最近ではスーパーやコンビニなどでもフードロス削減のための値引きや、家庭で余っている食品の回収などもよく目にするようになり、身近な言葉となってきたフードロス。
このフードロスについての取り組みを行うフードロス削減コンソーシアムのフォーラムが2023年3月15日に北大で開催されました。
フードロス削減コンソーシアム(以下、コンソーシアム)とは、北海道大学、北海道科学技術総合振興センター、北海道立総合研究機構、セコマグループが食品の生産、流通、小売等のサプライチェーンにおけるフードロス問題の解決と歩留まり向上を目指し2020年に設立されたものです。
歩留まりとは、生産した数における出荷できる割合のことで、廃棄しなくて済んだ割合と言い換えることもできます。
【森沙耶・北海道大学CoSTEP】
このフォーラムでは、まず最初に代表である北海道大学触媒化学研究所の福岡淳さんが取り組んできたプラチナ触媒についての発表が行われました。
触媒とは、反応により自分自身は変化せずに、反応を加速する物質のことで、化学反応を大幅に効率化させます。たとえば中学理科で学習する酸素の発生法の一例であるオキシドールと二酸化マンガンの反応では、二酸化マンガンが触媒となります。
福岡さんはプラチナを触媒とし、野菜や果物から発生するエチレンガスを酸化分解することで熟成や腐敗を遅らせ、鮮度保持を可能としました。
この研究は家庭用冷蔵庫にも応用されており、我々の身近なところでも野菜などの鮮度保持に貢献しています。
また、より大規模な検証も行われており、コンソーシアムでは、セコマのバナナを保管している保管・熟成庫においてプラチナ触媒を設置し実験を行い、熟成の進行を遅らせるために低温に設定していた庫内の温度を上げてもプラチナ触媒により同様の効果が得られることがわかり、結果的に電力消費量の削減につながりました。
フォーラムでは、高校生や高等専門学校生を対象とした、プラチナ触媒による保存技術を活用するためのアイデアを募る「チャレンジ!フードロス削減アイデアコンテスト」も行われ、参加した5校8チームのうち、審査により決定した上位3チームによるアイデア発表が行われました。
審査委員長賞を受賞したのが、岩見沢農業高校の野菜班が行った「プラチナ触媒を用いた農産物の収穫時期調整に関わる調査」です。
この調査は、普段から農家の方とやり取りをしている中で、農産物は旬の時期に多くの生産物が出荷され、供給過剰となってしまい廃棄処分につながることや、安価な価格で流通するため収益性が下がってしまうことが問題意識としてあり、それをプラチナ触媒を用いて収穫時期をコントロールすることが可能になれば解決できるのではないか、という仮説のもと行われました。実験では明確な関係性は明らかにできなかったものの、これからさらに実験を重ねて検証していくとのことです。
フォーラムに出席していた野菜班の本間遥渚さん(2年)は「受賞できて嬉しいです。研究を後輩たちに引き継いでいきたいです」と受賞を喜びました。
本間さんの実家は農家で、身近に実際に農業を行う人がいるのでこの成果を伝えていきたい、とも話してくれました。
ほかにも北海道知事賞に夕張高校のリンゴとほうれん草を用いて実験を行った「青果運搬コンテナ」が、チャレンジフィールド北海道賞に静内農業高等学校が三石特産の花きなどへのプラチナ触媒の効果を実験した「プラチナ触媒がデルフィニウムの出荷前貯蔵に及ぼす影響」が選ばれました。
このコンテストは2023年度も開催され、募集が始まったばかりです(詳しくはこちら)。今後はフードロスのみならず花の廃棄に関する問題であるフラワーロスなどへの応用も期待されます。
フードロスは世界で年間13億トンあると言われており、これは世界の飢餓をまかなえる量だといいます。企業や大学の取り組みに注目しつつ、まずは私たちの暮らしの中に見直せる無駄がないか、改めて考えていきたいですね。