岡島先生との出会い -学生時代のこと-
大学・大学院時代の研究テーマは、一言で言うと「生産性の低い土壌をどう利用するか」ということでした。今振り返ってみてこの時非常に幸いだったと思うのは、「現場に出る機会が非常に多かったこと」です。指導教官は岡島秀夫先生でした。岡島先生は、研究者として大学の中で研究や教育を行うだけでなく、第二次世界大戦直後、日本の食糧増産が喫緊の課題だった時代に、社会の問題解決に直接取り組んでおられました。研究者としてそのような姿勢を持った先生に師事することができたのは幸せだったと、社会に出てからつくづく思いました。
1970年代後半、ブラジルの熱帯サバンナの高原地帯が未開の地だったころ、この地域を農地転換するプロジェクトが立ち上がり、北大の先生方も土壌調査に出かけました。学生である我々は、先生方が帰国した際にプロジェクトの「土産話」をスライドで説明してもらっていましたが、そのお話を伺うのが非常に楽しみでした。
解決すべき問題はどんどん変化し、複雑化する
先ほど日本の食糧問題の話をしましたが、実は、現在自他共に先進国と認める日本も、世界銀行からの借金を返し終わったのはわずか20年前なのです。国際開発の分野においては、それぞれの国で取り組むべき課題が年を追う毎にどんどん変わってきています。
一方で、農業の問題も食糧の問題も、一つや二つの分野の知識や研究だけでは解決できるものではありません。人文社会系の専門家を含めて、様々な知識が必要となってきているのです。
相手を知り、相手から学ぶことの大切さ
我々が開発対象国に赴いて新しい農業技術を導入しようとする時、気をつけなければならないことがあります。
農業というものは、そもそもどの国でもすでに行われている産業なわけです。まずは、現地の農業がどのように行われているかを知ることが大切です。その上で、それを少しでも改善するにはどうすればよいかを考えていきます。
最初から大規模な投資をするのではなく、少ないコストで大きな効果が出る方法を考え、導入していきます。機械化を進めると労働生産性は高まりますが、一方で初期投資や生産コストがかさみ、回収に苦労することになります。必ずしも機械化を進めることがよいとは限らないわけです。
日本人は、平らな地面があれば水を引いて水田を作ろう、とすぐに考えてしまいます。タンザニアの平地に稲作を導入したことがありますが、このようにゼロから立ち上げるケースでは、それでも構いません。
しかし、今すでに行われている農業実践をどう改善するかという場合は、我々はむしろ現地の人々から「学ぶ」立場なのです。一緒に考えていくという姿勢が大切です。もちろんそれには、長い時間がかかります。お手軽な解決方法は無いと覚悟した方がよいでしょう。
アフリカの農業は労働力不足?
アフリカの農業は、(人はたくさんいると思うかもしれませんが)実は労働力が不足しているのです。収穫期には特に人が足りません。機械化が進んだから農業従事者が減ったというよりは、単に農業が嫌いだから農村を離れたという人も少なくありません。そういうわけで、雇用側のニーズと農業従事者数は必ずしも単純に連動しているわけではなく、農業における労働問題の難しさの一面となっています。
まねてもらうのは大歓迎?
現地の人々は、我々のプロジェクトで学んだことを、他でまねします。技術を盗み、応用して、プロジェクトの対象地以外でも同じような水準の稲作が定着しています。これは実は、私たちが望んでいることであり、開発援助者の冥利に尽きます。ただし、プロジェクト対象地域の上流に水田を作って「水を盗む」人々も少なくありません。
そこで、上流区域も含めて包括的に技術支援を行い、その代わりに水の利用についてはきちんと節度を持ってもらうように依頼します。流域全体の利水計画を立ててもらうように指導するのです。「水管理組合」のような、高度な「マネジメント」のノウハウは、放っておくと最後まで「まね」されないのです。
「大学と社会」に寄せて
窪田さんは開口一番、教室に集まった学生に「このような授業があることはうらやましい」とおっしゃいました。本学を卒業し、多様な分野で活躍する先輩たちの体験談を直接聞くことのできる本科目「大学と社会」は、学生が自分のキャリアを思い描くためのロールモデルに出会ったり、現在取り組んでいる勉強をより広い社会的文脈の中に位置づけてモチベーションを高めたりする上で、大変効果的なのではないでしょうか。