北海道大学附属図書館は、大学に通う学生や研究者、職員の方々が日々の学習や研究をするため、いつも賑わっています。同じ北大構内にある北海道大学総合博物館も今年の7月にリニューアルオープンし、こちらも様々な地域からの来館者で賑わいをみせています。一見あまり関係がないように思える2つの「館」の共通点を見つけるべく、今回は相互利用担当の中條将喜係長と河野由香里さんにお話をうかがいました。
【手島駿・北大理学院修士課程1年生・2016年度CoSTEP受講生】
(相互利用担当の中條将喜係長(左)と河野由香里さん(右))
図書館で働き始めたきっかけ
インタビューのはじめに、中條係長に図書館で働き始めたきっかけをお聞きしたところ、「図書館で働こうと思って今ここにいるわけじゃないんです…」という、意外な答えが返ってきました。高校卒業後、偶然、北大の文学部図書室に配属になったことがきっかけとのこと。働きだして先輩からの指導を受けていく内に、図書館の仕事を面白く思い始め、長く働きたいと思い始めたそうです。北大図書館に長く働き続けるためには大卒資格と司書資格が必要であることがわかると、働きながら夜間大学に5年間通い、資格を取得したそうです。
(良い先輩に恵まれた、と感謝を語る中條係長)
一方、子供のころはなりたいものがたくさんあったという河野さん。あるとき、様々なものになりたいと思ったきっかけは本だったことに気づいたそうです。その時から、本を通して人の人生に影響を与える仕事に興味を持ち始め、図書館の仕事もなりたいものの一つになったそうです。
中條係長、河野さんのお話からは、図書館で働くことに対する情熱がうかがえました。
(子供の頃から本が大好きだったという河野さん)
利用者を第一に考える
北大図書館にとっての一番の来館者は北大の学生や教職員です。そこで、相互利用担当では主要業務の一つとして他の図書館から文献を取り寄せる業務を行っています。北大図書館の蔵書数は国内でも有数の規模ですが、北大構成員がそれぞれ多様な学習、研究を進めていく過程では、北大に所蔵している文献だけでは足りない、ということが起こります。そんな時、国内や海外の図書館から文献を貸していただいたり、複写物を送ってもらったりするのが相互利用担当の業務です。他図書館との間で毎日多くの文献を相互にやり取りし、北大構成員に提供しています。図書館には国立国会図書館の所蔵資料を閲覧できる端末もあります。しかし、まだ認知度が高くないようで、中條係長も「宣伝不足」と語っていました。
図書館と博物館 第1の共通点:大量の所蔵資料を活用するための目録・データベース
ここからは北大図書館と北大博物館の共通点に迫っていきます。まず、1つ目の共通点として、全国屈指レベルの数の本や標本が所蔵されていることが挙げられます。北大図書館には約380万冊以上の蔵書があります、一方、北大博物館には300万以上の学術標本が所蔵されています。しかし、北大博物館できちんと整理されている資料はそのうちの半分でしかなく、更に展示されているのはその内のわずか1万点でしかありません。また北大図書館でも活用されていない図書が少なくないそうです。こうした活用されない本や学術標本は「死蔵」と呼ばれています。こうした死蔵をできるだけ減らし、効果的に活用するため、北大図書館では資料の目録を、北大博物館では資料のデータベースを作成しています。
(北大図書館の目録(上)と北大博物館のデータベース(下))
目録やデータベースができることによって、利用者は全国・全世界の利用者が北大図書館や北大博物館に所蔵されている本や学術標本を簡単に探し出せるようになります。所蔵品を有効に活用できるような仕組みづくりを北大図書館、北大博物館の双方で行っています。
図書館と博物館 第2の共通点:誰もが利用できる「館」に
2つ目の共通点として、図書館と博物館はどちらも社会教育施設という機能を持っているため、誰もが安心して使えることが求められている点を挙げることができます。そこで、北大にある2つの「館」で新しい試みが始まりました。
(北大図書館が行っている資料電子化サービスのポスターです。構内で見たことがある人もいるのでは?)
北大図書館では、体が不自由だったり、視覚障害や学習障害などがあったりするため、紙の本が読みづらい利用者向けに、図書資料を電子化するサービスを、2016年の4月から本格的に始めました。電子化した書籍は、PDFにすれば文字を拡大して読むことが出来ますし、音声データに変換して本の内容を耳で聞くことも出来るようになります。ちなみにこのしくみの導入は大学図書館としては全国で2例目、国公立大学としては最初になります。北大はまさに、資料電子化サービスのパイオニアなのです。
(感じる展示室の様子です。点字を用いた展示物の解説が用意されています)
これに対して北大博物館では「感じる展示室」が新しく登場しました。博物館に展示されている学術標本はほとんど触ることはできません。しかし、この展示室では学術標本を見るだけでなく触れて感じることが出来るようになっています。更に、各展示物と説明書きに点字を用意してあるため、視覚障害者の方でも博物館の展示を感じることができる工夫がなされています。
このように、北大図書館、北大博物館の双方で、障害を持つ方でも快適に利用できるような仕組みづくりを行っているのです。
北大に建つ「図書館」と「博物館」が持つ繋がりとは
取材を行うまで、私は図書館=文学の象徴、博物館=理学の象徴というイメージを持っており、繋がりはないのではないか、と考えていました。しかし、取材を進めていく中で一つの答えが見えてきました。それは2つの「館」は共に「誰もが手軽に利用できる館」を目指しているということです。今回取り上げた相互利用業務、本や学術標本のデータベース化、感じる展示室と資料電子化サービスは、それぞれ形は違えども「利用者がより使いやすい館を目指す」という目的をもって行われている点で共通しています。そして、これらのサービスは、そこで働く職員のみなさんの熱意によって支えられていることを知りました。これからも、北大の2つの「館」には、北大のフロンティア精神にのっとり、「誰もが手軽に利用できる館」のモデルとして先導する「開拓者」を目指して欲しい、と感じました。
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この記事は、手島駿さん(北大理学院修士課程1年生・2016年度CoSTEP受講生)が、CoSTEPの「図書館取材実習」(2016年度)を通じて制作した作品です。
おわりに
CoSTEPの受講生が執筆したインタビュー記事はいかがでしたでしょうか。北海道大学附属図書館のさまざまな仕事やサービスを知ることができたのではないでしょうか。最後になりますが、インタビューに応じていただいた図書館員の方々、そしてこのインタビューをコーディネートしていただいた、附属図書館の梶原茂寿さんと、佐々木美由紀さんに、この場をかりて深く感謝の意を表します。
参考記事
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