日本最北の大学所有の森
北海道大学の大きな魅力の1つは、広大な研究フィールドをもつことです。道内外に牧場や森、臨海実験所など多様なフィールドをもっており、長期モニタリングによるデ-タの蓄積や、実際的スケールでの野外研究が実施されていることなどが大きな特徴です。2001年4月に設立された北方生物圏フィ-ルド科学センタ-は、それまで農学部、理学部、水産学部に所属していた生物系の附属施設を統合したもので、森林圏・耕地圏・水圏の3 ステーションから構成されています。各ステーションには7つの研究林、農場・牧場・植物園、そして臨海実験所・水産実験所・臨湖実験所・淡水実験所など、合計16 の施設・フィールドが存在しています。
さまざまな地衣類が樹皮などに見られる
今回、3回にわたって紹介するのは、北大の7つの研究林のうちもっとも北にある天塩(てしお)研究林です。天塩研究林は、北緯45度に位置し、国内最北の大学所有の森林です。札幌から行くには、JR函館本線・宗谷本線経由で旭川・稚内方面行きの特急で約3時間40分、300kmの旅です。研究林の発足は1912年(大正元年)で、面積は現在約 22,500ha、冬季と夏季の気温差が大きく、冬は-35℃、夏は35℃にもなります(年平均気温は 5℃)。
蛇紋岩土壌に広がるアカエゾマツ林と、世界でひとつだけの花
天塩研究林の植生には、冬季の低温・積雪や高緯度地域であることのほか、地質的な特徴が大きく影響しています。研究林の東側には、白亜紀層の蛇紋岩(火成岩の一種)が分布し、日本有数の規模のアカエゾマツ林が広がっています。その他の地域は、第三紀の堆積岩を基岩とし、原生植生として針広混交林が優占します。
蛇紋岩の多い土壌は超塩基性でミネラルに富み、とくにマグネシウムが多いのが特徴です。マグネシウムイオンは、植物の水分吸収を阻害するなどの影響を及ぼすため、蛇紋岩質土壌の植物相は特異なものになることがあり、また固有性が高く希少な植物種が多いことから、研究対象として貴重なフィールドです。
見渡す限りすべて天塩研究林のアカエゾマツ林
天塩研究林で見られるアカエゾマツの純林は蛇紋岩台地ならではの植生です。一方、蛇紋岩地帯の中でも河川付近の崩壊地ではテシオコザクラ、オゼソウ(テシオソウ)などこの地域特有の植物(文字通り、世界で1つだけの花です!)が生育しており、技術専門職員の伊藤欣也さんを中心に、分布や生息環境などの調査を続け、保護管理技術の確立に向けて取り組んでいます。
世界で一つだけの花、テシオコザクラ(伊藤欣也さん撮影)
天塩研究林では、明治以降、幾度も山火事の被害を受けてきました。一帯は冬季の風雪が厳しく、森林が回復せず笹地となっているところが多数あります。北大では、1980年代より10数年余りの間、山火事跡地の造林試験を行い、アカエゾマツ林の回復事業を行ってきました。森林の修復が難しい環境下において、どのように森林生態系を保全するのかという重要なテーマに、研究林では山火事を人為的に起こしその影響を調べる実験など、広大な面積だからこそできる野外研究に取り組んでいるのです。
天塩研究林を含む森林圏ステーションは、平成24年7月より、文部科学省教育関係共同利用拠点「フィールドを使った森林環境と生態系保全に関する実践的教育共同利用拠点」に認定され、全国の大学に教育共同利用を提供しています。
天塩研究林についてのレポートは、次回に続きます。
三省堂サイエンスカフェ「カムチャツカと北海道の森にみられる植物たちの 『これが私の生きる道』」のお知らせ
さて、研究林では北海道の森林バイオーム(植生とそこにすむ動物を含めた生物群)を対象にさまざまな試験・研究を行っていますが、北海道よりもさらに北に位置するロシア・カムチャツカでも、北大の研究者が森の研究を行っています。
3月13日に行われる三省堂サイエンスカフェでは、カムチャツカの森の研究をしている北海道大学低温科学研究所教授の原登志彦さんをゲストに迎え、カムチャツカの過酷な環境に生きる森の木たちの生存戦略をうかがいます。ゆったりとしたブックカフェで気軽にお話を聞いていただけます。ぜひご参加ください。
日 時:3月13日(日)15:00~16:30
会 場:三省堂書店 札幌店(JR 札幌ステラプレイス5階)/店内のUCC カフェ
ゲスト:原登志彦さん(北海道大学低温科学研究所教授)
聞き手:葛西奈津子(CoSTEP特任准教授・スポーツ&サイエンスライター)
参加費:500 円(ドリンク代を含みます)
申込み:電話、または三省堂サイエンスカフェのウェブサイトから
電 話:011-209-5600(三省堂書店 札幌店)
ウェブサイト:http://www.books-sanseido.co.jp/event/sc/
定 員:30 名(先着順)
主 催:三省堂書店 札幌店
共催:北海道大学CoSTEP・日本学術会議北海道地区会議
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