日高管内の静内町にある北大の研究牧場では、食肉生産研究を目的に日本短角(たんかく)種という肉牛を飼育しています。あまり馴染みの無い品種かもしれませんが、その肉はヘルシー志向に合った赤身肉で、飼育方法も環境に優しい特性を持っています。最近話題のSDGs(持続可能な開発目標)にも貢献できる飼育方法なのです。
【林忠⼀・北⽅⽣物圏フィールド科学センター/いいね!Hokudai特派員】
広大な牧場に放牧されている稀少な牛たち
静内研究牧場は、森林330ha、草地130haを含む470ha敷地で、牛約150頭、馬約100頭を飼育しています。その数に圧倒されますが、実はその牛「日本短角種」は全国的に見れば稀少な種類です。
和牛の品種には、和牛と言えば黒毛と言われるくらい有名な黒毛和種、褐毛(かつもう/あかげ)和種、無角(むかく)和種、そして日本短角種の4種があります。品種ごとのシェアで見ると、黒毛和種が圧倒的な96.9%と大半を占め、日本短角種は0.5%でしかありません。
ヘルシーで環境負荷も低い日本短角種
さて、気になるのはそのお肉です。黒毛和種は筋繊維に脂肪がついて、いわゆる霜降り状になるため柔らかく日本人好みの肉になります。日本短角種は筋繊維に脂肪が付きづらいため、逆に肉本来の味を楽しめる赤身肉になります。
飼育に関しても黒毛和種と日本短角種には大きな違いがあります。平均的な黒毛和種を育てるのに、穀物飼料は1頭あたり約5t必要となります。一方、日本短角種は放牧に適していて穀物飼料はそこまで必要ではありません。静内研究牧場の場合、夏は広々とした牧草地で牧草を食べ、冬は、牧場内で自給した干し草やデントコーンサイレージなどを牛舎内で食べています。そして出荷前の数ヶ月だけ体重を増やすために穀物飼料を与えています。その量は約1tと平均的な黒毛和種の五分の一と少なく済みます。
このような日本短角牛の特徴は、SDGsの17ある目標の内、「12:持続可能な消費と生産のパターンを確保する」と「15:陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進等」に合致するものと言えるのではないでしょうか。
霜降りと比べるのではなく、赤身としての価値を!
しかし残念ながら、霜降り信仰の強い日本の格付けシステムでは、赤身肉の評価はとても低いのが現状です。日本短角種はA5ランクの黒毛和種の4分の1程度の値段でしか買ってもらえません。ホルスタインの肉よりも安い値段です。
「できればF1と言われる黒毛とホルスタインの交雑種並に、黒毛和種の2分の1程度で買ってもらえれば」と牧場長の河合さんは訴えます。また「牛のような草食動物は、人が利用できない草を食べて、肉や牛乳に変えてくれます。それが草食動物を家畜にするメリットです。人が食べられる穀物を牛にやる必要は無いのではないか」ともおっしゃっていました。
種牛はつらいよ
取材に静内研究牧場を訪れたのは8月下旬。その時、牛たちは自然交配をしている時期でした。ここでは、毎年6月1日から種牛と雌牛を3ヶ月間放牧して自然交配させています。そして、妊娠した雌牛は来年3月から5月に順次出産していきます。
今年は、種牛1頭に雌牛42頭の一団が放牧されていました。種牛は放牧時960kgくらいありましたが、2ヶ月で860kgまで痩せたとのこと。最終的にどこまで痩せてしまったのでしょうか?