北大植物園ではこれからの季節、レブンアツモリソウに続きエンビセンノウなどの稀少植物の花が見ることができます。しかし、植物園の役割はこれらの稀少植物を栽培するだけではありません。フィールドに出て調査・研究も行っています。それも、北海道内に留まらず北東アジアの研究者と連携して取り組んでいるのです。
去る3月21日、このような活動を報告するシンポジウム「北海道,韓国,極東ロシアの希少植物と保全のためのネットワーキング」が開催されました(主催:北方生物圏フィールド科学センター植物園)。民間人が立ち入れない朝鮮半島の非武装地帯や、極端に交通手段の不便な極東ロシアの原野など、なかなか知ることのできない、近くて遠い隣国の地の植物を知る機会とあって、80名もの一般市民が来場されました。
【林忠⼀・北⽅⽣物圏フィールド科学センター/いいね!Hokudai特派員】
(エンビセンノウは日本・北海道では絶滅危惧種だが、東北アジアに広く分布する)
<写真提供:中村剛さん>
自国だけではなく隣国にも目を向ける
シンポジウムは、中村剛さん(植物園 助教)の講演「日露中韓の協力で推進する,北海道-東北アジアの希少植物の保全」ではじまりました。植物は国境を越えて分布しているため、自国だけで希少種を保全しても意味がありません。隣接する極東ロシア・韓国・中国など東北アジア地域も合わせて絶滅危惧植物の分類の再検討や、希少性の評価を行ったうえで保全をおこなう必要があります。そのため、これらの近隣国と連携して希少植物の研究をおこなっていることが話されました。
(中村さんは司会進行と自身の発表に加え、通訳もこなして八面六臂の活躍でした)
非武装地帯が保つ自然
次に、韓国国立樹木園DMZ自生植物園 博士研究員の李娥英(イ・アヨン)さんが「DMZ(非武装地帯)-朝鮮戦争後,過去60年間の立入制限によって植物の宝庫になった大地-」と題して講演しました。DMZ(DeMilitarized Zone)とは、韓国と北朝鮮の軍事境界線に沿って南北の幅4km、東西の長さ約248kmにわたって広がる区域です。民間人の立ち入りが許されていないため、手付かずの自然が残っています。他機関の調査と独自の調査の集計によりDMZ一帯には韓国の国家標準植物目録の約6割に値する59.9%もの植物が生育する非常に多様性の高い地域になっています。DMZの半分以上が未調査のため、今後の調査にさらなる期待を寄せているそうです。またDMZの植物が日本で紹介されるのは、今回これが初でした。
(DMZの山地湿地の様子)<写真提供:中村剛さん>
(休憩時間には、植物園で学ぶ学部生・院生による5件のポスター発表が行われました。関心の高さからか来場者からの質疑応答は絶えず、後半の講演時間になっても会場に戻る様子がありません。司会が講演会場に戻るようお願いしてやっと戻るほどでした)
豊かなウスリー流域の植物相
講演3件目は、ロシア科学アカデミー極東支部ウラジオストク植物園 研究員のエカテリーナ・ペトルネンコさんによる「極東ロシア沿海地方の希少・固有維管束植物」です。この地域は地理的・気候的要因で、北方系と南方系の植物が見られるほか、12もの連邦立保護区によって、稀少植物や固有植物が守られているそうです。これらの植物の中には、学名に「ウスリー」とつく固有種も多く含まれます。多数の写真でそれらを紹介しながら、連邦立保護区の説明をしました。
(植物の写真に紛れてウスリーの名のつくヘビの写真を紛れ込ませるなど、茶目っ気を出すペトルネンコさん)
ロシアで研究するということ
最後は、三重大学教養教育院講師 福田知子さんの「極東ロシア研究機関との研究協力推進への取り組み」でした。ロシアでの調査には、渡航や調査の手続きなど面倒なことは多くあります。しかし、一度受け入れが決まると前人未踏のような険しい場所でも、現地スタッフはあらゆる手段を使って全面的にサポートしてくれ、さらには採集した植物標本の梱包発送までしてくれたそうです。しかし、そうまでして手に入れた標本も、国内には植物防疫上持ち込めない植物もあり、注意が必要だそうです。
(ロシアでは、なにごともスケールの違いに驚かされっぱなしだったと話す福田さん)
最後に、北海学園大学名誉教授の佐藤謙さんから総括として、DNAを用いた新しい手法で東北アジアでの稀少植物の分類や稀少性のさらなる解明に期待を寄せる言葉で締めくくられました。
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シンポジウムでとりあげられた植物は、北大植物園で見ることができます。
エンビセンノウ、ユウバリクモマグサ、ユウバリソウ、ヤチカンバ、オニオトコヨモギ、レブンソウ、ヒダカソウ
場所: 温室2号室
チョウジソウ、エンビセンノウ
場所: 温室手前のヌマスギ付近
開園時間・開花時期については植物園のホームページをご覧ください。