地震・火山について研究されている、高橋浩晃さん(北海道大学大学院 理学研究院 附属地震火山研究観測センター 教授)。前編では、先生ご自身の「素顔」についてお話いただきました。後編では、「研究者」としての先生に迫ります。
【赤谷咲良・総合理系1年/ 小島健剛・総合文系1年/佐藤桃佳・経済学部1年/
背戸田壮悟・法学部1年/西川陽斗・理学部1年/福田萌瑛・医学部1年】
まずは先生の研究内容について深掘りします。
普段はどのような研究をされていますか?
主に地震発生メカニズムの研究をやっております。
外で観測をすることが基本になります。
北大では北海道内に50箇所ぐらい地震の観測点を設置、観測していて、得られたデータを北大に集めるとともに、リアルタイムで東京の気象庁などにも送っています。そのデータを、気象庁は防災情報の発信のために使っています。
大学としては、気象庁のデータも含めた形で、研究目的でデータを使っています。この建物(北海道大学理学研究院4号館)の1階に全国、特に北海道中の地震の観測データが集まってきて、そのデータを使って様々な研究をしています。
もちろん、地震が起きた地域に足を運んで観測することもあります。

地震が起きるところを予測して観測することはありますか?
いや、大前提として、地震の予知はできません。これは皆さんにぜひ覚えておいてほしいです。いつどこで地震が起こるか、とかいうお話は、YouTubeとかにたくさんありますが、あれは全部デタラメです。
そういったインチキ情報も世間に出回っていますが、地震の予知はできませんので、皆さんも気をつけてください。例えば大きな地震が起こると、「何月何日に次の地震が来る」とか、「自衛隊情報がある」とか、いわゆるデマが出ますが、それは決して拡散しないように。
地震予知はできないんですね。心に刻みました。
そうです。
あらゆる自然現象というのは予知できないものです。地震も基本的に、物理現象の一つなので、確率的な評価しかできません。確定的に「何月何日に地震がおこる」という予知は、やはりできないというのが実際のところです。
今はAIが流行っていますが、AIは基本的に確率統計論なんですね。AIで商売したいと思っている人もぜひ、統計学を学んでください。
では実際地震が起きた時、北大はどういった対応をしますか。
北大が何かマストでやらなければいけない、ということはありません。それは、大学は教育機関だからです。もちろん調査はやります。ただ、それは国の機関の一部として実施するのではなく、大学が独自に学術的な見地で研究、調査を行います。地震が起きた地域に行って、観測したり、様々な調査機材を設置したりします。

写真は以下から引用 北海道大学大学院理学研究院 「研究者情報 高橋浩晃」, https://www2.sci.hokudai.ac.jp/faculty/researcher/hiroaki-takahashi, 最終閲覧日2026年7月16日
先生は、ほとんどの地震災害の現場へ足を運んだということでしたが、何ヶ所くらい行ったんですか?
1993年、北海道南西沖地震があって、その時僕は大学四年生でした。それ以降、いわゆる人的被害が出る地震が起こったところに、地震計を持って行き、調査を続けてきました。これまで何十ヶ所か行きました。
現場に足を運ぶということの意味は、なんだと思いますか。
それこそ30年前の1993年とかは、今とは違って、全国的に見て地震の観測点があまりなかったんです。そのため、現地に行って、集中的に観測点を設置することがどうしても必要でした。今は、観測点がかなり充実してきたので、そろそろ現地に行って調査しなくてもいい時代にはなってきています。
え!行かなくていいんですか!?
もちろん現地に行って観測することも非常に大事です。一方、1つ考えなければいけないのは、私たち研究者が被災地に足を踏み入れることは、被災地にとって、負担になる可能性が高いことです。他に優先すべき事項がもちろんあるわけです。やはり人命が一番大事ですよね。
例えば、被災地で、アンケート調査をする研究もありますが、複数の研究者が行くと、同じようなアンケートをいくつも実施していることがあります。現地の人はそのたびに対応することになります。 その点を考えると、地震研究について言えば、観測点が増え、現地に行かなくてもデータを取得できるようになったことは、決して悪いことではないと思います。

加えて、地震の観測技術にはどのような進歩があったのか、教えていただきました。
地震の観測技術は、ここ数十年と今ではどのような違いがありますか?
実はこの数十年間で、地震を観測する原理自体は大して変わっていません。しかし、観測に使われる技術はとても発達しました。
まず、携帯電話の通信網のエリアと帯域が広がったことで、通信インフラが発達しました。全国に1000個くらいある観測点の情報は、NTTの通信回線を用いてリアルタイムに集められています。そのため、通信技術の発達は、地震の観測にとって大きなメリットになりました。
さらに通信料がかなり下がりました。携帯電話がなかった時代は、家に電話を引くために、電話権利料というものがあり、8万6千円くらいかかりました。それが今や皆さんも、 SIM カードを買えば無制限で動画を見られますよね。同じように地震のデータを通信するための経費も、かなり安くなりました。
通信技術と地震観測には深い関わりがあることがわかりました。他にも技術の発達が与えた影響はありましたか?
はい。もう一つは、膨大なデータを処理するシステムやサーバー、コンピューターの性能の向上です。 CPUのメモリや速度は、以前とは全く比べ物にならないような時代になりました。 昔は性能の良い機械がないと、ちょっとした計算も難しかったんですが、今は手元の PC で十分なシミュレーションが、簡単にできるようになりました。
通信とCPU、その辺り技術革新が、地震学の分野でも大きなインパクトをもたらしたことは間違いないのかなと思います。
なぜ今火山に関する研究をしているのですか?
大きい地震は世界中どこで起こっても、いわゆる地震の規模、マグニチュードがほぼ即時的に推定されます。そして震源が海底で規模がある程度大きい場合には、津波の警報が世界的に出されるシステムがすでに運用されています。
一方で、火山噴火の場合には、大きい噴火が起こっても、この噴火の規模を即時的に推定するシステム、あるいは世界的な機関が実はありません。 それで一つ問題になったのは、2022年にトンガという南太平洋の国で起こった非常に大規模な海底噴火です(フンガ・トンガ噴火/2022年1月15日)。 その噴火の7時間後くらいから日本に津波が来たんですが、当時、気象庁は津波が日本に到達した後になってから津波警報を出す形となりました。つまり、事前に警報を出せなかったんですよね。
地震に比べて火山噴火の即時的な推定システムが成り立っていないから、研究をしているということですね。
そういうことになります。「日本からかなり離れたところの噴火の規模が即時的に推定できなかったこと」が事前に津波警報を出せなかった一つの大きな原因だろうと思って、研究費を申請しました。そうしたら、運よく採択されて、研究に取り組んでいます。例えば、火山が噴火すると「ボン」と大きな音がします。その際に生じる大きな音波を観測することで、噴火の音を聞くことができます。今はこうした世界中の地震や火山噴火のデータを使って、即時的に大規模な噴火の規模を測定して、津波の警報をより早く出すことを目指して研究をしています。

編集後記
後編では、これまでの地震研究や現在取り組んでいる火山研究の内容や目的について深堀しました。研究論文だけでは伝わらない研究のねらいや高橋さん自身がそれにかける思いを知ることができました。特に印象に残ったのは、地震・火山噴火の観測で現地に赴く必要がなくなってきているというお話。科学技術や観測網の発展によって研究の形も変わってきているのですね。
取材全体を通して、高橋さんが地震や火山の研究についてとても熱心に、生き生きとお話しされていたのが印象的でした。その姿から、本当に研究を愛しているのだなと強く伝わってきました。また、テレビ出演についてもたくさんのお話を聞くことができ、とても貴重な機会となりました。
今回の取材記事が、読者の学生の皆さんの進路選択の参考になれば幸いです。快く取材に応じ、不慣れなインタビューにもかかわらず明るく受け答えしてくださった高橋さん、本当にありがとうございました!!