先輩、林美香子さんの話に、学生たちは釘づけ。アナウンサーやキャスターとしての経験、女性としての経験に裏うちされているからです。話の聞きやすさ、わかりやすさも、さすが。90分の授業が終わってもなお、質問と応答がつづきました。
林さんの話の一部を紹介しましょう。
農学部を卒業したのにアナウンサーになったワケ
食べ物に興味があったので、食べ物に関係した化学をやりたいと、農学部の農芸化学科に進学しました。でも、自分は化学に向いてないことに気づかされました。きちんと実験することができず、いいデータが出ないんです。
そこで、文章を書くのが好きだったので、食品会社の広報担当か、新聞記者になろうと思いました。朝日新聞を受けたのですが、見事に落ちました。たまたま札幌テレビ放送(STV)で、女子アナが5人辞めたというので募集があり、就職できました。
大学時代、教員の資格を取るために教育実習をやったことがあって、人前で話すことは楽しい、やりがいのあることだと感じていました。好奇心が強い性格も、アナウンサーに向いていました。
「自分の進路はこれだ」と決めてかかるのでなく、壁にぶつかったとき柔軟に考えることが大切です。いろいろなことに幅広く関心持つことも大切で、読書や、人との交わり、海外体験など、大学時代にしかできないことに、どんどん取組んでください。
アナウンサーの経験が生きる
アナウンサーやキャスターの仕事をつづけるうち、人間や地域作りについて学びたいと思うようになり、北大の大学院工学研究科に社会人として入学、「農村と都市の共生による地域再生」を学びました。そして今は、慶応大学のシステムデザイン・マネジメント研究科の特任教授もしています。『農都共生のヒント』や『農村へ出かけよう』という本も書いていますので、読んでみてください。
講義や講演でわかりやすく話すのにも、アナウンサーの経験がいきています。私たち日本人は、日本語の話し方を習っていません。英語だと、BとVの区別など、厳しく教えられますけど。ですから、話す力は人によって大きな差があります。練習するには、自分の声を録音して自分で聞いてみるのもいいですし、ラーメン作る3分間で一つのことをきちんと話す、といった練習もいいと思います。1年生のころから意識して練習すれば、就職活動するころには、ずいぶん力がついているでしょう。
女性として仕事を続ける
とにかく仕事をしたかったのです。専業主婦だった母を見ていて、「仕事をしていたらもっと人生が広がっただろうに」と思いました。その一方で、結婚もしたかった。独身でバリバリ仕事している人が身近にいたのですが、「キツイ性格だなあ」と思ったのです。
私が卒業した頃は、女子には公務員か教員ぐらいしか就職先がありませんでした。それでも放送局にチャレンジし、やがて結婚、出産し、STV初のママさんアナウンサーになりました。
4年後、社会に出るとき履歴書に何を書きたいか、それをイメージするとよいでしょう。充実した大学生活があってこそ、充実した社会人生活があるのです。
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林さんが講義したのは、全学教育科目の「大学と社会」(木曜日5講目)です。教室(高等教育推進機構 S1)にはまだ席の余裕があります。2年生以上の人も受講してみてはいかがでしょう。
次回は5月9日、講師は薬学部出身の川崎ナナさん(国立医薬品食品衛生研究所・部長)です。