Biomedical Research の編集長、岩永敏彦さん(医学研究科 教授)を研究室に訪ね、話をうかがいます。
どういう目的で発行しているのですか
この雑誌は、1980年に、私の恩師を含む研究者4、5人が創刊しました。日本の研究者は、Nature や Science など欧米の雑誌に投稿することを優先し、日本で発行される雑誌に投稿しようとしません。いい研究が日本から発信できていない、そうした状況を何とか変えたい、そんな思いから創刊したのです。全世界からの投稿を歓迎していますが、日本の研究成果を海外に発信していくための英文誌でありたいと思っています。
私は今、第4代目の編集長を務めており、編集部も私の研究室に置いています。スピーディーな論文発表を目指しており、投稿を受け付けてから、査読を経て採否が決定されるまで、2週間以内を実現しています。刊行の頻度も、2ヶ月に1回です。
発行の費用は、どうしているのですか
多いときには300部を発行していましたので、その頃は定期購読料で経費をまかなっていました。でも、研究者の使える図書費は減る一方、そのため定期購読者も減る一方でした。そこで今は、定期購読料に頼ることをあきらめ、投稿料と別刷代だけで経費を出すようにしています。
J-STAGEというのがありますね。科学技術振興機構(JST)が運用しているウエブサイトで、論文誌などをインターネット上で公開し、優れた研究成果をいち早く世界に向け発信していこうというものです。
私たちの雑誌も、2004年からそのJ-STAGEで公開し始めました。何の制限もつけていませんから、誰でも論文をPDFでダウンロードできます。
この雑誌の特徴は、なんでしょうか
学会とは無関係に、いわば同人誌的に発行していますので、自由度が高いです。医学生物系の広い範囲をカバーしていますし、編集方針も学会の方針などに左右されません。
また、いいレビュー(総説論文)を載せるように努めています。レビューは引用されることが多いですから、インパクト・ファクターを高めることにもつながると思っています。もちろん、インパクト・ファクターを高める基本は、いい論文を集めることですが。
※ ※ 取材後記 ※ ※
学術雑誌の場合、誰が編集しどこの国から発行しても同じでは、と思っていたのですが、そう単純でもないようです。文部科学省のある検討会議で、こんな趣旨の指摘がなされていたりもします。
どれが重要な研究か、どの問題が今後重要かについて、日本の科学者たちが自ら判断する必要があるのではないか。アメリカ物理学会が出版するある主要な雑誌は、重点的に推進するべき特定の論文の掲載を積極的に推進するという編集方針を通じて、研究資金の配分に強い影響力を及ぼしているという話もある。
考えさせられますね。