人とコミュニケーションし、人間社会の中で共存するロボットを作りたい。そう語るのは、今回お話をうかがった小野哲雄さん(情報科学研究科 教授)です。
小野さんの研究は、「人とコミュニケーションするロボット」ではなく、「ロボットとコミュニケーションする人」に焦点を当てます。そこから見えてきたのは、私たちも十分には知らない、私たち自身のことでした。ロボット研究者の小野さんの目から見える、人間の姿に迫りました。
【田中泰生・CoSTEP本科生/農学院修士1年】
どのような研究をしているのですか?
私の研究の目標は、「社会参加型」のロボットを作ることです。人間とコミュニケーションし、人間社会の中で共存するロボットを作りたいんです。
社会参加型のロボットを作るのは簡単ではありません。なぜなら、ロボットが目の前の人間の意図を理解しなければならないからです。そのうえで、刻々と変化する環境に合わせてロボット自身が臨機応変に行動しなければなりません。
それを考えると、人間はよく互いにコミュニケーションをとれるなと、感心してしまいます。社会参加型のロボットを作るためには、人間がどのようにしてコミュニケーションをとっているのかを理解する必要があります。
人間のコミュニケーションを理解する、とはどういうことでしょう
例として、ロボビー(Robovie-R)を使った研究を紹介しましょう。ロボビーは一般に販売されているロボットで、人間とロボットのコミュニケーション研究のためによく使われています。
(小野さんも開発に携わった、ロボットプラットフォーム Robovie-R)
道案内という場面を考えてみてください。人間同士が道案内をする様子を観察してみると、決して言葉だけで道案内をしているわけではないことがわかります。教える人が「こう行って、あっちに曲がって…。」と動きを交えたりアイコンタクトをして教えるのと同時に、教わる側はそれをなぞるように真似る動きをするのです。実はこの、情報を発する側と受けとる側に生まれる同調した動き、というのがとても大事なんです。
この動きを、ロボビーにも応用して実験してみました。音声だけの場合と、音声にジェスチャーを交える場合とで、人間を相手に道案内をしてもらいました。その結果、ジェスチャーを交えた場合の方がより正確に道順が伝わったのです。面白いことに、ロボビーにジェスチャーを交えて道案内をしてもらったとき、道を教えてもらった人間はロボビーの動きを真似たり視線を追いかけたりしていました。人間同士の道案内で見られる現象と同じことが、人とロボットの間にも起こったのですね。
この実験では、情報伝達における同調した動きの重要性に着目したことで、ロボットに道案内をさせることに成功しました。けれどもこれはまだまだ小さな一歩です。最終的には鉄腕アトムみたいなロボットを作りたいんですが、それはまだまだ遠い未来になりそうです(笑)。
ロボットそのものより、人間に焦点を当てた研究という印象を受けました
そうですね。私は、学部時代は心理学を、大学院時代は情報科学を専攻していたんです。その後、人間や自分自身を、ロボットを通して知りたいと思い、今の研究に進みました。実は、私のように人間を知りたいという理由でロボットを研究するという人は多いんですよ。
ロボットを研究することで、人間らしさとは何かを知るということですね
その通りです。たとえば私が遠隔操作をしているロボットが誰かに触られたとき、まるで自分が触られたかのような妙な感覚を覚えたことがあるんです。こうした違和感を覚えたときに、人間らしさのひとつに触れた気がします。
同じ感覚は、人間同士の間にも感じられると思います。たとえば、自分の部下が他の人に叱られているのを見たとします。このとき、叱られているのは部下なのに、なんだか自分が叱られているような違和感を感じることがあるかと思います。あの感覚に近いんじゃないでしょうか。
自分がコントロールしているものであれば、それが部下であってもロボットであっても、自分のことのように感じてしまうものなんだと思います。
(小野さんも共同研究に参加している、肩のりロボットTEROOS。遠隔地の相手と視線を共有できる)
この違和感が何なのかという議論は、最終的には哲学的な方向に向かいがちですが、それだけでは物足りません。ロボットを使うことで、この問題に実証的にアプローチすることが可能になるでしょう。もちろん、人間同士のコミュニケーションを対象に観察や実験を行うことも大事ですが、その場合、性格などの個人差が実験に影響を及ぼしてしまうことが問題です。ロボットを用いることで、そういった影響を除いて検証することができるのです。
先生の想像する、ロボットが社会参加する未来図とは?
ロボットの2045年問題というものがあります。このままロボットが進化していくと、2045年にはロボットの知能が人間の知能を超えてしまうと予想されています。そのとき人間は、ロボットが考えていることを理解できなくなるかもしれないのです。
コミュニケーションの過程で誰かの行動や思考が人から人へと伝わり、遂には社会全体にまで影響を及ぼすということがありますね。もし、そんな影響を与える存在に高知能なロボットが加わるとするとどうでしょう。人間の理解が追い付かないのを尻目に、気付けばロボットが社会を変えているといった未来がやってくるかもしれません。
ロボットが暴走しないための「ロボット3原則」というものがありますね
「人間に危害を加えてはならない」「人間に従わなければならない」「自己を守らなければならない」という、SF小説作家のアシモフが示した3原則ですね。4つ目の原則を足すとしたら?ううん、難しいな。それこそ、ロボットに考えてもらうのが一番なんじゃないかな(笑)
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小野先生がお話しするイベントが開催されます。
当日はロボビーもやってきます。ぜひご参加ください。
北大アーティストカフェ ロボットの中のヒト~人間らしさを組み立てる~
日時: 2014年9月4日 18:00~19:30
場所: 札幌駅前通地下歩行空間北3条交差点広場(西)
参加費無料・事前申し込み不要
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