2008年に厚岸臨海実験場に赴任してきた仲岡雅裕さん(北方生物圏フィールド科学センター教授)に、厚岸臨海実験所で行われている研究について伺いました。
仲岡さんは千葉県の出身。東京大学で海洋生態学について学びました。研究で、あちらこちらの臨海実験所に足を運ぶ中で、特に厚岸臨海実験所に魅力を感じたと言います。「海草や海藻が生える海はもちろんですが、近くには森も川も湖もあって自然環境が豊かなところが気に入っていました。」 タイミングにも恵まれ、2008年から、厚岸臨海実験所で所長として研究・教育活動に携わっています。
「一昨年からは、環境の変化を意図的に操作した野外実験にも力を入れています。」浅い海に生息している海草は、海の中に草原をつくり、魚やその餌となる生き物のすみかを提供するなど、海の生き物に対する大切な役割を持っています。仲岡さんは、この海草が地球温暖化によって受ける影響を、実験的に明らかにしようとしています。
海草「アマモ」の草原を4本の支柱で囲み、その中の水温や養分を操作し、様子をモニタリングします。操作するのは、海草の光合成に必要となる海水中の二酸化炭素濃度や、成長に必要とされる栄養分、水温など。「温暖化によって海水中により多くの二酸化炭素が溶けこむようになると予測されていますが、海水の水温が低いほどその影響が大きいという話があるのです。」この臨海実験所近くの海は、暖流の影響を受けないのでとても冷たく、冬にはマイナス1℃を下回ることもあるといいます。「このような環境で温暖化の影響を測る実験を行うことはとても意味があると思っています。」
ただ、実際の野外環境で行う実験だからこそ気を使う点もあります。そのひとつが、実験で変化させた環境の「変化の度合」。たとえば、海や川に水を流す場合には、水中に含まれる栄養分をどのぐらいまで減らすべきか、排水基準が定められています。その基準を超えてしまわないようにしなければいけません。「日本は国際的に見ても基準が厳しい国として有名です。他の国と同じようにはできない。だからこそ気を使いますね。」
また、電源にも頭を悩ませたと言います。海には潮の満ち引きがあり、海の水の流れや水位が変化します。この影響をきちんと見るには、少なくとも1時間ごとにデータを取り、陸上のパソコンに送るようなシステムの開発が必須です。しかし、実験の場所は海の上。「町からはるか離れたところなので、電気が使えないんですよ。」 現在は、ソーラーパネルを使って電気を確保するようなシステムを考えているといいます。実際の環境で実験をするには、多くのハードルがあるのですね。「もちろん実験室内で制御して実験することもできます。しかし、本当の海で実験することで、現実により近い結果を得ることができると考えています。」
国際プロジェクトへの参加も積極的です。生態学の研究には、まったく同じ野外実験を異なる地域で行うことで、環境と生物の関係を明らかにしようとする方法があります。現在では、このような方法で行われている6つの国際プロジェクトに参加しています。今着ているTシャツも、アマモの草原に棲む生物などについて実験する国際プロジェクト、ZEN(Zostera Experimental Network)のもの。下から二番目にAkkeshi-ko, Hokkaido, Japanの文字がありますね。「縁があって声をかけていただき、参加しています。将来的には、厚岸・北大発の国際プロジェクトを立ち上げて、海洋生態系の謎を明らかにできたらいいな、と思っています。」