札幌キャンパス内某所にある倉庫。その中には、椅子や机などが所狭しと並んでいます。これらは、使用しなくなったり、施設の建て替えなどで一時的に保管されたりしている物です。北大では、使用しなくなった什器類で再利用可能な物品をこのストックハウスで保管し、次の持ち主*に提供することで有効利用しています。
*北大の教職員のみが対象
そんなストックハウスの片隅に、木の板が積まれていました。「ポ」と書かれた木材、「ハルニレペンに使用」と書かれた紙が貼られた木材。これらはかつて札幌キャンパスにそびえていたポプラとエルムなのです。
【川本思心・CoSTEP/理学研究院 准教授】
北大の象徴、ポプラとエルム
ストックハウスの奥に保管されているポプラとエルム(ハルニレ)の板材の大きさは、長さ1~2m、幅30cm、厚さ5cmほど。ポプラの材質はやや粗く、やわらかですが、エルムはポプラよりも密で、色もやや濃いようです。それにしても、なぜこのような木材が、机や椅子と一緒に保管されているのでしょうか。
広大で緑豊かなキャンパスをもつ北大には、数えきれない樹木が生い茂っていますが、ポプラとエルム(ハルニレ)は北大にとって象徴的な意味をもっています。ポプラは、第一農場にある有名なポプラ並木はもちろん、初夏の便りである綿毛を飛ばす存在としてキャンパスには欠かせません。
一方のエルムも同様です。理学部と農学部の間には多くのエルムの巨木がそびえており「エルムの森」と呼ばれています。学内施設の名前としても「レストランエルム」「インフォメーションセンターエルムの森」としてシンボリックに使われています。そして明治45年度寮歌『都ぞ弥生』の2番にも「雄々しく聳ゆる楡(エルム)の梢」と描かれ、現在まで歌い継がれています。
数多の人々に思索と癒しの木陰をくれた樹木にも寿命があります。生育環境や虫害などによってかなり差がありますが、ポプラは約100年、エルムは200~300年の寿命と言われています。1900年代からのポプラ並木は2004年の台風で大きな被害を受け、20本近くが倒れてしまいました。これらの木を板材にして、ストックハウスで大切に保管していたのです。
生まれ変わる木々
伐採木はただ眠っているわけではありません。加工されて、第二の人生を送るのを待っているのです。エルムでは、箸、ボールペンが、ポプラではストラップ等が作られました。フォトスタンドはポプラ製、エルム製どちらもそろっています。これらのグッズはインフォメーションセンターエルムの森や北大生協購買店、総合博物館ショップなどで購入できます。
その他の活用事例としては、2006年に作製されたポプラのチェンバロがあります。総合博物館で展示され、定期的に演奏会も開かれています。
貴重な資源を次につなげる
木材としてはもちろん、象徴的にも重要な存在であるポプラとエルムがストックハウスには保管されていました。そしてハウスには、教職員が日々業務で使ってきた机や椅子もありました。どちらも北大にとって無駄にできない貴重な資源です。それらをただ捨ててしまうのではなく、適切に管理し、必要とする人へつなげる。ストックハウスはそんな大切な精神を、静かに体現している場所でした。
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