木材というと何を思い浮かべるでしょうか。古民家、伝統工芸品、家具…。少し古めかしいものを想像する方もいるかもしれません。ですが、木材は実は新しい素材の原料として注目されています。今回は、木材に含まれる「リグニン」という物質に注目して研究されている幸田圭一さん(農学研究院 准教授)にお話しを伺いました。
【山崎正太郎・CoSTEP19期本科生/文学院】
木材の新たな使い道
幸田さんの研究は、木材の物質の特性を活かした新しい利用方法を考える、というものです。木材などの一部のバイオマス資源は、エネルギーとしてもマテリアルとしても利用できるという特徴を持ちます。特に木材は、人間が食用にしないことから、食料としての利用と競合しません。このような優れた資源である木材ですが、利用の現状に目を向けると、大半を燃料として燃やしているという事実があります。燃料として利用する場合、燃やせさえすればよいため、木材に付加価値がうまれにくく、卸値も安定しません。森林を維持するために欠かせないはずの林業にも影響してしまうのです。
このような木材利用や林業をめぐる状況を打開するには、木材の優れた特性を活かした新しい使い方を生み出すことが必要になります。そこで、幸田さんは、木材のさまざまな特性の中でも、樹木を構成する物質のひとつである「リグニン」に注目し、リグニンを活用した新しい材料開発に取り組んでいます。
注目の物質「リグニン」
幸田さんが注目する「リグニン」とは、どのような物質なのでしょうか。リグニンは樹木の細胞壁を構成する成分のひとつで、樹木の細胞と細胞をくっつける、いわば接着剤のような役割を持っています。樹木の細胞壁を構成する成分は、リグニンのほかにパルプの原料となるセルロースがあります。木材利用という視点からみた場合、セルロースは紙や歯磨き粉などへ活用されていますが、その一方でリグニンは、燃焼させて熱回収するといった用途での利用が主になっています。
今は燃やしてしまうというリグニンですが、リグニンの物質の特性に注目するとどのような活用ができるのでしょうか。ここでは、リグニンの可能性の1つとして、石油由来の資源を使わない、木の接着剤としての活用を紹介します。例えば、軽くて持ち運びしやすく、スピーカーの材料としても使われるパーティクルボードは、木の細片を接着剤で固めて作られます。ここで使用する接着剤は、現在は石油由来の成分が使われるのが一般的です。これを、リグニンを活用した接着剤に置き換えることができれば、樹木由来の成分だけでパーティクルボードが作れるようになります。リグニンがいずれは枯渇する石油資源を代替する救世主になるかもしれません。
また、リグニンを活用した接着剤の活躍の場として幸田さんが注目するのが、きのこ工場です。きのこの栽培にはおがくずから作られる菌床を使いますが、菌床は何度も繰り返し使うものではなく、定期的に廃棄します。その廃棄の際に、ただ置いておくだけではおがくずが風に舞い、病原菌が拡散するリスクがあります。リグニンを活用した接着剤でおがくずを固めることができれば、きのこ工場の課題解決にも貢献できるのです。
「天然高分子最後の秘境」に臨む
さまざまな活用方法が研究されるリグニンですが、実は謎に包まれた物質でもあります。というのも、非常に複雑な構造を持ち、ランダムに結合することから、構造そのものが完全に解明されたわけではありません。それゆえ、リグニン研究は「天然高分子最後の秘境」ともいえます。
そんな「秘境」に臨む幸田先生の研究人生はどのようなものでしょうか。始まりは大学生の時にまで遡ります。「わからないことがたくさんある」ことに惹かれ、木材化学の世界、さらにはリグニンを研究する道へと進んだのだそう。今後の目標は、リグニンの研究の成果をきっかけとして木材に付加価値をつけ、林業の振興に役立ててもらうことだといいます。
ウイスキーと、これからの林業
2024年9月20日(金)のサイエンス・カフェ札幌「ウイスキーと、これからの林業。~お木遣い感謝いたします~」では、幸田さんをゲストにお迎えし、林業とウイスキーの意外で深い関係についてお話しいただきます。ウイスキーの香りや味わいにはリグニンなどの木材に含まれる成分が深く関係しています。実はご自身も大のウイスキー好きだという幸田さん。ウイスキーを片手に、これからの林業について考えてみませんか?
*本イベントの申し込みは定員に達したので締め切りましたが、後日、カフェの様子は動画で配信します。
【タイトル】ウイスキーと、これからの林業。~お木遣い感謝いたします~
【日 時】24年9月20日(金) 18:30~20:00(開場18:00)
【場 所】北海道大学遠友学舎
【主 催】北海道大学 CoSTEP
【定 員】40名(要申し込み、先着順)
【参 加 費】1000円(ウイスキーの試飲・おつまみ付き)
【詳 細】https://costep.open-ed.hokudai.ac.jp/event/30921