FSC生物生産研究農場では乳牛やブタ、ニワトリの他に、なんと蚕も飼っている。蚕は繭を作る野生のガの一種を家畜化したもので、その成育は完全にコントロールされている。昨年の7月と9月に、専用の台紙に産み付けられ、冷蔵庫で冬眠していた卵は、5月の中旬に冷蔵庫から出されて加温される。そして約10日後、餌となる桑の葉が茂る時期に孵化する。
このほんの数ミリの生まれたての蚕を、鳥の羽で掃いて桑の葉に移す作業を「掃き立て」と言う。今では、蚕に初めて餌をやることを「掃き立て」とも言う。今日は農学部の応用分子昆虫学研究室の学生たちが掃き立てにやって来た。FSCの養蚕室では、蚕と餌を防乾紙で包み込む「包み育」と言う飼育方法を採っている。作業の終わった「包み」は温度と湿度の保たれた部屋に入れられる。
さて、蚕といえば毛の生えていないイモムシを思い浮かべるだろうが、孵化したての幼虫は毛蚕(けご)と呼ばれ、全身が毛に包まれている。この毛は脱皮して無くなるのではなく、盛んに桑の葉を食べ、太っていく体に埋まっていくのだ。そして、餌と糞の世話をしてもらいながら脱皮を繰り返した蚕たちは、6月の終りには、立派な繭を作ってくれることだろう。
立派な家畜ですとは言ったものの、人に飼い慣らされると家畜と呼ばれ、会社に飼い慣らされると社畜と言われる今日この頃。なんだか心がチクチクしてくる。そんな家畜と社畜がいるFSCとは、Field Science Center for Northern Biosphere, Hokkaido University、北方生物圏フィールド科学センターの略称である。
【林忠⼀・北⽅⽣物圏フィールド科学センター/いいね!Hokudai特派員】