北海道大学の寮といえば恵迪寮が有名ですが、この大学にゆかりのある寮は恵迪寮だけではありません。かつて北大の周辺には、地方出身学生が地域ごとに集まって住まう学生寮が数多くありました。佐藤・新渡戸記念寮もそのひとつ。前編では寮の歴史にふれました。今回は寮の今を紹介します。
この寮ができたのは昭和2年で、岩手県出身者のために創られました。その歴史に北大初代総長である佐藤昌介と岩手県出身の偉人、新渡戸稲造が関わっていることから、「佐藤・新渡戸記念寮」という通称をもっています。この寮は当時最新の設備を備え、"Be social, Be gentleman"をモットーとする近代的な学生寮として生まれました。創立当初は現在生協会館がある場所に建てられていましたが、その後移転。現在は大学から少し離れたところに4代目の寮が建っています。
現在の巌鷲寮
現在、佐藤・新渡戸記念寮には17人の寮生がいます。寮生たちの出身地は岩手県を中心に、北から南まで全国各地です。90年を経て建物の概観は変わってきましたが、1999年に完成した4代目の寮は1代目と同じく洋風です。設備も整っており、寮生によると特に台所回りが充実しているとのこと。入寮式や寮祭での料理・スピーチの伝統は今も引き継がれています。生活のルールは基本的に寮生が決め、問題があった場合には話し合いで解決します。理事・寮母さんのほか、OB・OGも寮の運営に携わっていて、後輩の生活を先輩たちが支えている面もみてとれます。
(4代目となった佐藤・新渡戸記念寮)
<『巌鷲寮創立80周年記念誌 巌鷲の秀麗なるが如く』より転載>
「おかえりなさい」
寮生に、巌鷲寮での生活はどんな雰囲気なのか聞いてみました。
「帰ってきたとき、誰かがおかえりなさい、と言ってくれるのが嬉しいです。私は人見知りなのですが、寮にいたことで人間関係の輪が広がりました。1年生のとき、先輩に進路の相談をきいてもらったこともありました」
先輩寮生から後輩寮生に大学生活や進路について助言をすることもあるそうです。「おかえり」「ただいま」と声を掛け合ったり、相談や議論をしたり。それぞれが専攻分野をもつ学生であると同時に、寮生間の関係は家族のような空気感を帯びています。
(寮祭準備の様子)
変わる住人、変わらない伝統
今の寮では大人たちの支援のもと、寮生たちがお互いに協力しながら生活していました。とはいえ、共同生活では大変な事もあるのでは?寮長さんにきいてみました。
「日常の小さいことで話し合いをすることもあります。お互い分かり合えない時は、話し合いの後もちょっと気まずかったり…。でも、自分とは違う人とコミュニケーションをとりながら生活することって、生きていくうえで重要なことだと思います。いい経験です。それに、大変さを乗り越えて生活していると、一人ひとりみんな個性的で、おもしろいんです」
なるほど。毎日一緒に生活しているからこそ、わかる部分もありますよね。
「今ここにいる寮生が一人ひとり違うように、昔の寮生と今寮にいる人は、共通点はあっても別の人なのです。これからは、寮生個人の価値観も尊重しながら、"Be gentleman"のモットーをどう引き継いでいくか考えています」
昨年90周年を迎え、時代とともに移り行く巌鷲寮。これからはどんな姿を見せてくれるのでしょうか。
(90周年記念式典の様子)
つながる、北大ゆかりの学生寮
佐藤・新渡戸記念寮の本棚を見てみると、恵迪寮の歴史を記した『恵迪寮史』がありました。これは一体?寮長さんにきくと、こんな答えが返ってきました。
「なぜここにあるのかはわかりません。私が入寮したときにはすでにあったような…。そういえば寮のイベントで会食をする際に、恵迪寮が話題になることも何度かありました」
バンカラで若者らしいエネルギーにあふれた恵迪寮、西洋文化を取り入れジェントルな佇まいをした巌鷲寮。対照的な文化をもつ2つの寮ですが、相互に関わりがあるのかもしれません。巌鷲寮はまた、他の地方出身者寮と寮対抗のスポーツ大会をしているのだとか。北大ゆかりの寮の歴史は、なかなか奥が深そうです。
(寮内の本棚。恵迪寮に関係する書物がいくつかみられる)
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