突然ですが、もし今、地震が起きたらどうしますか?安全な場所に避難するのが一番ですよね。でも、安全な場所ってどこでしょう?さらに、適切な避難経路を選ばないと負傷する恐れもあります。地震が起きたとき、まずは自分で自分の安全を確保しなくてはなりません。それをサポートする「地震時負傷回避システム」(特許取得済)を開発した岡田成幸さん(北海道大学大学院工学研究院建築都市空間デザイン部門都市防災学研究室特任教授)にお話を伺いました。
【中野梨沙・文学部1年/小林風輝・総合理系1年】
「自助」のためのツールを開発する ~建築科ができることとは
緊急地震速報は、揺れの大きさを教えてくれます。けれど、私たちが本当に欲しいのは、自分がいま危険な場所にいるのか、どこでどうしていれば安全なのか、ということですよね。その判断をサポートするのが、「地震時負傷回避システム」です。事前に部屋の大きさや間取り、家具の種類や大きさなどを簡単なマウス操作でパソコンに取り込みます。すると、地震が起こった場合に危険な場所が色の違いとして画面上に表示され、もしもあなたが危険な場所にいた場合は音声で教えてくれるのです。さらに、避難ルートを計算して、実際のあなたの部屋の上にプロジェクションマッピングで表示してくれるようになっています。ただ少し問題があって、プロジェクションマッピングは部屋が暗くないと見えないとか、人が複数いる場合は誰への注意喚起なのかわからないなど、改良点はまだあります。でも実際、コンピュータはすべて知っているし、情報を内部記憶しています。あとは、居住者にどのように伝えるかというコミュニケーションの問題です。将来的にはこれをベースにして、デパートとか駅などの公共施設でも利用できるようにしたいな、と思っています。
従来の防災研究では、建物を壊さないようにすることばかりに焦点が当てられていて、そこにいる人間の安全確保については全く触れられてきませんでした。居住者をどうやって助けたらいいだろうかって考えたのが、この建築系防災学研究のスタートです。「自助、共助、公助」といいますが、特に「自助」の部分で、自分たちが何をしなきゃいけないのかを判断するためのツールを提供したい。これが、人の命を守るために我々建築科ができることじゃないかと思うんです。
取材メンバーの部屋を例に、具体的に危険な場所について考えてみました。
被害を想定する ~実際の部屋を例に
まず、自分の住む地域がどのくらい揺れるのか、ハザードの想定をしてください。次に、鉄筋コンクリートなのか木造なのか、築何年なのか、何階建てなのか。上層階だとけっこう揺れが増幅されます。それから、避難経路が安全かどうか確認しなきゃいけない。家具が倒れてきて出口がふさがれたりしないか、共用の廊下に出て下までちゃんと逃げられるのか、っていうことですね。さらに、自分の頭より上にあるもの、例えば換気扇とか照明などが揺れて天井にぶつかって、破片が落ちてくるってことだってありえます。まず、そういういろいろな種類の危険があるんだってことを知っておくことが大事です。低い位置に置いてあるテレビなんかも、倒れるというより飛んでくる可能性を考えた方がいいかもしれません。
どんな学生時代を送っていたのか、伺いました。
とにかく悩んだ学生時代 ~自分の世界を広げて
高校時代は受験勉強に追われていました。ですが、記憶に残っているのはやっぱり夏休みに行った山や海のことです。友人との繋がりは大切だと思います。特に将来何をしようというビジョンは、このころは持っていなかったですね。
大学時代は、少し上の先輩たちの代で学生運動が盛んでした。ちょうど社会が大きく変動していた時期で、先輩たちの政治原論を熱く語る姿に圧倒されつつも何か協調できないもどかしさや、将来の仕事、工学部に入ったはいいけどこれから何を学べば良いか、など、様々なことに悩んでいた時期でした。それからしばらくして研究室に配属されて教授と出会い、強震計について研究し始めて…という感じで、だんだんと方向性が決まって行った気がします。
学生時代は悩む時期です。様々な情報に触れ、多くの出会いを経て、自分の世界をどんどん広げて行って欲しいな、と思います。
最後に、工学という学問について伺いました。
工学とは ~人間に寄り添う
工学って、理系と文系、どっちだと思いますか?世間のイメージではきっと圧倒的に理系ですよね。でも、理系っていうのは「自然」のことを扱う学問分野なんですよ。数学は概念、物理学は自然現象というように。でも工学で扱うのは、実は「人間の問題」なんですよね。これは、自分が人間社会の一員であるとの考えのうえに成り立っている文系分野のほうに近いんです。工学では、利点を追求するとかえって欠点も生み出してしまうことが多いものです。ある人にとって幸せなものが、別の人にとっては不幸せになるっていうように。そういった相反する要素がある中で、どのようにバランスをとっていけばいいのか、どのような解決方法が人々にとって良いのかを考え、悩むこと。これが工学の本質である、と私は思います。
後編では、岡田さんが紹介する4冊の本から、岡田さんのルーツに迫ります。
この記事は、中野梨沙さん(文学部1年)・小林風輝さん(総合理系1年)が、全学教育科目「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果物です。