2017年11月9日は、世界初の「認定遺伝カウンセラーの日(Genetic Counselor Awareness Day)」です。そこで、2014年から北海道大学病院 臨床遺伝子診療部で認定遺伝カウンセラーとして働いている、柴田有花さんに、その仕事について、お話をうかがいました。
(柴田有花さん)
ーー認定遺伝カウンセラーはどんな資格なのですか
認定遺伝カウンセラーは、日本遺伝カウンセリング学会と、日本人類遺伝学会が共同認定する、学会認定の資格です。認定遺伝カウンセラー倫理綱領前文では「遺伝医学やカウンセリングの知識と技術をもって、医療や社会に貢献することを目指して創設された専門職」と規定されています。日本では、2005年4月から始まり、現在この資格を持っている人は、約200人ほどです。北海道にいる有資格者は、私を含めて4〜5人でしょうか。アメリカの遺伝カウンセラーが3,000人以上いることを考えると、まだ数は少ないと思います。ただ、日本も、次世代シーケンサなどの遺伝子解析技術の発展に伴い、資格のニーズは高まってきています。
ーー柴田さんは臨床遺伝子診療部でどのようなお仕事をしているのですか
遺伝子や染色体の変化によって起こる疾患を遺伝性疾患といいます。その患者さんや、ご家族からの相談に応じています。相談者(クライエント)には、まず遺伝や疾患等について正確な情報提供を行います。クライエントからの相談の中には、遺伝要因だけではなく環境要因が影響を与えるものもあるからです。その上で、悩みごとや困りごとについて十分に整理した上で、クライエントの自律的な意思決定を支援します。「これが正解」といった答えがあるわけではありません。クライエント自身が納得いく結論を出すことがゴールとなります。相談件数は月70〜100件ほどで、年々増えています。これは北大だけではなく、全国的な傾向です。もちろん一人では応じ切れないので、北大病院の臨床遺伝専門医の方と協力しながら対応しています。
ーー認定遺伝カウンセラーの二つの視点
このように、私たち認定遺伝カウンセラーは、クライエントの不安や悩みを理解して、一緒に解決方法を考えていきます。しかし、それだけではなく、私は遺伝性疾患を持つ人や、その家族が生きやすい世の中にするためには、社会のあり方を変えていく必要があると思います。クライエントがどんな選択をされても不利益とならない社会制度があってこそ、真の自律的な意思決定ができると考えるからです。そのために、私たちは社会にも関わっていかなくてはいけません。認定遺伝カウンセラーには、クライエントに向かう視点と社会に向かう視点、その両方が必要だと考えています。
ーー社会に関わるとは具体的にはどのようなことでしょうか
今、遺伝と聞くと、親から子どもに引き継がれるという「縦のつながり」のイメージを持つ人が多いのではないでしょうか。その一方で、一人ひとりが持つ遺伝子の違いは、多様な人びとが共に暮らす社会の「横のつながり」をうみだすものです。
この「横のつながり」の重要性「いろんな人がいるのが当たりまえ、みんな違っていていいんだ」ということを、認定遺伝カウンセラーとして伝えていきたいですね。社会に遺伝性疾患を持つ人がいることは、実は当たりまえのことです。どうしたら、そのような人や家族が生きやすい世の中にすることができるかについて、考察や実践を行っていくことが重要だと思っています。そのためにも、クライエントの思いや言葉を社会に向けて発信し、その解決に向けて共に考えていく対話の場の機会をつくっていくことが大事だと考えています。
ーー11月9日は認定遺伝カウンセラーの日だと聞きました
認定遺伝カウンセラーの日は今年(2017年)から始まりました。私は日本の認定遺伝カウンセラーの有志と一緒に、動画を作り、その編集を担当しました。この動画を見て、仕事に関心をもってくれる人が増えるとうれしいですね。
柴田さんの制作した動画はこちらから視聴できます。ぜひご覧になってみてください。