医学部公認の学生団体でもある、国際医療協力の勉強会「なまらambitious」。以前、こちらの記事でその結成の背景をお届けしました。今回は「アフリカの妖術世界から学ぶ ~21世紀の医療と社会デザイン~」と題し、一般の方々も参加できる講演会を企画してくれました。講師の杉下智彦医師(東京女子医科大学 教授)は、青年海外協力隊として派遣されたマラウイ共和国での医療活動を皮切りに、アフリカを中心とした30カ国を超える国々で医療支援を行ってきたそうです。
アフリカの一部の地域では「妖術」と呼ばれる伝統医療が行われています。ここで言う「妖術」は、祈祷や薬草の処方を通じた医療行為を指し、文脈によっては「呪い」と表現されることもあります。杉下医師によると、「妖術の根底には、自然や先祖を敬う気持ちがある」とのこと。アフリカの村社会が平和なのは、この「妖術」も組み込んだ暗黙の掟、つまり不文律があるからだ、と言います。
外部からその地域に関わる場合、まずその村社会の不文律を「わかる」必要があります。しかし、その時に障壁となってくるのが「アフリカはこうに違いない」「こうあるべきだ」という私たちの強い先入観。その思い込みから抜けるために、杉下医師は「学び捨てること(Unlearning)」の大切さを説きます。それは、自分の中で作られてきた認識や経験を捨て去り、新たに捉え直す勇気を持つことです。このことは、アフリカの村社会に携わる医療従事者に限ったことではなく、私たちが異文化を理解し、持続可能な社会を作っていくために必要な姿勢だ、と杉下医師は結びました。
後半は、青年海外協力隊としてアフリカの医療に従事した経験がある田中綾さん、長谷川純子さん(共にJOCA国際協力出前講座講師)と、医学部の学生をパネラーに加えてディスカッションが行われました。ディスカッションのテーマは「日本人がアフリカで医療を行うのは本当に良いことなのか」。パネラーの一人である箱山昂汰さん(医学部4年)が、自身が世界一周した時に考えたことだそうです。西洋社会で「正しい」とされる医療行為は、アフリカの村社会では必ずしも「正しくない」こともあり、さらにはその行為が村の文化にも影響を与えてしまうのではないか。田中さんは、「西洋医学は良いものだよ、と言われると(もしくは、知ってしまうと)、村の人々にとって、その魅力に逆らうことは難しい。」と、自身の経験に基づきアフリカの現状を語ります。また、長谷川さんは、倉本聰さんの戯曲『ニングル』を例に、その中に出てくる「知らん権利」と「放っておく義務」の大切さを伝えました。
最後は杉下医師からの「気になったら、とにかく行ってみること。現場でしかわからないことがある。」という強いメッセージによって、締めくくられました。
会場には、医学部の学生だけでなく、市民の方も多くいらしていたようです。なまらambitious代表の藤本沙優さん(医学部4年)は「色々な人に国際医療協力に興味を持ってもらい、繋がり合えたらいい。そんな学びの機会を広げていきたい」と思いを語ってくれました。
近いようで遠い、遠いようで近い、国際医療協力のお話。この札幌から、その輪が広がっていって欲しいですね。
(なまらambitiousのメンバーと杉下医師。前列右端が藤本さん)
【関連イベント情報】
*北大祭期間中に医学部の学生が行う医学展にて、なまらambitious主催の講演会が開催されます。ゲストは「病理医ヤンデル」先生こと市原真医師。6月3日(土)12:00より、医学部フラテホールにて。
詳細はこちらより。
*パネラーの長谷川純子さん(保険科学院 博士課程)が、マラウイから画家チャエラ・クリスフォード氏を招き、展示を行います。チャエラ氏は11歳の時にポリオにより四肢麻痺となりましたが、口で絵筆をとる画家として活躍中だそうです。6月2日(金)はカフェROGAにて、6月3日(土)、4日(日)はチ・カ・ホ(札幌駅前通地下広場)にて開催。
詳細はこちらより。