北方生物圏フィールド科学センター 厚岸臨海実験所は、海に関わる調査・研究以外の目的でも多くの人に利用されています。実験所周辺の環境を利用した研究について、実験所所長の仲岡雅裕さんにお話を伺いました。
実験場周辺では、多くのエゾシカに出会えます。「このあたりはエゾシカが増えているんです。」動物が植物を食べることで、生息する植物の生育や生存に悪影響を与えることは「食害」と呼ばれます。近年、エゾシカの食害は道東全体で問題視されています。
愛冠(あいかっぷ)も例外ではありません。「ここには北大の校章でもあるオオバナノエンレイソウの大きな群落があったのですが、最近はなくなってしまいました。オオバナノエンレイソウはシカが好む植物のひとつなので、シカが増えたことによって、たくさん食べられて、なくなってしまったのではないかとも考えられるのです。」 そこで、今年は森林生態学を専門にする北大和歌山研究林の揚妻直樹先生と共同で、エゾシカがどんな植物を食べているのか、食べた痕(食み痕と言います)を調べたり、生息する頭数を推定する実習を行いました。
実験所から徒歩10分ほどの愛冠岬は、年間3000人以上が訪れる観光名所です。岬には大きなモニュメントが建っていますが、「実は、モニュメントのある岬周辺も北大の敷地なんですが、昔から厚岸の観光名所として使われているんですよ。」実験所周辺の40ヘクタールの土地は北大が有している土地なのだそうです。
愛冠岬に向かう遊歩道の途中に、多くのアンテナが立てられています。「これは、地震火山研究観測センターで行っている研究で、大地の動きを測るためのGPSだそうです。」ミリ単位で大地の動きを測定することができる高性能なもの。また、潮風による金属の腐食を調べる装置もありました。「こちらは工学研究院の先生の研究です。この場所が、天気や潮風の影響を調べる実験にとても適しているということでした。」札幌とは大きく気候の異なる環境を求めて、多くの研究者が来ているんですね。
厚岸町は約1万人が暮らす小さな町です。多くの住民が漁業を生業としていることもあり、周辺には手つかずの自然が多く残っています。「厚岸町の東側には、海とつながっている厚岸湖や、厚岸湖に流れこむ川があります。川の上流には京都大学の研究林があったりして、古い、よい森が広がっています。この環境を利用して、森、川、海の研究ができるのでは、と仲岡さん。「愛冠岬の森林はとても古いものだそうです。また、道東にある実験場としては唯一のものですし、この環境を利用して研究したいという人を積極的に受け入れたいと思っています。」
臨海実験場周辺の豊かな自然は、多くの研究者や一般の人に開かれています。