「カケンヒ」と書かれた手のひらに収まるサイズの小さな箱。開けてみると中には単語が並んだ、ちょっと変わったトランプが。
スペードのAには「生命/による/実現」。スペードの2には「ニューロン/の/戦略」。そしてジョーカーには「魂/アポカリプス/予言」。合計54枚のカードに、それぞれ3つの単語が書かれています。3枚の単語の組み合わせは27通り。もっとカードを並べれば、 組み合わせは無限大。
このカードを使って「カケンヒが取れそうな研究タイトルを創る」。それがカケンヒカードゲームです。
こちらのゲーム、 科学技術コミュニケーションを学ぶプログラム「CoSTEP」の受講生、大学院生から社会人まで、所属も専門も全然違うメンバー5人で作られました。このゲームは絶対面白くなる。そう確信して突き進むこと3ヶ月超、おかげさまで無事完成しました。なんと現在無料でダウンロードができるようになっています。
この記事では製作者の一人である増田が、一家を巻き込んでこのちょっと変わったカードゲームで遊んでみた様子をお伝えします。
【増田理乃・CoSTEP18期本科生/国際食資源学院修士1年】
カケンヒカードゲームの遊び方とデータダウンロードデータこちら!
実家に帰って遊んでみた
2022年、年末。久しぶりに実家に帰り家族・親戚一同で集まりました。「久しぶりやねぇ」。なんてお昼ご飯をワイワイ言いながら食べ終わり、時間もあったのでカケンヒカードゲームで遊ぶことにしました。
「へぇ。こんなん作ったん」。「どんなゲーム?」とゲームに参加してくれたのは、両親、叔父、叔母、1歳違いの従姉妹。私を含めて6人です。もちろん私以外は全員初めてのゲーム。ルール説明をしながらゲームがスタートしました。
■ ステップ1 山札をシャッフル。1枚ずつ、各6枚配る。
「配り終わったから、みんな手札みて。他の人に見えてもええで」。
私の説明のあと、みんな一斉に手札をひっくり返します。
「なんか単語並んでるけど。アポカリプスって知らんわ」。
「DNA/を/の開発ってカードの単語全部繋げても意味わからん。どうすんの?」
と早速疑問が投げかけられます。わからないとすぐ聞いてくる父や母に「ああ、実家やわ」と思いながら、「上段が名詞、中段が助詞、下段が締めの言葉になってるねん。他のカードと組み合わせてタイトル作ってくねん」。と答え、私も手札をひっくり返しました。
■ ステップ2 手札を組み合わせ、予算が取れそうな研究課題名を作る。
「1回だけ、決めた枚数を山札と交換してもいいから〜。じゃ、今からシンキングタイムな。健闘を祈る」。
最低限のルール説明を受けた参加者達。手札を見て研究課題名に取り掛かります。初めは嬉々としてカードを動かしタイトル案を考えていたのですが…。5分ほど経った時点で「難しい」との声が。
「1枚のカードで1単語しか使えへんねんな。「の」が欲しいねんけど、使われへん。カード交換しよかな」。
1枚のカードで使いたい単語が複数あったり、使いにくいカードの時はより良いカードを求めて山札で交換する博打に出ることもできるこのゲーム。発想力だけでなく運も重要な勝利への鍵なのです。恐る恐るカードを交換する叔母さんにはお目当てのカードが来なかったよう。引いたカードを眺めて、また迷い出しました。
「ムーンショットって何やろ。調べてもいい?」
「月撃ち落とすんかなぁ」。とおもむろにパソコンで調べ出したのは叔父。正規ルールでは検索について記載はありませんが、わからない単語は調べても良いという我が家ルールも付け足しました。ゲームの参加者によって柔軟にゲームのルールを改変できる。それがカケンヒカードゲームの良さの1つなのです。結局ムーンショットのカードは交換されましたが(笑)。
■ ステップ3 研究課題を発表。魅力的にプレゼンし、質疑応答。
シンキングタイムから10分超。ようやく最後の1人が研究課題を作り、というかそのタイトルでプレゼンする覚悟ができ、とうとう発表が始まりました。
「私の研究課題は、応用ゲノムに基づく新タンパク質探索です。ゲノムを応用することで、新しいタンパク質を探す方法をより探索してきましょうっていう、すっごく真面目な研究です」。
一番手で意気揚々と発表したのは父。本人が宣言するだけあって真面目で、いかにもありそうな研究内容。しかし参加者は一斉に突っ込みます。
「いや、ほんまにそのままやな」。
「なんもひねってへんやん」。
「そんな何も変哲のない研究課題、あかんやろ」。
それはもう集中砲火。父も思わずうなだれます。しかし全員が突っ込んだのもそのはず、実はみんな何とかして「面白い」研究課題を作ろうと苦心していたのです。関西人たるもの、ゲーム1つでも笑わせる。何とかしてオチをつける。それが当たり前なので、父の正統派なタイトルは全く受け入れられませんでした。ちょっとかわいそうでしたが、その場の雰囲気も考えて研究テーマを考える必要があるのです。
その後も「火星の起源に対するビックバンによる解明」「総合的なエネルギー研究によるカオスシミュレーション」「QOLに及ぼす高信頼の技術意識開発」「iPS細胞 革新的な真実に挑む」…。どんどん発表が進み、それぞれツッコミと質問、こじつけありの答弁に大笑いしながら議論が盛り上がります。そんな中、満を持して発表したのは従姉妹でした。
「私の研究テーマはワクチン宗教の脳ウイルス戦略です。ワクチンは打つものという意識が、実はウイルスに操られていたということがわかっため、そのメカニズムや予防策を研究するということです」。
「ワクチン宗教」というパワーワード。ウイルスに意識が操られていたというぶっ飛んだ仮定。そしてそんな状況を発想した従姉妹にみんな唖然とし、それから質問責めにします。
「え、じゃあ医療側の陰謀をもう暴いたってこと?」「そのウイルスに意識が操られてたっていうのはどうやって証明したの?」「というか、ウイルスって脳まで入れるの?」「ウイルスがワクチンで侵入するってこと?弱毒化ワクチンってこと?」…。
■ ステップ4 投票
科学的な質問からそうではない質問までありましたし、従姉妹もこじつけの部分もありましたが、製作者の私も「こんな研究テーマあり!?」とつっこんでしまうほど奇抜で目の付け所が面白いと感じました。最後に、各自1票ずつ一番いいと思った研究テーマに投票してみると全員が彼女に票を入れるという結果に。何度か遊んだアドバンテージのある私は悔しがりつつも、このゲームが科学的素養のある人にもない人にも面白いゲームになっているという実感を抱きながらこの体験会を終えたのでした。
遊び方は他にも!
今回の遊び方はシンプルルールでしたが、そのほかに親を決めて親が出したお題に沿った研究テーマを作る「モンカショウルール」もあります。また今回我が家で検索 OKのルールを追加したように、オリジナルの遊び方も大歓迎。無料でダウンロードして印刷すれば、どこでも遊べます。
今回実家で遊んだ際、「科学的な新しい言葉の勉強になるな」。「こんなに頭使ったん久しぶりや」。といった感想もありました。そして、私が落ち着いていると思っていた従姉妹が突飛な研究テーマを出してきたり、専業主婦の叔母が本質的な問題を質問したりと、家族・親戚たちのいつもとは違った一面を見ることができました。
皆さんもぜひ、研究室の仲間・友人・家族など、身近な方と一緒に遊んでみてください。想像もできないような研究タイトルと新たなコミュニケーションが生まれること、間違いなしです。
カケンヒカードゲームの紹介記事や開発秘話の記事も是非ご覧ください。