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#96 「人間」の幸せを考える(2)~スッキリ感を追求する研究人生(書籍紹介)~

Who am I ? これは、哲学における永遠の問いかけです。2000年以上前から、多くの学者が答えを追究してきました。なぜ、答えがあるかすらわからないことを、これほどまで研究し続けてきたのでしょうか。少なくともひとつ言えるのは、そこに研究者としての“生きがい“があったということです。これはどの学問にも共通して言えることで、岡田さんが専門としている工学のなかにも、岡田さんにとっての生きがいがありました。

岡田さんの研究と学生時代について伺った前編に引き続き、今回は、岡田さんが工学研究に生きがいを感じる理由と、将来を担う若者たちへのメッセージを、4冊の本を通して語っていただきます。

【中島みなみ・法学部1年/清原綱大・総合理系1年/原綾汰・理学部2年】

ぜひ大学生に読んでもらいたい一冊

1.『縮小文明の展望~千年の彼方を目指して』 月尾 嘉男 著(東京大学出版会/2003)

著者の月尾嘉男氏は、東京大学の名誉教授であり、都市工学という分野で活躍している環境学者です。この本は、エネルギー問題、人口増加、農業や水産業など、あらゆる分野における環境問題の現状を記した本で、

15年前に出版された本でありながら、著者の考えは現代に通ずるものがあります。岡田さんは、この本から視野の広さと分析力を学んでほしい、といいます。

岡田さんご自身の研究に通じるところはありますか?

いわゆる理系の学問は、基本的に自然現象を対象としています。そのなかにあって工学は、本来は人間の問題や、人間の幸せを考えることを目的としているはずだと思っています。それが工学、なかでも建築系防災工学の研究を始めたきっかけです。環境も建築も、人の幸せのためのものです。しかし、安全性や利便性、快適性や表現性、または経済的な問題、というふうに、何に重きを置くかは人によって千差万別なので、幸せの定義も人それぞれ異なります。そこを悩む学問こそが工学です。工学の観点で見ると、環境と建築は密接に関わっているのです。

2.『人類の未来』 ノーム・チョムスキー他 著、吉成 真由美 翻訳(NHK出版新書/2017)

5人の知識人に、全く種類の異なる5つのテーマについてインタビューした本です。「当たり前だと思われていることをまず否定する」ことが、この本の主題です。

「当たり前のことを否定する」というのは、科学者にはなじみの深い考え方ですね。

はい。共感しました。科学技術の発展が、世界を恐ろしい方向へ向かわせるかもしれないという見方がある一方で、明るい未来へとつながっているはずだという見方もある。そのどちらへ世界を導くかは、あなたがた若い人たち次第だと思うんです。この本に登場する5人は、全員がポジティブなんですよ。未来に対してポジティブになれないと、やる気なんて持てないでしょ?だから、若い人たちに、明るい未来あっての自分達なんだということを伝えたい。それでこの本を選びました。

3.『サピエンス全史』上・下巻 ユヴァル・ノア・ハラリ 著、柴田 裕之 翻訳(河出書房新社/2016)

『人類の未来』に関連した書籍として、ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』も推薦します。ハラリはこう語っています。「科学は人類の選択肢を提供するまでの影響力を持つに至ったが、その選択権はない。選択権は人類の未来はどうあるべきかという非科学的領域問題であり、それはイデオロギー(世界観、宗教観)の担当である。そして、その決定権はポリティクス(政治学)にある。」考えさせられますね。科学技術の発展は止められません。それを使う側が間違った選択をしないことが求められています。明るい未来像を描くことができるのは若い人たちです。期待しています。

人生に影響を与えた一冊

『工学部ヒラノ教授と昭和のスーパーエンジニア〜森口繁一という天才』 今野 浩 著(青土社/2015)

戦前から戦後にかけて天才と呼ばれてきたエンジニア、森口繁一。彼の研究の信念は、「実用的な研究をすること」です。この本は、彼の教え子が、彼の人間性や、大学内での教授間のいざこざ、さらには役に立つかもわからない研究を続けていて意味はあるのか、といった葛藤について描いています。

役に立つかわからない研究、実用性のない研究についてどう思いますか?

私にとっての研究の醍醐味は、「スッキリできるかどうか」ってことなんですよ。自分の疑問が解決できると非常にスッキリするし世界観も広がる。だから研究が生きがいになるし、それが役に立つかどうかなんてことは、場合によっては関係ないのかもしれません。高校までの私は、教科書があればそれを読むだけで十分満足していました。でも大学に入って建築の研究を始めてからは、建築って何だ?と毎日もやもやしていました。やがて、災害から人間を守るための研究をすることが、私にとっての「スッキリ感」なんだ、とわかってきたんです。

「工学とは悩むこと」という先ほどの話ともつながるのですが、色々な意見があってどれかに決めなければいけないこと、すなわち意思決定は工学の至上命題です。その決定原理に功利主義(最大多数の最大幸福)が持ち出されることは良くあることです。しかし、当時の私は功利主義の合理性は認めざるを得なかったものの、その結果として少数派の弱者が切り捨てられることに違和感を拭えませんでした。それを払拭できたきっかけは、ジョン・スチュアート・ミルの質的功利主義に出会ったことです。ベンサムの量的功利主義に代わる理念として共感し、それでスッキリしました。

(筋交いによる耐震構造を表した模型。厚紙でできている)

現在の私は、防災問題を考える原点としてロールズのリベラリズム(自由競争の結果としてのある程度の格差を認めつつも機会平等性を前提とする考え方)に近い立場です。残念ながら、誰もが災害弱者になる可能性があります。そのなかで、せめて自助努力ではどうにもならない構造的弱者を生まないためには、アマルティア・センの「人間の安全保障」の観点から、セーフティネットを用意すべきだと思っています。これが、防災哲学においての自分のスッキリ感です。


ある問題に行き詰まった時、そのもやもやを晴らしたいという強い思いが人を突き動かします。岡田さんの研究における生きがいは、そのスッキリ感を求めることにありました。今回ご紹介した4冊の本は、現在の岡田さんを創り上げた構造の一部なのでしょう。

みなさんも、手に取ったその本を読んでみてはいかがですか。今後の人生に影響するような、新しい世界が広がるかもしれません。

この記事は、中島みなみさん(法学部1年)、清原綱大さん(総合理系1年)、原綾汰(理学部2年)が、全学教育科目「北海道大学の”今”を知る」の履修を通して制作した成果物です。

 

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2017.10.26

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