前仲勝実さん(センター長・薬学研究院教授)と堺谷政弘さん(准教授)に、創薬科学研究教育センターを案内していただきました。
(左から、斉藤貴士さん(特任准教授)、前仲勝実さん、堺谷政弘さん)
大学などアカデミアと、製薬企業の関係が、どのように変わっているのですか
前仲
これまでは、製薬企業が中心になって新しい薬を開発してきました。ところが最近は、大学などのアカデミアやバイオベンチャーが先端的な研究を行ない、可能性が見えてきたところで製薬企業にバトンタッチする、というふうに変わってきています。アカデミアなどが新しい薬剤の芽を創り出すことから、「アカデミア創薬」と呼ばれます。
日本でも「アカデミア創薬」の体制をオールジャパンで築こうとしています。東京大学に「創薬オープンイノベーションセンター」があって、そこに約20万種の化合物が保管されています。本でいえば図書館(ライブラリー)のようなものです。大学や企業などは、そこから化合物の提供をうけるという体制になりました。
そして北大をはじめとする6大学が、ライブラリーからスクリーニングするという面での拠点となり、別の8大学が化合物の合成という面での拠点になるという体制です。
ここにあるのは、数多くの化合物のなかから、薬になる可能性のあるものを、自動的に高速で探し出す(スクリーニングする)「ロボット」です。いったん動き出したら、1カ月ぐらいはずっと動き続けます。ほかの大学の研究者でも、企業の人でも使うことができます。
(スクリーニング・ロボット。サンプルの調製から評価までを全自動でやってくれます)
私は、大学院を卒業してからずっと製薬企業に勤め、抗がん剤の開発などをしていたのですが、「役職定年」という制度で、創薬研究の現場を離れることになりそうだったので、会社を辞め、この1月、大学に移ってきました。
来てみると、大学には新薬につながりそうな種(たね、シーズ)が山ほどあるんですね。でも製薬企業は、本当にモノになるかどうかわからない、リスクが大きいものには手を出しません。競争者がいっぱいいる中で研究開発をしていますから、スピード重視なんです。一方、大学の先生方は、種を実際の薬にまで育てていくノウハウを、あまりご存じない。そこで私などが橋渡し役になって、企業とアカデミアがうまく連携できるようになればと思っています。
(「ナノリッター分注システム」。 溶液を50ナノリッターという微量ずつ、96個の容器に30秒ほどで注入できます。)
前仲
もちろん大学の研究にも、いいところがあります。スピード第一ではないので、思わぬ結果を拾い出すことができます。そのためにも学生には、「実験データを素直に見なさい」と言っています。想定と違ったとき、99%は自分のミスで、理由もわかります。でも理由がわからないとき、そのときこそ大発見の可能性があるのです。
堺谷
大学ならではの苦労もあります。企業では、研究の予算は自動的についてくるものでしたが、大学では、まず予算を獲得しないといけない。いま申請書を書いていますが、経験がないので大変です。
北大のこのセンターには、ほかにどんな機器があるのですか
堺谷
製薬会社で創薬化学の研究グループが持っているような機器は、ほぼ揃っています。
マイクロウエーブ・リアクターも、その一つです。薬になりそうな化合物が見つかったとき、それを酸化したり、ある原子を別の原子に置き換えたりして、似たような化合物(誘導体)をたくさん作り、どれが有望か探ります。そうした誘導体をつくるときに使うものです。
(マイクロウエーブ・リアクター)
電子レンジのようなもので、マイクロウエーブを当てて反応を加速させます。ふつうに加熱しながら反応させるやり方だと、1日や3日かかる反応が、1時間、早ければ10分ほどで終わります。反応時間が短いので試料の分解も抑えられ、収率や純度もいいです。しかも、ロボットアームがついていて、最大8個、次々と反応させられます。
有機化合物の合成について研究するラボでは、大量に合成することに主眼を置くことが多いですが、創薬の場合には、少量だけど多種類の反応を並行して短い時間でできることが重要なのです。
これは化学などの実験室にあるドラフトチャンバーですが、前面についている強化ガラスに、アイデアを書いたり、これからの作業予定を書いたりして研究しています。
(ドラフトチャンバーの左端にかかっている、ちょっと黄色い服は、難燃性の“白衣”。「何かの拍子に火が出る試薬もあるので、企業ではみな、これですね」と堺谷さん。)
スタッフは、何人ですか
9人です。今さらに募集中で、近々、もう少し増える予定です。
後列左から、斉藤貴士(特任准教授)、松丸尊紀(特任助教)、中井戸梨恵(事務補佐員)、堺谷政弘(准教授)、前列左から加藤いづみ(助教)、逢坂文那(技術補佐員)の皆さん
※ ※ 参考情報 ※ ※
スクリーニング・ロボットが動く様子はこのビデオでご覧になれます。電子書籍『がん細胞×藤田恭之』に収録されているビデオです。