「理学部図書室と他の図書館・図書室との違いは何か?」 常々そんな疑問を持っていた私は、7月の最終日、総合博物館西手の理学部6号館1階にある理学部図書室へ取材に行きました。今回、理学・生命科学事務部図書担当として働いていらっしゃる磯本善男さんにインタビューし、理学部図書室のサービスについてお話をうかがいました。
【平山悟史・生命科学院博士後期課程2年・2015年度CoSTEP受講生】
(磯本善男さん)
知られざる理学部図書室の歴史
理学部図書室の成り立ちについて質問している時に磯本さんが取り出されたのが、『北大理学部五十年史』という書籍でした。この本によると理学部図書室が最初にあった場所は、現在は北大総合博物館となっている理学部本館の中2階、中3階だったようです。そこから現在の場所に移ってきたのが、2002年(平成14年)とのことでした。
現在の場所は元々図書室のスペースとして設計されていたのではなく、移設の際に他に場所がなく、廊下等があった場所に設置されたということのようです。2階の書庫には、それまで廊下として使われていた名残が見られるかもしれませんね。
(『北大理学部五十年史』を手にする磯本さん)
理学部図書室の仕事
理学部図書室で提供しているサービスは、基本的に附属図書館本館が提供しているものと同じです。ただし、利用者の多くが理学部や生命科学院に在籍している学生や教員で、専門書の貸し出しや保管を行ったり、ILLサービスとして文献を取り寄せたりしています。
なかでも磯本さんが「便利なのに使われていない」と残念がるのは、さまざまな文献情報にアクセスできる各種データベースです。
(附属図書館が提供しているデータベースのページ
http://www.lib.hokudai.ac.jp/databases/)
論文だけではなく書誌や特許など、データベースから取得できる情報は膨大です。特に、JDreamⅢや化学書資料館、理科年表プレミアムなどは、学部の学生にももっと活用してほしいデータベースだそうです。「今はgoogleのような検索サイトでも必要な情報は探せますが、すべての情報がオープンになっている訳ではありません」と磯本さんは言います。「学生は無料で利用できるので、是非、図書館のホームページから利用していただければ、と思います。」
大学附属図書館員として
「私が長年興味を持っていることは、学術情報全般の流通についてです」と語る磯本さん。理工系では書籍よりも論文雑誌の方が重要性が高いというのが常識です。加えて、海外の学術雑誌の価格は年々上がってきています。そういった状況の中で図書館員が注力しなければならないこととは何でしょうか。
「論文やその他の学術情報を円滑にお届けするのが図書館の使命だと思っています。そのためには、理学部図書室だけではもちろん、北大の図書館だけでも対応できないので、全国の図書館で問題に取り組んでいかなければならないと考えています。」
学術情報のスムーズな流通の実現に本気で取り組んでいこうという磯本さんの熱意が、ひしひしと伝わってきました。
(図書館の未来を熱く語ります)
図書館と科学技術コミュニケーションとの共通点
今回のインタビューでは、学術情報を必要な人にいかに届けるかということに焦点をあてました。必要な情報を人に届けることは科学技術コミュニケーションでも非常に重要なことであり、課題としていることが似ていると感じました。
「現代は情報の検索機能がとても向上しているので、誰でも簡単に情報を手に入れることができます。けれども、情報の実体にたどり着けないことが頻繁にあるんです。それを何とかできないかといつも考えています。」
科学技術コミュニケーションを学ぶ私も、正しい一次情報をいかに正確に人に伝えられるかを考える良い機会となりました。
最後に磯本さんはCoSTEPとの意外な関わりを語ってくださいました。「私は北大の1年生の時、当時北図書館の館長だった杉山先生(杉山滋郎理学研究院特任教授:CoSTEP初代代表)の授業を受けました。その時に、当時学部学生は入れなかった図書館の書庫を見学させてもらい、とても感動しました」とのこと。それが図書館で働くきっかけの一つになったといいます。
インタビュー後に北大のウェブサイトを見ると、前日に平成26年度の学生アンケートによるエクセレント・ティーチャーズが発表されていました。その中に杉山先生の名前があり、今でも新入生向けの授業の中で附属図書館の書庫ツアーを実施していることが分かりました。知識を伝えるだけにとどまらず、魅力も伝えて人に影響を与えることは、科学技術コミュニケーションの重要な一面であることを強く意識することができました。
磯本さん、貴重なお話をしていただき、本当にありがとうございました。
(インタビュー後、書架の前での記念撮影)
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この記事は、平山悟史さん(生命科学院博士後期課程2年・2015年度CoSTEP受講生)が、CoSTEPの「図書館取材選択実習」(2015年度)を通じて制作した作品です。
次回は10月20日に「#88 新しいことをやっている楽しさ ~北海道大学発の研究成果を発信する HUSCAP これまでの10年とこれから~」を掲載予定です。