ところ変わって、北十八条のラーメン屋、大将。私と蓮子、それに木滝教授と熊野氏は、そこでボックス席に座っていた。木滝教授と熊野氏、蓮子の前には当然のように肉チャーハン。さすがに夜中に肉チャーを食べる元気のない私は格安の学生ラーメンである。
デザイン: EO,小説: 浅木原忍『クラーク博士は一切動ぜず』(2015, p9)
第32回「物語の中の北大」で紹介するのは、北大生なら誰もが知るラーメン大将を描写する一節です。相対性心理学という怪しげな学問を修めんとするマエリベリー・ハーン(文学部1年)と、彼女を引っ張りまわす宇佐見蓮子(理学部1年)は、オカルトサークル秘封倶楽部の活動として、雪深いキャンパスに出回っている妙な噂話を解明しようとします。そしてなんのかんのすったもんだの末、やってきたのが大将、というシーンです。
ラーメン大将は北大生の心象風景の中で一種重要な位置を占めているのは間違いありません。大将は「物語の中の北大」第2回で紹介した朝井リョウ作『死にがいを求めて生きているの』(中央公論社2022)にも肉チャーとともに登場します。このことからも看板メニューはやはり肉チャーと言えますが、学生ラーメンの他にも1番、2番、3番・・・といったメニューもあり、常連の皆さんにはそれぞれ好みと思い入れがあることでしょう。
作者の浅木原さんは北大文学部出身です。本作ではラーメン大将北18条店の他に、北18条駅、駅からキャンパスまでの道のり、教養棟、北部食堂、文学部棟、クラーク像なども登場しています。本作はいわゆる同人作品で、同人ならではのノリとディティールが楽しめます。これまで「物語の中の北大」では商業出版された作家の作品だけ紹介してきましたが、こういった同人作品や学生による文芸作品も、北大という大きな物語をつむいでいる欠くべからざる断章のひとつです。