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#134 リュウグウからの「玉手箱」

小惑星探査機「はやぶさ2」が回収した小惑星リュウグウのサンプルは、12月6日にオーストラリアに落下し、無事回収されました。そして8日午前中に相模原のJAXAに到着したサンプルは、地球の大気や物質が混入しないように厳重に設計された装置内で15日に開封され、多数の岩石粒子が確認されました。今後、カタログが作られ、整理されていきます。

このサンプルのカタログ化・整理のためのキュレーション施設の設計を主導したのは、北大の圦本尚義さん(理学研究院 教授)です。「はやぶさ2」プロジェクトでは探査機に目が行きがちですが、研究はいよいよこれからが本番です。まずは多数の微小なサンプルを約半年でカタログ化し、その後の詳細な分析につなげなくてはいけません。

圦本さんはその後の詳細な化学組成について分析を行うチームを主導し、来年夏ごろには北大にもリュウグウのサンプルがやってくる予定です。この「贈り物」は太陽系の起源だけではなく、生物の材料となる有機分子の存在が確認されれば、生命の起源の解明にもつながると期待されています。

【川本思心・CoSTEP/理学研究院 准教授】

(サンプルの分析に使われることになる同位体顕微鏡のあるクリーンルーム前にて。圦本さんが持つのはリュウグウの模型)
12月6日、無事到着したサンプルの意義

はやぶさ2は2014年12月3日に打ち上げられ、2019年2月22日と7月11日に小惑星リュウグウに軟着陸してその砂や石の回収にチャレンジしました。そして地球への帰路につき、ようやく約6年後の12月6日の2時47分。オーストラリアの砂漠に回収カプセルが着地しました。

(流れ星のように写っている大気圏に突入した「はやぶさ2」のカプセル)〈© JAXA1)〉

その時、圦本尚義さん(理学研究院 教授)は相模原にあるJAXAの域外管制室でその様子をリアルタイムで見守っていました。「見つかった時はおーっとなった。うれしかった(笑)。でも私の「はやぶさ2」に関する仕事は、キュレーション施設を運用もふくめてつくることでした。その作業は2020年2月に終わっています。だから一番大変だったのはその時です」と圦本さんは言います。

(オーストラリアの砂漠に無事着地。白いパラシュートの右側にカプセルが見える)〈© JAXA2)〉
(回収されたサンプルコンテナ)〈© JAXA2)〉

小惑星リュウグウを形成する物質は、太陽系が形成された頃のまま、46億年間変成することなくその状態を保っていると考えられています。また、「はやぶさ」が持ち帰り、圦本さんも分析したイトカワと異なり、炭素質の物質や有機物を多く含むことが予想されています。つまり、リュウグウのサンプル分析は、地球をはじめとした太陽系の惑星の成り立ちの理解を進めるだけではなく、生命の材料がどこからやってきたのか、という生命の起源の解明にもつながる可能性があるのです。

(左側が「はやぶさ2」が到達したリュウグウで、右が「はやぶさ」が到達したイトカワ。同じ縮尺で作成されておりその大きさと色の違いがわかる。リュウグウの色が黒っぽいのは炭素を多く含むためと考えられている)
細心の注意と最新の施設で「キュレーション」する

しかし、そのサンプル分析もふたつの点に注意しなければ、「はやぶさ2」の旅の苦労もろとも灰燼と化してしまいます。第一に、サンプルを分析する際には、地球の物質が一切混入しない清浄な状態に保たれていなければなりません。逆に言えば、そういった混入がない地球外からのサンプルを得られるのが、小惑星探査機によるサンプルリターンの意義なのです。

第二に、膨大な数におよぶ大小さまざまな砂や小石を取りわけ、それぞれについて基本データを測定して整理し、迅速にカタログ化しなければなりません。多数の試料を管理し、適切な時に利用できるようにすることは研究の基本中の基本、基盤をなす作業です。この作業を「キュレーション」と呼びます3)。

圦本さんは、2016年から2020年2月までJAXAにも籍を置き、地球外物質研究グループ長として、このキュレーションを行う施設の設計・運用の立ち上げを指揮しました。「はやぶさ」で使用した施設との違いは、量が多く、サイズも微小なものから大きなものまで取り扱えるようにしている点などです。限られた予算の中で所定の性能を実現するために、圦本さんは機器製作会社各社との調整に奔走しました。

(圦本さんらが開発したキュレーション施設の中心的機器であるクリーンチャンバ。五つのチャンバから構成されている。CC3-1でサンプルコンテナを開け、CC4-1でミリメートル以下の微粒子を処理し、CC4-2で比較的大きなサンプルを処理する。青字で示した装置内は真空で、赤字の装置の内部は窒素ガスで満たされている。キュレーション施設にはこの他にも多数の機器が備わっている)〈© JAXA4)〉

その苦労の末に完成したJAXAのキュレーション施設では、光学顕微鏡観察や分光測定や、重さの測定など10項目の初期記載が行われます。作業はJAXAの6名がローテーションで担当します。圦本さんは「サンプルが100個あったとして、来年の夏ごろに次の初期分析を行うスケジュールだと・・・1日1個のペースでラベリングしないと間に合わないんですよ。ギリギリです。かなり大変な作業です」と指摘します。

(取材をしたのは相模原にサンプルがとどいた12月8日午前中。メディアからの取材に電話で対応する圦本さん)
来年夏頃、北大でも初期分析を開始

初期記載の後、6月から7月頃から初期分析がはじまる予定です。初期分析は1)化学分析、2)岩石・鉱物分析(粗粒試料)、3)同(細粒試料)、4)揮発性物質分析、5)固体有機物分析、6)有機分子分析の6チームに分かれています。

圦本さんはこの化学分析チームのリーダーとして化学組成・同位体組成を分析し、リュウグウ全体の組成を明らかにします。このチームは世界中の研究者50名ほどからなり、うち30名ほどは北大に来て同位体顕微鏡を用いて分析する予定です。新型コロナが収まっていない場合にそなえ、機器操作を行う人に海外からオンラインで指示をして分析を行うことも検討しています。

(同位体顕微鏡2台が設置されているクリーンルームと前室にいる圦本さん)
玉手箱を開けると?

12月14日、相模原のJAXAでサンプルコンテナの開封が行われ、内部に黒い砂状のサンプルが入っていることが確認されたと発表されました5)。圦本さんはサンプルに何を期待するのでしょうか?

(サンプルコンテナ内部の様子。右側に黒い砂のようにみえるのがリュウグウのサンプル)〈© JAXA5)〉

「見たことがない物質だったらうれしい。僕らは本当に何も知らない。例えば地球の鉱物や天気なんて、たくさんデータを取っているのに、まだわからないことばかり。それに比べて隕石は5万個くらいしかない。分析できているのはもっと少ない。新しいことがいっぱいでてくるんですよ。そのなかから本当に新しいことを見つけて論文にしていきます」

最後に「竜宮城の玉手箱をあけると・・・という話がネットでも少し話題になっていますが?」と伺うと、「なるかもね、おじいさんに(笑)」と即答。「ある意味、サンプルに太陽系の過去が詰まっているということですし・・・」とさらに話を向けると「じゃあ赤ちゃんになるね」と圦本さんは笑って答えてくれました。

 

参考文献:

  1. JAXAはやぶさ2プロジェクト: 2020「再突入カプセルの火球映像」2020年12月6日(2020年12月10日閲覧).
  2. JAXAはやぶさ2プロジェクト: 2020「地球に帰還したカプセルの写真集」2020年12月8日(2020年12月10日閲覧)
  3. JAXA地球外物質研究グループ: 「はやぶさ資料関連用語集」(2020年12月10日閲覧).
  4. JAXA地球外物質研究グループ: 2020「はやぶさ2試料の初期記載・分析」(2020年12月10日閲覧).
  5. JAXA: 2020「小惑星探査機「はやぶさ2」の小惑星Ryuguサンプル採取確認について」2020年12月15/a>(2020年12月15日閲覧).

圦本さんを紹介しているこちらの記事もご覧ください

【クローズアップ】#70 太陽系の起源を「顕微鏡」で調べる(2016年09月02日)

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Update

2020.12.16

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