バイオガスプラントでは、微生物の働きで発酵が進み、メタンガスなどが作り出されます。それと同時に、発酵の「残り汁」もできます。この液体分が、肥料として優れているといいます。荒木肇さん(北方生物圏フィールド科学センター 教授)に話をうかがいます。
「残り汁」って、前回の図にあった「消化液」ですね
発酵槽の中で、微生物がふん尿を「食べて」メタンガスなどを作り出します。その消化の過程でできた残りかす、それが消化液です。発酵槽にふん尿を1日あたり4立方メートル入れると、消化液が4立方メートルできます。原料のふん尿の重量と、消化液の重量がほとんど同じで、ふん尿の水分がほとんどそのまま保たれた液体です。
この消化液には、窒素・リン酸・カリという、植物にとっての三大必須栄養素が含まれ、カルシウムやマグネシウムなどのミネラルも含まれています。しかも窒素は、植物にとって吸収しやすい形(アンモニア態窒素)に変わっていますので、肥料としての効果が高まっています。
一方、悪臭は大幅に減っています。悪臭のもと(揮発性脂肪酸)が発酵の過程で分解されてしまうからです。また、家畜が食べて糞に混じって出てきた雑草の種子も、発酵の過程でほとんど死んでしまいますから、畑に撒いた肥料がもとで雑草が生える、なんてこともありません。
どのように肥料として使うのですか
発酵槽できた消化液は、大きなタンクに溜めていきます。容量が820立方メートルあり、半年分を溜めておいて、牧草が生育する前の3月と、雪が降る前の11月に、牧草地に液体肥料(液肥)として撒きます。
消化液を圃場に運ぶには、大きなタンカーを使います。でも、これが重くて、大型のトラクターでないと引っ張れないし、そんなのが畑の中に入っていくのは具合が悪い。そこでもっとコンパクトな機械を実験的に製作しました。しかも、畑に消化液をただ「撒く」のではなく「土の中に入れる」ようにして、空気中に飛散せず、確実に肥料として働くようにしました。
ゆくゆくはこの液肥を、北大にたくさんあるローン(芝生)の肥料に使うことができないかとも考えていて、去年から農場の片隅で研究を始めました。バイオガスプラントを維持するのに年間200万円ほどの費用がかかっているので、なんとか北大に貢献することができればと思っています。
どうしてこの分野の研究に進んだのですか
北大の農学部で、5年間助手をしたあと、縁あって、新潟大学の農学部附属農場に移りました。そこでは教員数が少ないこともあって、何でもやらなければいけなかったんです。牛の乳搾り、豚の出産への立ち会いなどいろいろ経験するうちに、興味関心が大きく広がりました。そしてやがて、家畜の糞尿をどうするかということにも関心をもつようになっていました。
2003年に北大に戻ってきたのですが、来てみたらバイオマスプラントがありました。それで、これも研究対象にしようと思いました。
作物についての研究については農学部の先生たちが研究しているので、フィールド科学センターの教員である私は、もう少し別のことを研究したほうがいいのでは、という思いもありました。環境科学系や工学系など、いろいろな分野の人たちと手を組んで、農業を底辺から支援するような研究を、これからも進めていきたいと思っています。