前回紹介したように、かつて、北海道の交通ルートの要所であった厚真町。現在でも町外から多くの人が足を運んでいます。多様な人が集う中ではぐくまれた風土を受け、第1回の伊藤さんを含め、多くの北大生も足を運ぶ場になっています。最終回となる第3回は、厚真町で生まれ、地域の未来のために活動する2人の若者と、厚真町に飛び込み、地域の中で学ぶ2人の北大生を紹介します。
【鈴木隆介・CoSTEP本科生 保健科学院修士2年/成田健太郎・CoSTEP本科生 社会人】
厚真の未来のため行動する地元の若者
厚真町ではローカルベンチャー支援によって、西埜さんのような新しい人々が次々と移住し、さまざまな取り組みを行っています(第1回参照)。しかし、活躍しているのは移住者だけではありません。厚真町に生まれ育った地元の若者たちも、地場産業を受け継ぐだけでなく、地域の未来のために挑戦しています。
まちで椎茸農家を営む堀田昌意さん。原木椎茸と並行して厚真町名産のお米「たんとうまい」や大豆などの生産も手がけ、新規就農を目的に外部から来る若者たちに自身の経験を活かした農業経営の心得を伝授しています。堀田さんは農業に従事するだけでなく、まちに光回線を通すことを町長に働きかけるなど、まちに豊かさを作るべく仲間と共に行動を続けてきました。「震災もきっかけのひとつとなって外部からの注目も高まり、自分たちがまちに働きかけてきたことが加速していったように思います。厚真は元々農業など事業のやりやすさといったエッセンスが詰まったまちなんです」と話してくれました。
漁師の澤口研太郎さんは、今までにはなかった新たなコミュニティ・スペース「イチカラ」を作るべく地域の仲間たちと奮闘しています。メンバーのそれぞれが林業や農業、厚真町役場での仕事を持ちながら仕事の合間をぬって集まり、厚真町の未来、そして復興のためにできることを一から考えていこうという願いのもと始められました。
「地元の方や移住して来られた方、さらには町外の方が交流し、厚真町の未来を描くきっかけになってほしい」と澤口さんは言います。彼らの想いが多くの支援者の方々に届き、9月末にはクラウドファンディングで目標金額を見事達成しました。そしてプレオープンの日程が2020年1月11日に決まり、4月までに本格的なオープンができるように準備が進められています。
まちおこしに惹かれ、厚真と関わる北大生
このように地域の内外から挑戦する人々が集まっていることは、北大生にとっても非常に魅力的なフィールドとなっています。まちおこしに関心をもって厚真町に関わったのが、松田崇志さん(経済学部4年生)です。まちおこしについて知るには実際に地域で働くしかないと考えた松田さんは休学を決断し、2018年2月から9月までの8ヶ月間、インターンシップ生として厚真町に移住しました。移住先を選んだきっかけは、事前に参加したまち巡りのツアーで交流した地元の方の優しさとローカルベンチャーを通して起業した人の熱気でした。インターン期間中は地元メディアの取材の同行や役場が行うふるさと納税業務に携わり、返礼品の調整などまちの仕事の一端を担っていました。
「実際に住んでみるまでは、地方といえば大変な場所だという印象がありました。しかし、半年間の実践を通じまちの豊かさを肌で感じ、“地方だから困っている“は外からの決め付けだと感じました。まちおこしとは、地方に限った話ではなく自分がいる地域で何かに挑戦することが巡り巡ってその町の魅力や力になることなのではないか」と松田さんは話します。
松田さんの活動は地域の方にどのように映ったのでしょうか。松田さんと同時期に厚真に移住し、ふるさと納税の業務の相談にも乗っていたというデザイナーの田中克幸さん(厚真町地域おこし協力隊)は、「松田君は先を読んで主体的に活動していたので、インターン先の会社だけでなく役場の人にも信頼されていたように思います。最近では彼のように、明確な目的を持って厚真に足を運ぶ若者が増えているように感じます」と話します。
インターンも終盤にさしかかった2018年9月、松田さんは震災に見舞われました。そして被災した翌日から、避難所でのお手伝いや物資の受け入れ業務に従事しました。復興に向けて頑張っている方々のお手伝いにあたる中で、どんなことがあっても諦めない彼らの姿が印象に残ったと松田さんは語ってくれました。
地震をきっかけに、厚真と関わる北大生
地震をきっかけに厚真町にボランティアとして関わったのは、水産学部2年生の五十嵐紗衣さん。震災で身近な場所が様変わりしたことに衝撃をうけた五十嵐さんは、「人の力になりたい」と考え大学のボランティアサークル あるぼら に参加しました。あるぼらでは、メンバーがアルバイトをして稼いだお金をものに変えて寄付する活動を行っており、東北等の被災地を対象としていました。五十嵐さんは自分たちにとってより身近な方々のお手伝いをしたいと、新たに厚真町のボランティアをメンバーと共に始めました。「私たちに力になれることがあれば喜んでお手伝いしたい、というスタンスで活動しています。しかし、寄付に関してはできることに限りがあります。なので地域の方の生の声を聞き、特に厚真町の復興に大きな影響を与えてくれそうな方々に寄付することで地域を元気にしようと考えました」と五十嵐さんは話します。被災地をまわる中で五十嵐さんたちが出会ったのは、復興に励む農家さんなど一次産業に携わる方々でした。
五十嵐さんたちはそんな農家の方々と収穫ツアーを開催し、関心を持つ他の学生たちを巻き込むかたちで支援を行いました。先ほどの堀田さんの奥さんが手掛けているハスカップ農園での収穫ボランティアもそのひとつです。震災をうけ、被災地の助けになりたいと考えた学生たちは現地を巡り地元の方と関係性を築くことで、厚真の魅力を引き出す支援を実現していました。
学生の学びを広げる厚真の風土
厚真町には移住者をはじめとした外から入ってくる人たちの活動を支援する仕組みがあります。そのような地域の土壌からか、北大生も関わり、大学構内の講義だけでは得られなかったであろう学びを持ち帰っていました。この厚真町で活動した北大生の学びのベースには、地元の人が織り成す厚真の“ひとがら”もあるように感じました。震災、さらにはローカルベンチャーの仕組みが作られる以前から蓄えられ続けたまちのエネルギーが、学生の実践を後押ししています。
厚真で知った学びの姿勢
みなさんには厚真町というところが、どのように見えているでしょうか?今回の連載制作にあたって、私たちはありのままの厚真町の姿に向き合おうと、そこに住む方々と同じ場に立ち、様々な角度からこの場所を見つめました。この町で、古くからの技術を今に合わせて活用した馬搬に出会ったり、震災を機にこのまちの歴史や文化をさらに伝えていこうとする人たちに巡り合ったり、住民と交流した北大生がそれぞれの関心に合わせて実践をしている様子を見たりしました。厚真町という場は、多くの人を繋げて、新たな取り組みや学びを生み出し、魅力を生み続けている場なのだと思います。私たちも、このまちに引き寄せられ、これまで見えなかったまちの姿を捕まえることができました。
知ろうとしないと知ることのできないこと、見ようとしないと見えないものが、私たちの日常に数多くあったのです。意識的に知ろうとすること、見ようとすることこそ、私たちの出発点でした。知れば、その前には想像しなかった面白さが広がっていました。このまちが私たちに教えてくれたのは、このことでした。
謝辞:
藤田あさこさん(厚真町役場)、宮久史さん(厚真町役場)には、取材対象となる地域の方々をご紹介いただき、町内をご案内いただきました。また下司義之さん(厚真町議会議員)からは、被災直後の避難所の設置やメディア対応、その後の防災の取り組みについてお話しいただきました。記事内でご紹介した方々をはじめ、多くの厚真町民のみなさんにご協力いただき、3つの記事を作成することができました。厚く御礼申し上げます。