今年2021年6月18日未明、札幌市東区のごく普通の住宅地にヒグマが出没し、住民と自衛隊員4名に重軽傷を負わせるという事件が起きました。北海道にお住まいの方は記憶も生々しいことでしょう。
1990年を最後にヒグマの積極的な駆除政策「春グマ駆除」が廃止されて以来、現在では個体数は増加傾向に転じ、それに伴って生息域も人間の生活圏の近くへと徐々に拡大しているといいます。このアーバン・ベアとうまく付き合っていくために、今後どういった対策や心構えが必要なのでしょうか。行政がとるべき施策、研究者の役割、そして私たち市民の積極的関与のあり方について議論する会が、今週末11月6日(土)に北海道大学学術交流会館で開催されます。
【池田貴子・CoSTEP特任講師】
札幌市内でのヒグマ出没自体は珍しいことではありません。例えば今年4月からの7か月間だけでも、ヒグマの生息する山を内包する西区、南区、中央区および手稲区で合計144件の個体もしくは痕跡の目撃情報が報告されています(2021年11月2日時点。札幌市ウェブサイト「札幌市ヒグマ出没情報」より)。それらが大きく報道されないのは、山の中にある広大な公園や自然歩道などでの目撃例がほとんどで、幸い人身事故も起きていないためです。例年、恒常的に目撃のあるエリアのため、札幌市民なら「あの辺なら、まあ。」といった認識を持つ人がほとんどでしょう。
一方、冒頭の東区住宅地の例がこれまでと違ったのは、「山から遠い街中」に「ヒグマがやってきて」起きた事故だった点です。専門家らによると、札幌市から北東に数十キロメートル離れた石狩の山に生息する個体が、河畔林や緑化区域をつたって偶然札幌市街地に入り込み、住宅街の真ん中にたどり着いてしまったものとみられています。
子どもの保育園のまん前に出た🐻⚡️子どもは車から見てギャン泣き🥺東区とは聞いてたけど…死ぬかとおもた😂#札幌市東区 #熊出没 #熊 pic.twitter.com/Dwis8KcNT7
— かな(^ω^) (@xv3vx) June 17, 2021
(ヒグマが住宅地を移動しているところへ出くわしてしまった市民のツイート)
札幌市内で熊出没とかマジか
今日は引きこもり確定🤡 pic.twitter.com/ZID7xPpoQ8— おーめんはぐれ勢 (@omen_0666) June 17, 2021
(イオン札幌元町店に迷い込んだヒグマ。警察により一帯を封鎖された。)
「つまり、もうこれからは住宅地にもヒグマが出る可能性があることを前提として生活しなくてはなりません。」と、ヒグマの会会長の坪田敏男さん(北海道大学獣医学研究院 教授)は指摘します。
適切な距離を保ちつつ人とヒグマがお互いに安全に生活するには、どういった行政システムや調査研究が必要なのでしょうか。今週末開催の「ヒグマフォーラム2021 in 札幌」では、ヒグマ管理の現状と課題、管理の成功事例から学ぶこと、そして、ヒグマとの共生にむけた今後10年スパンでの方策について、専門家らが一般公開で議論します。
農村部だけでなく、市街地に住む人間も今やヒグマ問題の立派な当事者となりました。「街に出てきたクマはただちに駆除するべき?」「どうしたらクマが街に出てこなくなる?」といった具体的な疑問や興味をお持ちの方は、フォーラムに参加してその答えを探ってみてはいかがでしょうか。