ぶつぶつ)を伴うアトピー性皮膚炎などの病気を発症しやすくなります。すなわち、セラミドは皮膚バリアを担う重要な物質であり、あなた自身を守っているといっても過言ではないのです。

しごできセラミドと私
実は、皮膚にはさまざまな種類のセラミドが存在しています。その中でも、皮膚バリアをより強くしてくれる、他のセラミドたちよりも仕事ができる(しごでき)セラミドがいます。しごできセラミドは脂質同士を結びつかせ、皮膚バリアを強固にするという人間にとってはありがたい、まさにセラミド界のエースのような立ち回りをしてくれます。しかし、だれがセラミドを「しごでき」にするのか完全には解明されていません。

高校ときに生物の授業を受けて、人間の体内で起こる生命現象に魅了された私は、このことを学べる薬学部そして生命科学院に進学しました。そして、なんとなく面白そうで独創的な研究ができそうという浅い理由で、セラミド研究を行う現在の研究室を選びました。しかしセラミドについて学んでいくうちに、その唯一無二の役割に魅了されていきました。そんな中、セラミドはどのように「しごでき」になるのか、完全には解明されていないことを知りました。「こんなに皮膚に重要なセラミドなのに、わかっていないことがまだあるの!?面白そう!ぜひ自身の手で解き明かしたい!」と強く想い、セラミド研究の世界に没入していきました。
誰がセラミドを「しごでき」にするのか
研究の世界に飛び込んだのはいいものの、だれがセラミドを「しごでき」にするのか、それを明らかにするのは、一筋縄ではいきません。ここでいう「だれ」とは「酵素」のことです。酵素とは、体内で物質の合成・分解・修飾を担うタンパク質の総称です。体内に無数にあるタンパク質の中から、セラミドをしごできにする酵素を探す手順は以下の通りです。
- 「ヒトの体の中で、皮膚に主に存在している」「セラミドと関連のある、既知の酵素と似た特徴をもつ」など、さまざまな基準から、目的の酵素である可能性が高そうなタンパク質を選ぶ
- 選んだタンパク質を作るための設計図を作製する
- 培養細胞に設計図を取り込ませ、タンパク質を作らせる
- タンパク質を作らせた細胞内からセラミドを抽出する
- 分析機器を使って抽出したセラミドを測定する
ステップ3では、選んだタンパク質が培養細胞内でたくさん作られています。もし、このタンパク質が目的の酵素だった場合、セラミドを次々としごできにし、細胞内にしごできセラミドが大量に存在している状態になります。すなわち、ステップ4で抽出したセラミドをステップ5で測定し、しごできセラミドが増えていれば、この細胞で作られた、つまり選んだタンパク質こそ僕が探していた酵素という事になります。


酵素探しを手助けしてくれる心強い仲間たち
「なーんだ、たった5ステップか。意外と楽そう」と感じるかもしれません。しかし、実際は長い道のりです。まず、ステップ2を終えるまで2-3週間ほどかかります。さらに、ステップ3-5でも1-2週間ほどかかります。つまり、全体で1か月ほど費やすことになります。加えて、選んだタンパク質が目的の酵素でなければ、また1ステップ目からやり直しになります。まさに鬼畜。
大変だ…もうやめようかな… などという弱気を吐いていても研究は進みません。「成果を得るには、千里の道の一歩から!何より、このセラミドはどうやってつくられているんや!気になる!(関西弁)」という粘り強さと知的好奇心をバネに、研究を続けました。その結果、なんとセラミドを「しごでき」にする酵素を運よく発見できたのです!
さらなる発見へ~終わりなき研究~
探していた酵素を見つけることができ、無事に研究終了!….. とはなりません。新しく発見した酵素の詳しい性質は、まだ完全には解明しきれていません。加えて、今回発見した酵素を用いてさまざまな実験を行い、しごできセラミドのまだ見ぬ役割が明らかとなれば、「しごでき」を「超しごでき」にすることができるかもしれません。
また、セラミドと皮膚バリア、そしてアトピー性皮膚炎などの皮膚の病気は切っても切れない関係にあります。そのため、研究をさらに発展させて、病気との関係性や新たな治療薬の開発につなげるべく、日々研究活動に邁進しています。

注・参考文献:
- Kawana M., et al. (2020) Comparative profiling and comprehensive quantification of stratum corneum ceramides in humans and mice by LC-MS/MS. J. Lipid Res., 61, 884–895.
- Suzuki M., et al. (2022) Whole picture of human stratum corneum ceramides, including the chain-length diversity of long-chain bases. J. Lipid Res., 63, 100235.
生命科学院 生命科学専攻 生命医薬科学コース
生化学研究室(木原章雄教授)研究室HPアドレス
https://www.pharm.hokudai.ac.jp/seika/index.php