はじめに
2016年7月、北海道大学 高等教育推進機構 オープンエデュケーションセンター 科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)の「図書館取材実習」に参加した2名の受講生が、北海道大学附属図書館への取材を行いました。取材のテーマは「図書館の科学技術コミュニケーション機能」「知のメディアとしての図書館」です。北海道大学の教育と研究を下支えしている図書館職員の方々は、どのようなことを考えながら、どんな仕事をしているのでしょうか。二回にわたってレポートを連載します。
インターネットに代表される情報技術は、図書館の活動やサービスに大きな変化をもたらしています。デジタルコンテンツが学生の学習や研究活動、情報収集の方法に大きな影響を与え、図書館の役割や機能も大きく様変わりしています。今回は、工学部中央図書室で、工学部中央図書担当係長の中村陽さん、本館システム管理担当係長の梶原茂寿さんに、図書室の役割やサービスについてうかがいました。
【古澤正三・社会人・2016年度CoSTEP受講生】
学生に親しまれる図書室
2007年まで工学部には10の図書室がありました。その後、いくつかの図書室が中央図書室に統合されました。現在、工学部には中央図書室、材料化学部門図書室、情報科学研究科図書室の3つの図書室があります。中村さんは、このうちの中央図書室に、今年4月に配属になりました。それまでは、外国のデータベースなど、外部との契約や会計の仕事をされていました。窓口業務に変わり、仕事内容も一変したそうです。
(中村 陽さん)
(2007年の工学部図書室)
入り口正面にあるカウンターのすぐ隣に、新刊図書の棚があります。中村さんは「図書室に来ると常に新しい本があるという、ささやかなことですが、そういうところが学生さんにたくさん来てもらうために大事だと思っています。工学部は規模が大きいので図書室の利用者も多いです。他の図書館でも同じだと思いますが、工学部図書室では常に新しい本を購入することを心がけています。工学部の専門的な本もあるので、そこは漏れがないように職員が熱心に選書しています」と教えてくれました。利用している学生さんからは、気軽に「図書室」と呼び親しまれていると、中村さんはうれしそうに話してくれました。
(力を入れている特集本コーナー)
変化する「大学図書館の使命」
中村さんは「大学の図書館の使命は、大学の教育、研究、社会貢献を支えることです。大学の使命は常に変化が激しいのでそれに当然、大学図書館も対応していく必要があります」と語ります。大学に期待される役割は教育と研究だけではなく、地域社会などへの社会貢献も求められていること、そして、それを図書館が支えていることを知りました。
利用者が必要とする資料を充実させることは重要です。しかし、資料を置くスペースは限られています。古い資料で大事なものは保管し、一方で学内に同じものが何冊もあり、利用も減っているような資料は整理することも、重要な仕事になっています。
この本の仕分け作業を中村さんが担っています。中村さんは「今の資料をもう一度見直し、いるものといらないものをしっかりと仕分けをします。ある程度は機械的にやりますが、最終的には1点1点の確認になります。その上で責任を持って研究室の大事な資料を引き受けています。まさしく、今やっている仕事です。」と教えてくれました。この作業1サイクルに5カ月もかかります。通常は1年に1回の作業ですが、今年は工学部の工事の関係もあり、2サイクル行うそうです。
次世代の図書館サービスに向けて
情報技術の発展や電子ブックの導入でこれまでの図書室利用の評価にも変化が起こるかもしれません。
印刷物から電子ブックのようなデジタルコンテンツへ書籍が変化するのにともない、その使い方も変わってきています。今のところ、北海道大学全体では電子ブックの導入に明確な方針はないそうですが、工学部図書室では電子ブックの導入が早く進む可能性があると中村さんは考えています。
電子ブックの場合、長期間借りるというより、必要なときに必要なところを読む読書スタイルが多くなるようです。工学部図書室では、辞書類のほか、専門書のうち通読するようなものではなく、必要なところを調べて読むような種類の本について導入が進んでいるそうです。このような電子ブックを中村さんは「どう使ってもらうかが課題です。どうPRしたものかなというのは4月から悶々と考えていますね。例えば電子ブックの表紙的な画面をプリントアウトして、冊子と同じように並べてQRコードでリンク先を見せてもいいのかなと考えています。」と話してくれました。今のところ、電子ブックは北海道大学のネットワーク内だけで利用でき、IPアドレスで制限をしています。
図書室の評価基準の一つには、図書室入室者数があります。しかし、電子ブックの導入が進むことにより、「入室者数の意味がだんだんなくなり、電子ブックの利用状況が北大全体の評価になるのでは」と中村さんは考えています。
(雑誌には電子版があります)
図書館のシステム管理をされている梶原さんは、北海道大学が推めるBYOD(Bring Your Own Device)というサービスを紹介してくれました。これは学生さんが持ち込んだスマートフォンやタブレットなどの端末を使って、例えば、図書館システムをアプリケーション化し、バーコードをスキャンすると情報が得られるようなサービスです。このBYODが普及すると「将来的には図書室の利用者パソコンはなくなるのではないか」と中村さんは予想しています。しかし、残念なことに現在、中央図書室内では学内の無線LANは使えないため、BYODの実現にはもう少し時間がかかりそうです。
情報技術の発展で必要な情報を調べることは容易になりました。しかし、得られた情報の信頼性や情報のソースは常に考えなくてはならない問題です。図書館が本来の機能や役割を果たすために、図書館では1年生に対する情報リテラシー教育や図書館情報学入門を通して教育にも力を入れ、図書館の本で調べることの重要性を図書館職員の方々が学生さんに直に伝えています。
今後の図書館の役割やサービスの展開について、梶原さんは「提供する情報量を増やすだけではなく、どのようにうまく使ってもらうかというリテラシーや情報のファシリテートを図書館が担っていくことが必要」と考えています。
挑戦する図書館
今回のインタビューを通して、印刷物からデジタルコンテンツへといったメディアの変化は、図書館の活動やサービスを複雑にしている一方で、利用者にとっては図書館をより便利に活用できる良い影響をもたらしていると感じました。図書館職員の方々は、利用者のことを第一に考えて、現在のサービスを新しい視点で見直し、リアルとデジタルの情報を状況に応じて使いこなすなど、新たな挑戦に日々奮闘されています。情報技術の発達とともに変化していく、これからの工学部図書室の活動やサービスに注目していきたいです。