沖縄県那覇市生まれの國吉聡志さんは、北海道に憧れて北大に入学、2008年に法学部を卒業し、沖縄タイムス社に就職しました。地元の沖縄に戻り、社写真部記者として活躍されている先輩です。
その國吉さんから学部1年生へのメッセージを、一部を紹介しましょう。
(控え室にて)
大学2年「新聞記者になろう!」と決意
高井潔司先生(北海道大学名誉教授・桜美林大学教授)との運命的な出会いがありました。高井先生は読売新聞社で特派員、北京支局長、論説委員など歴任されたあと北大に着任し、中国メディアの研究をされていました。私はその高井先生のもとで中国語を学び、中国やマスメディアに関心を持つようになったのです。
「反日感情のある中国」に留学
大学2年生の時にゼミ旅行に参加し、はじめて中国に渡りました。そこで貴重な経験をします。当時、中国では反日感情が高まっていて、訪問先の町で反日デモを目の当たりにしました。もちろん恐ろしさも感じたのですが、同時に「おもしろいな」と思いました。自分と異なる価値観や思考を持つ人々に興味を抱いたのです。そして当時人気のあったアメリカではなく「反日感情のある中国」に留学を希望し、中華人民共和国吉林大学に1年間留学することになったのです。
中国で生活してみると、それまで理解できなかった考え方を受け入れることができるようになります。ゴミの扱い方や海賊版の流通など、日本では非常識だった仕組みでも、その成り立ちを、中国社会の背景や文脈から理解できるようになりました。また国籍や歴史認識の違いから相手に対するマイナス感情のある者どうしが、個人レベルでは意思疎通できることも学びました。腹を割って話し合い「なぜ相手を嫌っていたのか」率直な気持ちを交換しあいながら交流を深めてみたのです。いまではたくさんの友人が中国にいます。
(「短いレンズのカメラは首からさげ、望遠レンズのカメラを肩にかけ、カメラバックを背負って走り回ります。せっかくですからカメラを持ってみませんか」と会場によびかける國吉さん)
新聞記者という仕事
勤務は不規則です。先日の参議院選挙の投票日、帰宅できたのは翌朝の4時でした。特に比例区の当確はなかなか発表されないので、選挙事務所で待機し、当確の瞬間を写真に収めなければいけません。
普段は事件が起きるとすぐに現場に駆けつけます。コンビニ強盗や火災の連絡が入れば、まず現場に向かい取材をして朝刊やウェブに記事を載せます。規則正しい生活はできませんが、やりがいも感じています。
私は「社会にとって薬となる報道は何か?」考えながら現場と向き合っています。事件の経緯を事実に沿って並べるだけではなく「なぜ事件が起きてしまったのか」事件に関わった人々の内面に迫る取材をしたいと考えています。時には被害者の悲しみをえぐり出すような質問をすることもあります。なぜ自分は人の嫌がる質問をするのか悩んだこともありました。個人情報の公開が嫌われ、制限される時代ですが、それを乗り越えて取材を続けなければ、真実に迫ることはできません。「なぜ事件が起きてしまったのか」という根源に迫る報道は、人の心を動かし社会を変える力にもなると信じています。
(「政治家は慣れていますが、一般の方はフラッシュに慣れていません。カメラの前での緊張感を取り除く努力もしています」と実際にカメラを構えて撮影する様子を披露してくれた國吉さん)
報道写真とは
報道写真は美術写真と違って、伝えたい内容(被写体)が枠の中心に収められている必要があります。事件の起きた場所で報道するべき内容を瞬時に理解し、その撮影のために何処にポジショニングをとるかが勝負です。撮り直しが許されない現場ですから1枚の写真を撮るために、人々を押し分けて被写体に近寄ることが最優先です。
また最近では、スマホで撮った写真も新聞紙面で使えるほどのクオリティーがあります。その場にたまたま居合わせて、決定的な瞬間をとらえた一般市民を探し出し、写真を提供してもらうことも記者の仕事となってきました。
大学4年間を有効に使って下さい
大学4年間はしっかり勉強して下さい。そして自分の意見をもてる大人に成長してほしいと思います。自分の言葉で人を説得させる力はどんな仕事でも求められているからです。
学生の間は自分の時間をコントロールできます。関心のあるテーマへの理解を深めるために、原著や一次資料を読み込んでみてはいかがでしょう。インターネットで検索するだけでなく、現場に足を運んで直接生の声を聞くことも大切です。そのような経験を通して、自分の考えを築いていってほしいですね。
英語以外の言語にもぜひ挑戦して下さい。ロシアやアジアの言葉が理解できると世界が広がります。また多くの企業が、中国語やロシア語を話せる人材を探しているのも事実です。アジアの学生たちだって、一生懸命日本語を学んでいますから、みなさんにも負けずに頑張ってほしいと思います。
最後に。自分のキャリアをイメージしてください
「将来どういう仕事に就きたいのか」考えながら大学生活を送ってほしいと思います。大学と社会は近い距離にあります。社会人と接触して話をする機会をつくり、自分のキャリアをイメージしてみることをおすすめします。もし記者を目指すなら、彼らに直接会って、彼らの目を見てください。目を見て話をすれば、彼らの職場の雰囲気がわかるはずです。いきいきとした目つきの記者は、いきいきとした環境(職場)で仕事をしているはずですから!