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#47 祖父の記憶とともに博物館の未来を見る/卓彦伶さん(文学研究院 特任准教授)[FIKA No.3]

CoSTEPとダイバーシティ・インクルージョン推進本部の連携企画、ロールモデルインタビューFIKA。

FIKAとは、スウェーデン語で甘いものと一緒にコーヒーを飲むこと。

キャリアや進む道に悩んだり考えたりしている方に、おやつを食べてコーヒーでも飲みながらこの記事を読んでいただけたら、という思いを込めています。

 

第三弾は文学研究院の卓彦伶さん。

卓さんは博物館と市民との関わり合いについて研究している研究者であり、大学院進学の際に留学生として台湾から日本へやってきました。元々博物館に興味があったわけではなく、社会人のときに経験したあることをきっかけに強く博物館の役割に興味を持ったということです。

【森沙耶・北海道大学CoSTEP + ダイバーシティ・インクルージョン推進本部】

祖父の死をきっかけに気づいた博物館の役割

 

大学では歴史学を専攻し、卒業後は台湾の出版社に就職。「このときはやりたいこともキャリアプランもなく、なんとなく就職活動をして働き始めたんです」と卓さんは話します。出版社では日本で流行した実用書やビジネス書などの権利を買い、翻訳し台湾で出版するという仕事を担当していましたが、その多忙さから2年目に入った頃体調を崩し始めます。

時を同じくして、中学まで一緒に暮らしていた祖父が亡くなり、おじいちゃん子だったという卓さんは、非常にショックを受けます。その祖父の葬儀の際に博物館の学芸員が訪れ、遺族である卓さんらに「おじいさんのことについて記録を残したいので聞き取り調査や仕事道具の寄贈にご協力いただけませんか」と尋ねます。卓さんの祖父は地元の冠婚葬祭などの際に出向いて料理を作る出張料理人として働いていました。法規制や時代の流れもあり、出張料理人自体がなくなりかけていたときで、学芸員はその土地の記録として残しておきたいと考えたとのことです。

博物館の調査に協力した卓さんは、祖父の仕事道具が博物館に収蔵され、祖父が働いていた記録が町全体の歴史として刻まれていく過程を目の当たりにし、祖父の存在を第三者が価値づけてくれたことが嬉しく、家族として誇らしく思ったそうです。この経験が「博物館と地元の人の記憶」について興味を持つきっかけとなります。

日本への留学と修士論文で得た初めての達成感

 

その後、激務だった仕事を退職し、大学院進学を真剣に考え始めます。地元の大学に相談してみると「博物館学を学びたいなら留学したほうがいい」とアドバイスを受け、海外の博物館学を研究できる大学院を探す中で北海道大学の佐々木亨先生の研究室に行き当たり、進学することに。

他にも留学先の選択肢はある中で、決め手となったのは二つ。これまで日本が直面した課題に、数年後に台湾が経験することが多く、博物館に関わる文化政策においても同様のことが言えるのではないかと思ったことと、「子どものころ、おじいちゃんと一緒にテレビでよく日本の時代劇を見ていたので、親しみ深い日本へ留学したいと思いました」と卓さん。このときはまだ日本語の勉強を始めたばかりで、当時、出願に必要だった日本語能力検定を受験するためにまず大阪の日本語学校に留学し、その後札幌へ。

修士課程に入学すると、言語の壁が高く立ちはだかります。「ゼミや授業の日本語がほとんど聞き取れなくて、やる気はあるのに実力不足でついていけないもどかしさを感じていました」と卓さん。同級生や先輩方に助けられながら徐々に研究も日本語の勉強も進めることができ、研究が面白くなっていったのが修士2年のときということでした。フィールドでの調査をもとに修士論文をまとめ、はじめてこれまで感じたことのない達成感を得たといいます。

(卓さんの仕事がある日のスケジュール。プロジェクト関係者とのミーティングが多く、メールのやり取りでは日本語特有の言い回しや時候の挨拶などに気をつかうそう)

 

親の反対を押し切り、進んだ博士課程

 

修士研究をもとにさらに博士課程で調査を進めて研究を発展させたいと考えますが、その決心を押し進めたのには他にも動機がありました。修士2年のときに博士3年だった先輩の存在です。

「先輩が研究に真剣に向き合う様子を間近で見ていて、これまで何かを見てすごいと思うことはあっても、こうなりたいと思ったことはなかった自分がはじめて、こういう生き方をしたい!と思いました」と卓さんは語ります。製本された先輩の博士論文を見て自分も研究者として進んでいきたいと強く思ったといいます。

博士課程進学にあたり、両親へ相談すると強い反対を受けてしまいます。進学について電話で話した翌日、急遽両親が台湾から札幌へ。自分のキャリアややりたいことよりも早く家庭を持ってほしいと博士課程進学を反対されます。特に父親から言われた「女性はあんまり勉強しすぎると結婚してくれる人がいなくなるよ」という言葉と、母親から言われた「周りの人は結婚して子どもを産んだり、家を建てたりしているのに、あなたは成長しているの?早く台湾に帰ってきなさい」という言葉は今も忘れられないと言います。

しかし、日本に残り博士課程進学を決断した卓さんは「親が望む道に進むことはできないし、説得もできなかったけれど、社会に出たくないから大学に残っているとは思われたくなかった」と、企業のインターンシップとして働きながら、ますます研究に邁進します。そのうちに両親が、大学院に残ることに納得はしていないものの、娘が外国で生活に困らないようにと出してくれていた生活費も関係の悪化から止められてしまいます。

 

(研究室の棚には卓さんのお気に入りのカピバラが並びます)
 
就職のタイミングとビザの問題

 

その後、博士号を取得。アカデミアへの就職を希望するものの、博士課程を修了し卒業するタイミングで留学ビザが切れてしまうため、すぐに就労ビザに切り替えないと日本にいられなくなってしまうことから、就職先を探すのにとても苦労したといいます。興味のあるポストであっても、雇用期間や雇用形態によっては諦めざるを得ませんでした。ポストがなく台湾へ帰ることも検討していましたが、やはり日本で博物館研究に関わっていきたいと考え、政策に関わる仕事ができるシンクタンクへ就職。

シンクタンクではこれまでの研究とは違う角度から提案をしたり報告書を作成する仕事を通して、公共政策に関わる意思決定のプロセスを現場で学んでいったといいます。このときの経験について卓さんは、博物館が難しい状況に置かれている背景について、リアルな感覚をつかめたのが最大の収穫だったといい、「必要な肌感覚としてリアルな部分を知ったうえで研究していかないと、誰の役にも立たない理想論になってはいけないと思ったんです」と振り返ります。

その後、希望していたアカデミアのポストに応募、現在の職に就きます。やりたい仕事に就けて充実した毎日を送るものの、ビザの問題が常に卓さんを悩ませます。現在のポストは毎年雇用契約を結び直すため、在留資格が1年しかなく、その不安定な状況から「どうしても長い目でキャリアを考えることができない」といいます。卓さんが関わっているプロジェクトは3年計画で、現在2年目。その後のキャリアをどうしていくかも考えなければいけない時期に差し掛かっています。

博物館と人々との関わり方は多様であるため、これからも日本で博物館と市民との関わりについてまだまだ研究していきたいと考えている卓さん。北海道大学プラス・ミュージアム・プログラムで卓さんは道内を飛び回り、博物館関係者にインタビュー調査を行っています。オンラインでもインタビューを行うことはできますが、あえて現場に直接行き、展示やバックヤードを見学しながらインタビューをすることで、卓さんの研究を推し進める原動力の根底にある博物館と地域の関わり合いや、それに付随する課題を深く捉え、記録しています。

祖父の死をきっかけに気づいた博物館の役割や存在意義を、北海道で問い直す。卓さんの研究はまだまだ続きます。

 

(卓さんの研究のおともはいつも文系棟の生協スモールショップで購入するアイスティー)

FIKAキーワード 【留学生の就職】

留学の在留資格をもって日本に在留する留学生が日本の企業等に就職する場合、在留資格変更許可申請を行う必要がある。

(卓さんも直面した、在留資格の変更がスムーズに認められないことが課題として挙げられている)〈転載:内閣府「科学技術政策推進に係る隘路調査」(2004)〉

 

 

 

 

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2023.05.30

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