2021年1月31日(日)、静岡科学館る・く・るにて、小林快次さん(北海道大学総合博物館 教授)が恐竜トーク「恐竜最新研究 in 2021」と題した講演会を行いました。講演会は大学の講義のように90分で構成され、カムイサウルス(むかわ竜)の話題など、さまざまな恐竜の化石に関する成果についてお話いただきました。なお、小林さんは会場入りする予定でしたが、COVID-19の感染拡大状況を踏まえ、オンラインでの講演となりました。
北海道の化石研究の“今”
白亜紀後期の化石が見つかっている北海道。その中でも、上川地方最北部に位置する中川町では獣脚類と考えられる化石が見つかっています。現在、小林さんはその化石がどのような恐竜だったのかを明らかにする研究を進めており、近い将来にはその成果を発表できるといいます。また、今年1月6日にむかわ町で発表された、新たな恐竜とみられる化石は獣脚類の恐竜の可能性が高いと考えられ、こちらについても研究を進めているそうです。
そして、話題は小林さんが調査にたずさわった、日本最大の恐竜骨格であるカムイサウルス(むかわ竜)の展示に及びました。2019年夏、国立科学博物館で開催された「恐竜博2019」はカムイサウルスの展示の影響もあり、67万8,000人以上の来場者で賑わいました。この来場者数は2019年における全国の展覧会入場数BEST1に輝く数字です。なお、北海道大学では「恐竜博2019」の際に小林さんに取材を行い、「北海道大学 恐竜学の世界」と題した映像を制作しています。
コロナ禍だから
2020年、小林さんは新型コロナウイルスの影響で、調査地のあるアラスカに渡ることができませんでした。しかし一方で、10月20日にアリューシャン列島(アラスカ州南方)を震源地とする、M7.5の地震がありました。メディアで確認すると、調査地の近くだったそうです。コロナ禍で調査は進まなかったものの、地震に遭遇しなかったのは幸いだったと小林さんはいいます。
そして現在、小林さんは国立科学博物館と凸版印刷が企画した「ディノ・ネット デジタル恐竜展示室」のオンライン講座 第3回「恐竜ココだけの話」(2021年2月20日12:00開始)に向けて準備を進めています。「ディノ・ネット デジタル恐竜展示室」では恐竜の骨格や標本資料をデジタルアーカイブして公開したり、小林さんらのオンライン講座を開いたりして、コロナ禍であってもデジタル空間で博物館の学びが得られるようになっています。
双方向コミュニケーション
小林さんのお話は70分ほどで終わり、残りは質疑応答の時間に充てられました。会場の子どもたちからのユニークな質問に対し、小林さんは専門家の立場で回答しました。その際、きちんと相手の名前を尋ね、その名前を口にしながら受け答えをし、時には逆に質問を織り交ぜて知識を確認していました。画面越しではありましたが、円滑な双方向コミュニケーションをとっていたのは印象的でした。以下は質疑応答の抜粋です。
質問(1)- デイノケイルスなど大きな恐竜は骨がスカスカ(中空状態)になっているそうですが、その場合、恐竜は怪我しやすかったのでしょうか。
回答(1)- いい質問ですね。骨がスカスカだと弱くなってしまうイメージがありますよね。大型の恐竜でも身体を支える脚自体はしっかりとした太い骨でできています。それ以外の部分、特に脊椎などは筋肉に覆われていて、簡単に骨折することはなかったと考えられています。今も生きているものだと鳥がそうですね。飛ぶために骨をスカスカにして軽くしていますが、十分な筋肉がついているので骨折しづらいんです。
質問(2)- 小林先生の恐竜研究ともだちは何人くらいいらっしゃるのですか。
回答(2)- いっぱいいますよ。私はアメリカの大学と大学院で学びましたから、その時の仲間が立派な研究者になって世界中にいるので、恐竜研究でいうとおそらく100人くらいいるんじゃないかなと思います。アメリカはもちろん、カナダ、ヨーロッパ、アフリカ、モンゴルや中国などのアジアにたくさんのともだちがいます。そういった人たちが一緒に恐竜研究しようよって誘ってくれます。
最後に
白熱した質疑応答の時間が終わった後、小林さんは会場に集まった市民の方々に向けて、締めくくりの言葉を送りました。
- 今回、静岡に行くのをとても楽しみにしていましたが、新型コロナウイルスの影響で叶いませんでした。みなさんになにより優先していただきたいのは、感染しないように注意してほしいということ。ただ、こういう中でも楽しいことはいっぱいあります。今回の「となりの恐竜展」はいいチャンスなので、ぜひ楽しんでいってください。そして、みなさんとは静岡でいつかお会いできればと思います。今日はありがとうございました。
会場には、小林さんの近著である「恐竜まみれ ~発掘現場は今日も命がけ~」(新潮社)と、監修者としてたずさわった「恐竜 骨ぬりえ」(構成・岡田善敬/KADOKAWA)が置かれていました。前者はまさにタイトル通り、息をのむくらいスリリングな発掘現場の様子が描かれています。後者は恐竜の化石に色を塗りながら、恐竜について学びを深めることのできる新感覚の塗り絵本です。自宅にいる時間が長くなる春休み、小林さんの本を手にとって恐竜に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。