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#220「流域」から考える自然と地域

科学技術コミュニケーションを学ぶCoSTEP21期「本科対話の場の創造」実習班では、YAMAP流域地図を用いて「流域」をテーマとした動画作成を行いました。

動画では河川の専門家である山田朋人さん(北海道大学工学研究院 教授)先生をお招きして、様々なお話を伺いました。この記事では、時間の都合上動画で扱いきれなかった内容も含めて、流域から考える自然と地域について紹介していきます。

工学×流域

工学とは、科学が人々にどう関わり、どうすれば私たちの生活が豊かになるかを考える分野です。山田さんは工学の中でも、川の流れや水の循環について研究しています。雨や雪として地上に降り注いだ水が川に流れ、最終的に海に出ていく、その水の循環は私たちの生活に大きく関わることです。

雨や雪として大地に降り注いだ水は川に注ぎ、海へ流れ出ます。降った雨や雪が一つの川に集まる範囲のことを、その川の「流域」といいます。流域については山田さんの弟子である「おおやさん」が出演している動画で詳しく解説していますので、こちらも是非あわせてご覧ください。

流域から考える北海道の歴史と生活

様々な歴史を経てきた石狩川

石狩川という名前は、アイヌ語で「大きく曲がった川」を意味する言葉に由来します。しかし、現在の石狩川を見ると、それほど曲がった形はしていません。石狩川では、明治時代から大規模な治水工事が行われてきたのです。

明治時代に多くの人々が札幌に移り住んだ時、最大の悩みは洪水でした。様々な作物、特にお米を作りたかったものの、水が溢れて農業ができる状態ではありませんでした。そのため、曲がった部分をショートカットすることで川を短くする治水工事が行われました。これにより、降った雨をいち早く海まで流すことができ、地下水位も下がり、田んぼや畑の利用価値も上がりました。

このような治水工事によって、石狩川は60~80 kmほど短くなり、現在の長さ(268 km)になりました。石狩川周辺に見られる「三日月湖」は、蛇行した川を真っすぐにした名残です。一部の三日月湖は、洪水時に水を蓄えて川の水の量を調整する役割も担っています。

石狩川本流のショートカット以外にも工夫があります。所々に見える真っすぐな形状の川、例えば図中の篠津運河などは、周辺地域の水を排水するために作られたものです。また、砂川オアシスパークのように、水を少し貯めながら地域でふれあえるような場所もあります。自然環境を意識できるような場所が点在しているのも石狩川流域の特徴です。

石狩川の本流沿いにある篠津運河と三日月湖

茨戸川は以前、石狩川の水位が高くなると水が逆流し、氾濫していました。そこで、水を逃がすために茨戸川から石狩湾に抜ける「石狩放水路」が作られました。この石狩放水路は、完成直前に洪水が起こった際に緊急で水を通した歴史があり、大きな効果がありました。完成後には、茨戸川の水位が大きく低下しました。

茨戸川と、その途中から日本海へ注ぐ石狩放水路

新川は新しい川?

石狩川流域は非常に広大で、その範囲は札幌から旭川までに至ります。しかし、札幌の一部地域は「新川流域」と呼ばれる別の流域に含まれています。新しい川、とある通り人工的に作られた川です。なぜこんなところに川を作る必要があったのでしょうか?

地図を見ると、新川の成り立ちがおのずと見えてきます。地図を見ると、札幌の西の方にある手稲山に降り注いだ雨や雪は、山間をつたって麓まで下りてきます(水色の矢印)。すると、手稲と石狩川の間の低くて平らな場所は、水が溜まりやすいと想像できます。この地域の水を早く日本海に流そうと作られたのが新川だったのです。

新川流域での大まかな水の流れ(動画より)

畑作の石狩川・酪農の十勝川

道内で石狩川に次いで流域面積が広いのが、十勝川です。石狩川流域は稲作が栄えており、日本有数の米どころになっているのに対して、十勝川流域では酪農や畑作が栄えています。

YAMAP流域地図で見る石狩川流域(左)と十勝川流域(右)

十勝川流域の特徴は、農業の姿に色濃く表れていると、山田先生は語ります。十勝川は、川のあるところが浸食によって低くえぐられ、その外側に人々の生活圏がやや高い位置で広がっています。このため、水をくみ上げて利用する必要があり、土地も全体として乾きやすい傾向があります。このため、石狩川流域のような稲作ではなく、酪農や畑作が発達してきました。

地域の川との関わりの中で、その土地の生活が成り立っています。そのため、川の性質に注目することで、そこに住む人々の生活が見えてくるのです。

北海道民は雪で出来ている

山田さんは、雪が北海道の水の供給に大きく貢献していると語ります。

札幌市の水道水のほとんどは豊平川を水源としています。ダムなどがない場合、降った雨はしばらくすると川から流れていきます。しかし豊平川の場合は、上流の山に雪が積もることで、水は雪という形である程度長期間上流にとどまります。水を貯えるはたらきがあることから、雪は「天然のダム」と呼ばれることもあります。雪の降らない地域では水が不足し、節水が呼びかけられることもありますが、冬に雪が豊富な札幌は、「天然のダム」が貯えた水が少しづつ流れるため、水が不足する可能性が低いのです。

雪や雨などで地上に降り注ぐ水の量を降水量といいます。そのため、北海道の降水量の一部は雪依存であり、とりわけ札幌の降水量のおよそ半分は雪によるものです。水は人間の体を構成する主要な物質であるため、「北海道民は雪で出来ている」といってもいいのかもしれません。

川は動いている

川はいつも同じところを流れている。私たちの感覚だとそれが当たり前のように思われます。しかし、山田さんによると、豊平川はこれまでに何度か「流れを変えてきた」川だといいます。

現在、豊平川は札幌の南側を流れたのち、石狩川に合流していますが、その流路は昔から同じではありませんでした。平らな土地を流れる川では、洪水によって運ばれた土砂の影響で流れが変わることがあります。豊平川も例外ではなく、これまでに何度か流路を変えてきました。実際、石狩川へ注ぐ経路は現在のものを含めて3通りほどありました。いくつかの案が検討され、最終的に現在の流路が選ばれたのです。

豊平川の捷水路計画(札幌河川事務所 豊平川の治水と流域の変遷(豊平川捷水路)より)

札幌を支える2つのダム

水資源を支えるうえでは、天然のダムだけではなく、人工のダムも大きな役割を果たしています。豊平川の上流には、豊平峡ダムと定山渓ダムの2つの巨大ダムがあります。温泉地としても知られるこの2か所は、地図上では近接していますが、どちらも重要な役割を果たしています。この2つのダムは、斜面の性質などから、雪の積もりやすさなどが微妙に違うそうです。

40年ほど前、札幌の人口がさらに増加すると見込まれた時期に、200万人規模の都市を安定して支えるために2つのダムが必要だと判断されました。大雨などの際に少なくとも一方が水や雪を溜めることができ、下流に暮らす市民の安全につながると考えられたのです。

ダムの役割は貯水だけではありません。洪水を防ぐ「治水」、飲料水・農業用水・発電などに使う「利水」、生態系を守る「環境」という三つの柱をバランスよく担っています。札幌という大都市を支えながら自然環境とも共存する、そのための知恵と工夫が、2つのダムには詰まっています。

災害立国日本

様々な自然災害を克服しながら発展してきた日本は、その経験を日常に活かしたり、海外に貢献したりすることができると山田さんは語ります。日本はどのようにして自然災害を克服してきたのでしょうか。また、私たちは今後何を考えながら生きていけばいいのでしょうか?

過去を見て未来を予測する

気候変動が進むにつれ、大雨のリスクは確実に高まっています。山田さんは「閾値をどこに置くか」という問いを軸に、防災の考え方を語りました。

ここでいう閾値とは、それを超えると災害が起こる基準や境界のことです。例えば堤防の高さは、過去の大雨データと発生頻度をもとにして、安全に水を流せる高さが設定されます。「怖いから」と基準を厳しくしすぎれば莫大なコストがかかり、甘く見積もれば災害を招きます。「自然の脅威は私たちの想像を数倍、時に10倍超えることがある。強めに考えておくことが大切です」と山田さんは警鐘を鳴らします。

さらに重要なのが、過去のデータだけを見るのではなく、それを基にしてシミュレーションを行い、未来のことを考えることです。山田さんは地球規模の水循環シミュレーションを行い、北海道の将来の降水変化を予測しています。個人から行政まで一歩踏み出す判断材料を提供することが、山田さんの研究の目指すところです。北海道から世界へ、水との賢い付き合い方を模索する挑戦が続いています。

札幌で安全な場所は?

自分の住む地域がどれだけ水害の危険があるか、まずは知ることから始めるのが大切です。YAMAP流域地図に備わるハザードマップ機能は、その第一歩として活用できるツールのひとつです。

ハザードマップとは、近隣の川が溢れた場合に各地点で最大どのくらい浸水するかを一枚にまとめた地図です。ただし、それだけで安心するのは禁物だと山田さんは言います。「違うパターンの大雨がやってくることもあります。一種類のマップだけでなく、複数を確認することが望ましいです。」

特に意識してほしいのが、水害の2つの種類です。ひとつは「外水氾濫」、川の水が堤防を越えて、あるいは堤防を破壊して一気に押し寄せてくるものです。もうひとつが「内水氾濫」で、街に降った雨が川にうまく流れ込めず、じわじわと溜まっていくタイプです。「実際には内水氾濫が先に起きることが多い。それぞれに対応したハザードマップを見比べながら、自分の地域の危険度を感じ取ってほしい」と山田さんは話します。

YAMAP流域地図のハザードマップで見る札幌

実際にハザードマップで札幌を見てみると、ほとんどの場所が浸水することがわかります。また、山の方は土砂災害の危険を示すピンク色が多いことがわかります。さらに、上流の山で激しい雨が降れば、下流にいても大きな影響を受けます。山田さんは「水害は目の前の雨だけではなく、山の上からの影響も受けるので、上流の状況にも日頃から目を向ける習慣を持ってほしい」と強調しました。流域の視点は洪水の危険を理解するためにも重要なのです。

札幌の地形を感じる

動画の上映会のため山田さんの研究室を訪問した際に、札幌のプロジェクションマッピングを見せていただきました。札幌の地形を再現したボード上に札幌の地図が投影され、どこが低くなっているか、どこに水が溜まりやすいかが、見たり触ったりすることで感覚的にわかる仕掛けになっていました。また、時間とともに浸水する範囲がどう広がるかを見ることもでき、防災や避難について話し合う際のツールとして役立てられています。

プロジェクションマッピングの様子

水害と共生する

そもそも浸水する地域を避けて高台に住めば良いのでは?と思う方もいるかもしれません。しかし、日本のみならずアジア地域では、人が住むことができる地域の7~8割が低平地だと言われています。また、洪水が養分を運んでくるため、土地が肥沃であるのも大きな特徴です。アジア地域では、水害と上手く付き合いながら生きていく必要があります。

また、水は人が生きるうえで欠かせないものです。水資源が枯渇すると、人々は最終的に地下水を求めるようになります。すると、土の粒子の間に入っている水が抜けてスカスカになり、地盤が圧力に耐えきれずに沈んでしまいます。最悪の場合、地中の水道管などが破損し、取り返しのつかない状態になってしまうこともあります。

流域で“感じる”自然と地域

山田さんにとって流域は、「文化や歴史などのいろいろなものが渾然一体となった一つの塊」なのだそうです。市町村などの人間が作った分け方ではなく、自然が作り出した地形に基づいてものを見ると、私たちの生活が自然に根付いているのだと感じることができます。

流域という視点で探ることで、まだまだ私たちの気づいていないこと、見えていないことがわかってくるのかもしれません。

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2026.04.14

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