教養部の前から、舗装路が一キロ近くのびて、クラーク会館につき当たる。北大構内の中で、一番長いこの道を、学生たちは中央道路と呼んでいた。その中央道路を、五講を終えた陽子が歩いていた。
いつの間にか桜の時も過ぎ、構内には新緑が溢れている。特に工学部前のかえでは美しく、その下を行く陽子の顔や白いブラウスにみどりが映えていた。
三浦綾子『続・氷点(下)』初出1970-71(角川文庫版1982, p64)
北大は数々の物語の舞台になってきました。四季折々の風景、その中で織り成される人間模様。作家たちの筆は鮮やかにそれらを描き出します。そんな小説の中の北大を時折お伝えしていきます。
初回は、北海道を舞台に罪と赦しをテーマにした長編『続・氷点』。ヒロインの陽子は長じて北大生になり、クラーク会館や中央ローンなどが頻繁に登場します。
今回とりあげた部分では、工学部前にかえでがあると書かれていますが、実際にハウチワカエデが立っているのです。これが『続・氷点』の構想・執筆当時からあったものかどうかは定かではありませんが、歩道に張り出した枝葉はまさに作中そのまま光景です。