北方生物圏フィールド科学センターの苫小牧研究林では、毎年春と秋に通称「さかなまつり」が行われる。実はまつりと言っても職員総出で川の魚をすべて捕獲する調査なのだが、お祭り騒ぎのごとく行われるため、こう呼ばれている。2018年秋から数えてこの春が8回目の祭りとなる。
北方生物圏フィールド科学センターは、森から海まで多様なフィールドを擁する。[FSC的フィールド風景]ではその風景をお伝えしていく。FSCとはField Science Center for Northern Biosphere, Hokkaido Universityの略称である。
【林忠⼀・北⽅⽣物圏フィールド科学センター/いいね!Hokudai特派員】
本来この祭りは「河川性魚類長期モニタリング調査」という。調査区間は、苫小牧研究林を流れる幌内川の湧き出し口から、苫小牧市の水道水取水口までの約5,320 m。これを10 mごとに区切り、電気ショッカーを使って魚を捕獲していく。
捕獲した魚は体長や体重を測り、成熟度を判定し、写真を撮って成長過程を記録する。サケ科魚類に関してはICチップを埋め込み放流しているので、個体識別ができる。まだチップがついていない個体はチップを埋め込み、あぶらびれを切り取りDNAサンプルとする。
これだけでも個々の魚の成長の度合いや川のどの辺に住んでいるかがわかるのだが、川にはチェックポイントとして6ヶ所のICチップの読み取り機器が設置されており、チェックポイントを通過すると川を上ったのか下ったのかがわかる。これで1年を通じておおよその生活圏や移動までも捉えることができる。
これにより生息場所と、季節や水温・水量など各種要因との関係性も見えてくる。またサクラマスは海へ降るタイプと川に残るタイプがいるが、これらも個体のデータから、どういった個体が海を下り、また戻ってくるのはどんな特徴の個体なのかかが分かるのではないかと期待されている。
さて、お祭りと言えば山車が登場するわけだが、この5 kmにわたる調査区で捕獲者の歩調に合わせて移動しながら記録をするための車両は、まさに山車の風格を備えた移動計測室だ。かつてはトラックとワゴン車の2台を後ろ合わせにして使っていた。移動の度に後続車のワゴンは細い林道をバックで移動し、トラックの荷台と連結させる。計測・撮影など入力作業以外は吹きさらしの荷台で、かじかみながらの作業だった。新システムでは可動式の側面ビニールで寒さもしのげ、ケーブルドラムを使った回転テーブルや撮影ボックスで作業効率は格段に飛躍した。こうした工夫も現場の技術職員の努力があってなのだ。
計測の終わった魚は麻酔が覚めるのを待って、捕獲された場所へと帰されていく。半年後の秋、ふたたび奇祭がひらかれるまでのしばしの別れだ。こうして祭りは終わる。