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#57 博物館と秘宝館の接点

社会学が専門の妙木忍さん(文学研究科 応用倫理研究教育センター 助教)に、ムラージュ・蝋人形が結ぶ博物館と秘宝館の接点についてうかがいました。

【川本思心・CoSTEP特任講師】

ムラージュ、蝋人形はいつごろからあるのでしょうか

解剖学用の蝋製模型は16世紀には今のイタリアで作られ、18世紀にはパリ、フィレンツェ、ボローニャに博物館ができています。これらは人体の構造を知るという医学的な目的もありましたが、同時に非常に豊かな表現がなされているのが特徴です。

そして19世紀中頃には、有名なマダム・タッソー蝋人形館がロンドンに建てられました。タッソー夫人の技術は医学用蝋人形の流れをくんでいると言われていますが、ここでは実在する原寸大の有名人に触れることができる、という娯楽性が大きな特徴となっています。

(総合博物館のムラージュ展示では見学者への配慮がなされています)
医学的な人形には娯楽性もあるということでしょうか

「医学のポルノグラフィ化」と表した研究者もいます。迫真性をもち、高度な技術で未知のものを見せる、という点で見世物用の蝋人形と医学模型には共通性があります。私は、本物に限りなく近く模倣された身体を集め、展示し、人々がそこを訪れる現象を「身体の観光化」と呼んでいます。現代日本におけるその表れの一つが秘宝館です。

秘宝館と関連があると考えられている施設は娯楽向けの蝋人形館だけではありません。明治後半から1960年代まで、衛生展覧会と呼ばれる保健衛生思想普及のための娯楽・教育的な展覧会が各地で開かれていました。これらには「身体の観光化」という点でつながりがあると考えています。

(秘宝館を扱った妙木さんの研究論文や、制作に協力した映像作品)
ところで秘宝館とは・・・

秘宝館は性に関する等身大の人形を展示した娯楽施設です。1970年代から80年代にかけて全国の観光地や温泉地などに20ヶ所以上建てられました。定山渓温泉にも秘宝館があったので札幌近郊の方々には多少なじみがあるかもしれません。

実は秘宝館といっても全て同じ特徴をもっているわけではありません。1972年にオープンした伊勢の元祖国際秘宝館は日本初の秘宝館です。ここには性病や妊娠に関する保健衛生コーナーがあり、ムラージュや様々な解剖模型が展示されていたのが大きな特徴でした。これらの医学模型と同時に、娯楽性の高い性的な人形を作製・納品していたのは、京都科学標本という科学的な標本をつくる老舗の会社だったことが分かっています。

どのような人が秘宝館に行ったのでしょうか

バスによる団体旅行客が「みんなで行く」ものだったようで、年配の男性団体客が多かったという証言が残されています。

一方で、伊勢以降の秘宝館ではターゲットに女性も含まれているのが大きな特徴です。実際、1980年にオープンした北海道秘宝館のコピーは「おんなの遊園地」でした。展示も医学模型はなくなり、より娯楽性の高い人形が中心になり、ユーモアが重視されています。

秘宝館と女性という組み合わせは意外です

女性でも楽しめることを考えた、と秘宝館の展示企画や設計を行った方々も証言しています。こういったターゲット変化の背景には、女性のライフコースの変化があると私は考えています。伊勢の秘宝館の後、70年代半ばから80年代初頭に各地に秘宝館が建てられましたが、この時期は、戦後進んでいた女性の専業主婦化が完成し、減少に転じようとしていた時期でした。また、1970年代初頭に余暇時代、レジャーブームと呼ばれた現象がこの時期にはいっそう進展していたとも考えられます。

秘宝館にかぎらず、観光地そのものにも変化がありました。定山渓では芸者文化が衰退し、宴会型観光から幅広い対象の観光客への転換がはかられています。

(秘宝館年年表。秘宝館は70年代半ばから80年代に隆盛を極めました)
最近、秘宝館はあまり見ないようですが

定山渓の北海道秘宝館は2009年に閉館してしまいました。他も残念ながら次々に閉館され、2013年11月現在は熱海、鬼怒川、嬉野の3ヶ所のみになっています。

実は、私の秘宝館研究が発展した理由のひとつは2007年に北大でムラージュを見たことにあります。それ以前に伊勢の秘宝館でムラージュを見ていたのですが、北大のムラージュを見ることによってそれがなんだったのかを再発見できたのです。秘宝館を研究することによって、その時代に何が秘されていたのかが見えてきます。まだ秘宝館が残っているうちに、時代の記憶を留め、明らかにしたいと思っています。

(総合博物館の廊下にて)

 

今回の記事に関連したサイエンスカフェが11月30日に開催されます。興味のある方はぜひご参加ください。

サイエンスカフェ in 三省堂書店札幌店
「観光化する身体―博物館・蝋人形・秘宝館と女性」
日 時:11月30日(土)15:00-16:30
会 場:三省堂書店 札幌店BOOKS & CAFE (UCC)
(札幌市中央区北5条西2-5 JRタワー札幌ステラプレイス5階)
ゲスト:妙木忍さん(北海道大学 大学院文学研究科 応用倫理研究教育センター 助教)
聞き手:川本思心(CoSTEP特任講師)
参加費:500円(ドリンク代を含みます)
定 員:30名(先着順)

定員に達しましたので申込を締め切らせていただきます。何卒ご了承ください。

主催:北海道大学CoSTEP
共催:三省堂書店 札幌店

Information

Update

2013.11.15

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