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市民と北大をつなぐ「窓」——元北大総合博物館館長・藤田さんの説く北大の精神——

渡辺 羽瑠 | 2026年度 CoSTEP受講生

博物館を訪れて、展示に感心して帰る。その先にもう一つ受け取ってほしいものがあると、元北大総合博物館館長の藤田正一さん(北海道大学 名誉教授)は語ります。

今年で創基150周年を迎える北海道大学。今回は、北大総合博物館3階のアインシュタイン・ドームで、北大総合博物館の歴史や、来館者に伝えたい想い、これからの北大に託す願いなどを藤田さんに伺いました。

お話に登場するのは、歴史に長く残る成果を生んだ地道な研究や「Boys, be ambitious」に込められた精神、そして、歴史を展示するだけでなく、それを自分自身の生き方につなげてほしいという期待でした。

博物館があるこの建物は、約100年前からこの場所にあります。長い歴史を持つこの空間で過去を振り返りながら、藤田さんの言葉は未来へと向かっていきます。北大で学ぶ人にも、初めて訪れる人にも、この場所から持ち帰れるものは何なのか。次の博物館訪問が楽しみになるお話をお届けします。

北海道大学は今年で創基150周年を迎えます。その長い歴史の中で、数多くの資料や標本が収集・保存・研究されてきました。そして、それらの一部は、旧理学部本館である北海道大学総合博物館(以下、博物館)に収蔵されています。

今回は、歴史そのものを保存しているとも言えるこの博物館について、2003年から2006年まで館長を務めた藤田正一さん(北海道大学 名誉教授)にお話を伺いました。

取材は、約100年前の1929年から今も変わらずこの建物に残る、博物館3階のアインシュタイン・ドームにておこないました。

アインシュタイン・ドームでの取材の様子(左:藤田さん、右:筆者)

当時の博物館の思い出

館長当時の博物館はどんな印象でしたか

今よりも博物館としての規模は小さかったです。博物館として使われているこの建物は、もともと理学部の建物でした。まだ理学部の新しい建物が完全にできあがっていないこともあり、博物館1階の半分を理学部が使っていました。

博物館が今の規模になったのはいつ頃ですか

2015年から2016年の期間に一度博物館を閉じて内装などを変える大改修があったんです。博物館は、展示物よりも収蔵物のほうがはるかに多いわけです。そうした収蔵のための場所や博物館の先生方が研究室として使える場所を確保するための改修です。かなり時間がかかり、大変だったと思います。

ですから、博物館がオープンした1999年当時は本当に小さかったんですよね。3階にある鉱石の展示が少しあるだけで、1階の歴史展示とかは全然ありませんでした。

なので、最初は年間の入場者数がすごく少なかったんですよ。「何万人達成した」「十万人達成した」って喜んで、その表彰として来た人にくす玉の下に立ってもらって、博物館の景品をあげたこともありました。

今は観光地と言えるほどたくさんの来館者がいますね

そうですね。これほどの人が来てくれるので、入場料を有料にする話が上がることもありました。ですが、博物館は大学の研究に触れることができる外に向いた唯一の窓です。国立大学は基本的に国民の税金で運営していて、その成果をお見せするのだから、入場料は無料じゃなきゃいけない。そういう考えから、今も無料を維持しています。

ただ、当時はなんとかしてお金を集めなければいけないというプレッシャーもあり、募金箱の設置をお願いしました。前例がない中、ある事務職員の方がかなり一生懸命で、文部科学省にかけあってくれたおかげで、博物館でも寄付を募れることになりました。

建物に宿る、先人たちの想い

ここ、アインシュタイン・ドームに思い入れなどはありますか

すごく美しいですよね。このドームの上のリズミックなパターンがものすごく綺麗だなと思います。

アインシュタイン・ドーム

それから、朝・昼・夕・夜を表して「四六時中研究に励め」というメッセージがこもったレリーフもなんだかすごいなと思って、とても好きですよ。



先生ご自身が研究をしていた時は四六時中研究に勤しんでいましたか

そうですね。若い頃は、帰るのが午前様になることも結構多かった気がします。やっぱり実験はキリがつくまでやりたくなります。

監督する立場になると、今度は学生たちが実験をずっとやっているので、早く帰るようにしていました。私が帰らないと帰らないから。

さまざまな意見が飛び交う現代でもその研究に対する精神は大事だと思いますか

そう思います。私はアルベルト・アインシュタイン医学校というユダヤ系の医科大学に通っていました。アメリカの医科大学には学部を卒業してから入るので、年齢的には日本の大学院生と同じですが、彼らの勉強の仕方がすごいんです。地下鉄に乗っている間にも教科書を読むなど、日本の受験生のようなことを彼らは日常的にやっていました。そんな中で落第しないように勉強しなければいけなくて、すごく大変でした。やっぱり頑張らないといけないなと思いましたね。

アインシュタイン・ドームの他にお気に入りの場所はありますか

今は残念ながら撤去されていますが、私の発想で、博物館の隣のエルムの森にウッドデッキを作りました。そこにオーケストラやカルテットを呼んで演奏してもらうと、木陰にひっくり返りながら音楽を聞けるんです。とても良い感じでした。

100年近くアインシュタイン・ドームは保存されていますが、建物の改修などで取り壊そうという運動はなかったのでしょうか

これを壊す発想はまったくなかったです。

鉄筋コンクリートでこれほどの規模の建物は、北大の中だとこの建物が一番古いはずです。農学部の建物より6年古いんですよ。そういう建物をむやみに近代的なものにするとミュージアムの価値がなくなるでしょう。やはり、古き良きものを取っておくことはミュージアムの使命だと思います。

博物館を作る時に「キャンパス全体がミュージアム」だというコンセプトがありました。この建物の展示物だけじゃなくて、北大のキャンパス全部がミュージアムなんです。

博物館のあるべき姿を語る藤田先生

あと、頑丈にできていますよね。戦後の建物の多くは経済優先な建物なので、長持ちさせるよりも安く建てるという考え方になっていますが、戦前の建物はそうではありません。この建物は、長持ちさせようという気持ちのある人たちが建てたのだと思います。経済優先でないから、飾りも大理石などを使ったすごく素敵なものになっています。そこで学ぶ者たちに与える影響まで考慮して建物を作ったのだと思うんです。

また、この建物を建てる予算の相当分は、北大の演習林の木を切り出して売ったお金だったそうです。自前の資金なんです。佐藤昌介(北海道大学 初代総長)がアメリカに留学した時に、土地の資産が大学の維持に使えるシステムを見て、農場や演習林などをどんどん確保するように努めました。だから、北大は日本一広大な土地を有しているでしょう。北大がこれだけの土地を持っているのは、先人の見識によるものです。

最後に、来館者への藤田さんの想い

館長を務められていた当時は、来館者の方々にどのようなことを感じ取ってほしいと思っていましたか

博物館という名の窓から、大学が何をやっているかを来館者は見るわけです。そのため、北大でやっていることや、他の大学とは違う北大を見てほしいと思っていました。

当時、私は歴史展示を手がけていました。クラーク以来の「北大の精神」のようなものは他の国立大学ではなかなかないんです。「Boys, be ambitious」は、立身出世や、金銭・名誉・名声を目指すのではなくて、知識・正義や、世のために貢献するだとか、自身の人格を高めるような、そういう精神を持ちなさいというのが真意なんです。これは、北大が1915年にサンフランシスコ万博で配布した冊子の中に書かれています。そういう「北大には、他の大学とはまた違う素晴らしい部分がある」ということを発信したいと思っていました。

もちろん研究もです。ウサギの耳に何日もコールタールを塗擦して、初めて人工的に癌を作った研究がありました。これは東大の山極勝三郎と、当時彼の実験助手だった市川厚一によるもので、他の学生がやりたがらなかったことを市川はやり、それで有名になって、学士院賞ももらいました。これは国際的に評価された研究成果で、私はアメリカでこれを習いました。

また、廣井勇は、小樽築港の防波堤を100年以上前に作りました。当時の西洋式の防波堤はとっくに壊れていますが、彼のものは今も残っています。波や潮にやられない耐久性のあるコンクリートを作るために、彼はコンクリートにいろいろなものを混ぜ、テストしました。その中で、火山灰を混ぜると強度が大きく増すことを発見し、火山灰を混ぜたコンクリートで防波堤を作りました。

博物館1階「実学の精神」の2人に関する展示物(上:市川厚一、下:廣井勇)

こういった、地道な研究をしっかりやる北大の研究スタイルも、来る人に見てもらえればいいなと思います。

これからも多くの人が博物館を訪れると思います。その方々にも同じ想いを抱きますか

そうですね。これから博物館を訪れる人に対しても同じ想いです。さらに言うと、こうした北大の精神や研究スタイルを博物館に飾っておくだけでなく、北大自身がそういう想いをきちんと自分の精神として持ってほしいと期待しています。博物館の発信によって、北大の人たちに北大の精神を学んでもらい、地道な努力のもと何年経っても忘れられないようなものを創るという、北大の伝統を自分のものにしてほしいという気持ちはあります。

取材後の記念撮影(左:筆者、右:藤田さん)

北大の歴史を保管し、自身も北大の大きな歴史である北大総合博物館。そのクラシカルできらびやかな建物からは、藤田さんをはじめとする多くの人々の未来への願いが感じ取れました。

北大総合博物館に行ったことがある人もない人も、北大の何たるかを知り、その精神を感じることで、自分自身のこれまでの日々とこれからを問い直す一つのきっかけとして、足を運んでみてはいかがでしょう。

謎解き×北大散歩『刻まれたページ』
この記事を執筆した渡辺さんが所属するCoSTEP知の発信実践演習では、謎解き×北大散歩『刻まれたページ』を企画しています。10月25日(日)・27日(火)に附属図書館本館をスタートに北大を舞台とした周遊型謎解きイベントをお楽しみいただけます。この記事でも紹介していた北大の魅力を体験できる謎になっています。
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