2007年に工学研究科博士課程を修了し、日本エリーズマグネチックス(株)で営業職を務める堀邦紘さんをご紹介します。
爽やかで、自然体の堀さん。今回は、学部一年生向けの授業にゲスト講師としてお招きし、「ターニングポイントへの気づき」と題してお話いただいたのですが、ご自身のこれまでに至る人生のターニングポイントを、学生時代の恋愛も含むプライベートなエピソードや失敗体験などを例にしながら非常にオープンに、具体的にお話し頂き、教室に集まった学生たちは大変熱心に耳を傾けていました。
学部生時代
まずいきなり、高校時代に彼女ができたというお話から始まり、学生も興味津々でした。しかし当時の堀さんは、純情だったので何をしていいのか分からず、全く進展がなかったそうです。相手の女性の気持ちを汲み取ることができず、失敗したエピソードなども率直に話していただきました。
その後早稲田大学に合格し、環境資源学科に進みました。ところが、早稲田大学に医学部はないのにも関わらず、ご両親にいきなり「医者になれ」と言われて困った堀さん。考えたあげく、環境資源学科で学ぶ学生として、「俺は地球の医者になる!」と答えたそうです。
大学時代、学業だけではなく、堀さんは弓道やピアノ、旅行、麻雀、ウェブサイト制作、マジックなど様々な趣味も楽しんでいました。ウェブサイトはアフィリエイトで収入を得るところまで成功していたそうです。またマジックは、社会人になってからも宴会芸に使えるので重宝しているとのこと。
さらにゲームにも凝っていて、単にプレイヤーとして楽しむだけではなく、自分でオリジナルなゲームを作ったりもしていたそうです。その時にゲームを通じて知り合った女性が、今の奥様だということです。
麻雀については、会社の上司が打てないので、取引先と麻雀を行う際には自分が代打ちに行き、その場で商談まで行っているそうです。
このように、学生時代に熱中した趣味がそれぞれ、今振り返ってみると様々な形で役に立っているとのことでした。
北海道大学の大学院を受験
堀さんは学部時代に研究室に配属されたのですが、(堀さんの言葉を借りれば)あまりに研究をしないので研究室をクビになってしまいました。さてどうしようか、と考えた末、北海道大学の大学院工学研究科を受験しました。
他大学から大学院に移るには、ふつうは受け入れ先の教授に面談するものです。しかし当時の堀さんはそんなことも知らず、いきなり願書をだしてしまいました。受け入れ予定の北海道大学の教授が、早稲田大学の先生に「これはどういうことか」と問い合わせをしたりするなど一騒動あったそうですが、指導教官ではない早稲田大学の別の教授が頼み込んでくれたおかげで受験できることになり、晴れて合格しました。
大学院時代
堀さんは、自分の得意分野などを考慮して実験系の資源再生工学研究室に進みました。どの研究テーマを選ぶかはまさに人生のターニングポイントになります。
一方ここでも研究以外の話に熱がこもり、合コンの話が出てきました。堀さん曰く、合コンに行くとコミュニケーション能力が上がるので非常に役に立つお勧めの経験だとのことです。しかし堀さん自身は、その合コンで相手の気持ちをうまく察することができず、失敗したとのこと。
また大学院生として、「若手の会」の幹事になりました。堀さんは最初、正論を主張して相手を説得しようとしてさっぱりうまくいかなかったのですが、夜、一緒にお酒を飲んだところあっさり理解し合うことができ、「一緒に酒を飲むこと」の重要性を実感したそうです。研究室の教授にその顛末を報告すると「社会に出たら大事なことはみな夜に決まる」と言われたとのこと。重要な人と会って腹を割って話せるのは大体夜、食事している時だとのお話がありました。
キャリアチェンジ
堀さんは博士号を取得しましたが、そのまま研究職に就くのではなく、民間企業に就職しました。それも、営業職としてです。就職活動の時堀さんは、会社の知名度などではなく、今まで自分のやってきたことにいかにマッチするかという点を重視して就職先の決断をしたそうです。今ふりかえっても、よい決断だったとのこと。理工系の博士号を取って営業職についている人間は極めて少ないので、自分の強みになっているそうです。
学生との質疑応答
お話が面白かったため、学生からの質問も多数ありました。その中の一部をご紹介します。
Q:外資系と日本の企業の違いは?
A:外資系は年功序列、実力主義、年俸制だと一括りにしていわれたりするが、実は外資系かどうかよりも一つ一つの会社ごとの違いのほうが大きい。
Q:ほかの大学への進学に興味があるのだが、もしも堀さんが学部時代に戻れるとしたらどうするか?
A:戻れるなら、卒業論文をがんばる。
Q:本日は甘酸っぱい数々のお話をありがとうございました。僕の場合は、決断に自信を持てないのですが、どうしたらいいでしょうか?
A:人生のターニングポイントでどう決断するかは非常に大切。かといって、具体的にどうすればよいかはケースバイケースなので正解はない。自分は「とにかく悩みぬく」ことが大事だと思っている。とはいっても単に迷ってずるずる結論を引き延ばすのではなく、自分の悩みや迷いを整理するために、目の前のいくつかの選択肢のメリット、デメリットを具体化、細分化して列挙していくとよい。さらに、自分一人で考えるのではなく、色々な人に相談しながら考えをまとめていくとよい。
Q:博士号をとって仕事に就いたことのメリットは?
A:営業先、取引先の相手が、自分が博士号を持っていることに期待して、技術的なことがらをいろいろ突っ込んで聞いてくれる。
Q:悩み続けるためのエネルギーの補給源、ストレスの解消法は?
A:とにかくおいしいものを食べまくる。自分の場合ポップコーンを食べる。ハニーマスタードがよい。ポテチはプリングルスのサワークリーム。
Q:ゲームをきっかけに彼女ができたというのはどういうことでしょうか?
A:大学で、ゲームサークルに入っていた。テーブルトークRPG(ロールプレイングゲーム)をやっていた。そこで彼女と出会い、結婚に至った。
Q:日々努力していること、心がけていることは何か?
A:まずは妻の機嫌を損ねないこと。実は、日々努力というほどのことはしていなくて、気になることを片付けるので精いっぱい。ただ、それを日々続けていると習慣になる。他には、仕事の段取りを頭に入れながら効率的に動くことを心がけている。
Q:大学院終了後、大学に残るという選択肢はなかったのか?
A:研究者を目指すか、民間企業でそれ以外の仕事をするかを決めるとき、早稲田のことを思い出した。クビ宣言をしてくれた早稲田の教授には実はすごく感謝している。北大の大学院の指導教官に、「研究職とは全く違う分野で、しかも自分の専門を活かせて、社会の風に当たることができるような場所はないか」と相談したところ、小さい会社で何でもできるようなところを紹介してもらった。組織が大きくないため一人ひとりの社員に与えられる権限が大きく、そのことに満足している。
Q:自分のした決断をふりかえって後悔することはあるか?
A:別の決断をしていたら、と想像することはあるが、そちらのほうがよかったとは絶対思わない。今がよくないからと言って、別の選択のほうがよかったとは限らない。過去に分岐して消えっていった将来の可能性よりも、今の現実の状態のほうが悪いのではないか、という思考はおかしいのではないか。何か、騙されていると思う。
堀さん、魅力的なお話をありがとうございました。
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堀さんがゲスト講師として招かれた講義は、全学教育科目の「大学と社会」(木曜日5講目)です。次回は11月27日、講師は獣医学部卒(1981年)の石井亮一さん(釧路地区農業共済組合事業部部長)です。