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#16 性にかかわる意外な遺伝子、ニワトリで発見

「性に関わる遺伝子」って何でしょうか、なぜニワトリでの発見なのでしょうか。

黒岩麻里さんを理学研究院附属の「ゲノムダイナミクス研究センター」に訪ね、話をうかがいました。

動物のオスとメスは、どのようにして決まるのですか

受精の瞬間に性が決まります。ヒトの場合でいうと、卵子にある性染色体はつねにXで、これに、性染色体Xをもつ精子が受精すればXXとなって女性、Yをもつ精子が受精すればXYとなって男性、となります。

ただし、これはあくまでも初期設定で、それを実現するプロセスが後に続きます。ヒトの場合、Y染色体にあるSRYという遺伝子が働く(スイッチがオンになる)のを契機に、ドミノ倒しのように次々と遺伝子が働いて、精巣が作られ、精巣から男性ホルモンが分泌され・・・と進んで、男の子になっていきます。妊娠8~10週のころで、この段階で初期設定の性が実現します。このプロセスがちゃんと進まないと、遺伝的に男性でも女性の体で生まれてきたりします。

このようにヒトなど哺乳類については、遺伝子がどのように関わって性が決まっていくのか、かなり分かっています。でも、鳥類ではよくわかっていないのです。

それで、ニワトリで調べたのですね

雌のニワトリの体内で受精した1個の卵細胞は、体内を移動しながら細胞分裂をくり返し、卵黄に伴われ、卵白にくるまれ、そして殻に覆われて、体の外に出てきます。このとき、細胞の数は6万ぐらいまで増えています。

産み落とされた卵を温めると、再び細胞分裂がはじまって、頭や眼、心臓、肢、生殖腺などがしだいにできていきます。

生殖腺は、いずれ精巣もしくは卵巣になる組織です。精巣になるか卵巣になるかが現実に決まるのは、温め始めてから5日目ぐらいです。

(左2つ:卵の中で育ちつつあるニワトリ(温め始めて8日目)、右2つ:腹部を拡大したもの(点線で囲まれたところが生殖腺)、写真提供:黒岩さん)

そこで、温め始めてから5日目、6日目、7日目・・・の卵から生殖腺をとって、オスだけ、またはメスだけで働いている遺伝子を探し出しました。そのうちの1つがヘモゲンという遺伝子で、オスで強く働いていました。

次に、卵を温め始める前に、ヘモゲン遺伝子を外部から導入してみました。ヘモゲン遺伝子が過剰に働くようにしたのです。すると、メスになるはずのものがオスになりました。ヘモゲン遺伝子はオス化に関わっていたのです。

(左上:ウィルスを介して遺伝子を導入します。右上:殻の中にもどし、左下:空気が入らないよう卵白で満たしてからラップで蓋をし、リングをはめて輪ゴムで固定します。右下:この卵を孵卵器で温めます。写真:黒岩さん提供)

ニワトリで実験するだけでなく、遺伝子情報を使ってツル、カモ、フクロウ、エミューなどについても調べました。その結果から、ヘモゲン遺伝子のこうした働きは、鳥類全般にあてはまると考えています。

特に興味深いのは、どういう点ですか

ヘモゲン遺伝子は、ヒトなど哺乳類では、血液細胞を作るのに関与しています。性決定には無関係です。それなのに鳥類では、性に関わっているのです。ここが、今回の研究のもっとも重要な点です。

そもそも鳥類の性には、哺乳類などと違う特異な点が、少なからずあります。たとえばヒトでは違う性染色体がペアになる(XY)と雄ですが、鳥では違うものがペアになると雌になります。

また、ヒトなどと違って性がかなり柔軟です。鶏冠(トサカ)があってコケコッコーと鳴いていた雄鶏が、大きくなると鳴かなくなって卵を生み始めた、などという話がヨーロッパでよく聞かれます。ヨーロッパの田舎では普通に家でニワトリを飼っているので、気づきやすいのでしょう。

このように、哺乳類での常識が鳥類では通用しないことが多いのです。ですから私は、7年ほど前、哺乳類で血液細胞を作るのに関わり、性の決定には関わっていないヘモゲン遺伝子がトリにもあることを見つけたとき、その遺伝子がトリでは性にも関係している可能性を捨てませんでした。哺乳類からの類推で先入観を抱いてしまっては、新しいことを発見できないと思ったのです。

(黒岩さん専用の解剖道具。ほかの人が使うと、その人の癖がついて切れ味が変わってしまうのだそうです。)

実験手法の面で重要なことは?

トリでの遺伝子導入は難しく、養鶏産業でも昔から研究されてきましたが、ほとんど成功していません。今回、その遺伝子導入を使っての実験に成功したことも、評価された点の一つです。

何が難しいって、卵を温め始める前に遺伝子を導入するのですが、こうすると間もなく死んでしまうのです。温め始めてから10日を超えて生きることはありません。ヒヨコとして出てくる20日目ごろまでは、とても無理です。でも、今回調べたヘモゲン遺伝子は、5~8日目ごろにスイッチがオンになるものでした。おかげで、メスになるはずのものがオスに転換することを、生きている間にぎりぎり確認できたのです。幸運でした。

(遺伝子導入していないもので、ヘモゲン遺伝子が働く様子を調べた結果。オスで強く働いており、卵を温め始めて8日目ごろにピークに達しています。(黒岩さんの論文にあるグラフをもとに作成))

今回の研究で、ヘモゲン遺伝子が過剰に働くとメスがオスに転換することはわかりました。でもほんとうは、生まれたヒヨコが実際に精子を作るところまで確かめる必要があります。また逆に、オスでヘモゲン遺伝子が働かないとどうなるかも調べる必要があります。やるべきことがたくさん残っているのです。

こうした研究に、養鶏産業から熱い期待が寄せられています。卵を生産する養鶏家はメスのニワトリだけがほしいし、食肉を生産する養鶏家はオスのニワトリだけがほしいのです。でも、こうした期待に応えるにはまだまだ研究の積み重ねが必要です。

なお、ヘモゲン遺伝子は性決定遺伝子ではありません。性に関わる遺伝子はいくつもあり、そのなかで一番最初、一番おおもとになる遺伝子が「性決定遺伝子」と呼ばれるものです。ヘモゲンは2番手以降に働く遺伝子です。

動物がお好きなんですか

動物はかわいいし、好きです。でもそれ以上に、動物は面白いと思います。屋根に止まっているカラスなど、見ているだけでも面白い。今もカアカアとうるさいでしょう。じつはきょう、ゴミの回収日なんです。あいつらも、いろいろ策を練ってるんだろうなと思います。

家では、ヤドカリとエビを育てています。動物の世話をし、育てるのが好きなんです。ヤゴやカエル、それに子ガエルの餌用にショウジョウバエを育てていたこともあります。

もとは文系人間で小説をよく読んでいましたし文章を書くのも好きで、小説家やジャーナリストなど物書きになりたいと思っていました。ところが高校で生物を学んだときに、「生きものはこんなに面白いのか、文系にいていいのかな」と思い始め、理系に進んだのです。

今は家事も担当しながら研究していますから、ハードです。でも、足を引っ張られているとは思いません。5時になったら、メールが来てようが何があろうがバーンと打ち切って帰っちゃいます。強制終了することで、だらだらと仕事をすることがなく、おかげで“疲弊”することなく研究を続けてこられたのだと思います。

(学部と大学院の学生、あわせて7人が黒岩さんの指導を受けています。取材のときに実験中だった4人の学生さんとともに。)

【取材:CoSTEP+齊田春菜(CoSTEP選科)】

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2013.06.03

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