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#191 下水でコロナの今を知る

5類感染症に移行し、全数把握から定点把握へと変わった新型コロナウイルス感染症。その流行度合いを測る新たな指標として、下水サーベイランスが注目を集めています。これまで、ただ水に流しておしまいだった下水を使って、新型コロナの流行状況を把握したり、流行の予測を行ったりできる手法です。

工学研究院准教授の北島正章さんは、この下水サーベイランス研究を牽引している研究者の一人。新型コロナが流行し始めた2020年4月、世界に先駆けて、下水サーベイランスが新型コロナの流行把握に重要であるとの論文を、共同研究者とともに発表1)しました。定点把握へと移行し、流行の把握が困難になってきた今、下水サーベイランスの価値はさらに高まってきています。

新型コロナの下水サーベイランスは日本各地の自治体で行われており、北大が位置する札幌市もその自治体のひとつ。今回は、札幌市における新型コロナの下水サーベイランスの現状を踏まえながら、下水サーベイランスの今後について、北島さんと一緒に考えてみます。

【寺田一貴・CoSTEP博士研究員】

(工学研究院 准教授 北島正章さん。先月8月に受賞した日本医療研究開発大賞「健康・医療戦略担当大臣賞」の表彰楯とともに)
5類移行、全数把握から定点把握へ

2020年2月1日、新型コロナウイルス感染症が流行の兆しを見せ始めたことをきっかけに、新型コロナは感染症法における指定感染症に指定されました。感染症は、どれくらい感染しやすいか、また、感染した場合に症状がどれくらい重篤になるかによって、1類~5類に分類されています。新型コロナは、当初特性がわからなかったため、2類相当として扱われていました。その後、この5分類に当てはまらない「新型インフルエンザ等感染症」に位置づけられ、外出自粛要請や緊急事態宣言など、2類よりも厳しい措置がとられていました。

流行を何度も繰り返しながら、3年以上続いた新型コロナウイルス感染症は、本年、2023年5月8日から、5類感染症に移行されることになりました。直近の第6波や第7波で流行した株が、重症化リスクの低いオミクロン株であったことや、そのオミクロン株に対応したワクチンの接種が広まったことが、主なきっかけでした。

(2020年1月16日から2023年5月8日までの感染者数の推移。「データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報- – 厚生労働省」より作成。)

5類感染症に移行して大きく変わった点は下表のとおり。特に、感染対策は個人や事業者の判断に委ねる、といった文言は、5類移行後、よく目にするようになりました。加えて、感染症がどの程度発生しているかを調査する方法も大きく変わりました。2類相当の段階では、毎日患者数や死亡者数を全数把握・公表していたものが、5類移行後は、あらかじめ指定された医療機関(定点医療機関)からの報告をもとに、一週間の患者数を公表する方法となりました。

(2023年5月7日までの2類相当から2023年5月8日以降の5類相当との比較。「新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行後の対応について – 厚生労働省」を参考に作成。)
第三の観測道具、下水サーベイランス

全数把握から定点把握になった新型コロナ。全数把握は、感染者の発生数だけでなく症状や基礎疾患もあわせて把握できるものの、医療機関や保健所の負担が大きいことが難点です。他方、定点把握では、こうした負担は抑えられるものの、これまで行われていたような、全数把握で得られた詳細なデータをもとにした流行状況の把握や予測は困難です。

そこで第三の観測手法として注目を集めているのが、今回のテーマ「下水サーベイランス」。下水サーベイランスとは、下水に含まれるウイルス濃度を検査、監視する手法です。原理上は、糞便や唾液中にウイルスRNAを排出する感染症は、下水サーベイランスで検出可能とされています。新型コロナウイルスもこのタイプのウイルスの一つで、下水サーベイランスで検出できるというわけです。この下水サーベイランスは、定点把握とは異なり、受診したかどうかに影響を受けないため、無症状の感染者を含めた感染状況を把握できる、客観的な指標としての活用が期待されています。

(下水疫学による感染者推定)〈資料提供:北島正章さん〉

全数把握の取りやめを機に、ますます注目を集めている下水サーベイランス。しかし、その重要性を世界に先駆けて訴えていた研究者がいました。その一人が、工学研究院准教授の北島正章さん。北島さんは、新型コロナが流行し始めた2020年4月の段階で、下水サーベイランスが新型コロナの流行把握に重要であるとの論文を、共同研究者とともに発表し、下水サーベイランス研究を牽引しています。こうした業績が評価され、北島さんは、2023年4月に文部科学大臣表彰を受賞、また、先月8月には、塩野義製薬、AdvanSentinelとともに、日本医療研究開発大賞「健康・医療戦略担当大臣賞」を受賞しました。

(下水を採取する北島さん)〈写真提供:北島正章さん〉
札幌市における新型コロナウイルスの下水サーベイランス

全数把握の取りやめを機に、注目を集めている下水サーベイランス。日本各地の自治体では、新型コロナの下水サーベイランスの導入が進んでいます。北大の位置する札幌市も、その自治体の一つ。2021年2月から、新型コロナの下水サーベイランスが行われているほか、2022年10月からは、インフルエンザウイルスの下水サーベイランスも行われています。

札幌市は、創成川水再生プラザ、豊平川水再生プラザ、新川水再生プラザの3箇所で、週3回、流入する下水に含まれるウイルスのRNA濃度を測定しています。この結果は、流行の予測に役立てられており、札幌市のウェブサイトで公開されています。札幌市は、新型コロナが5類に移行した現在でも、当面は下水サーベイランスを継続し、全数把握の取りやめで得られなくなったデータを補完していくとしています。

(2022年1月1日から2023年8月27日までの期間における、札幌市の新型コロナウイルス下水サーベイランスの結果。グレーのグラフが全数把握による新規陽性者数を、青の折れ線グラフが下水サーベイランスによるウイルスRNA濃度を示している。全数把握が終了した2023年5月8日以降も、下水サーベイランスが流行を知る指標となっていることが見て取れる)〈出典:「下水サーベイランス – 札幌市」〉
下水サーベイランスのこれから

下水サーベイランスの今後について、北島さんは、新型コロナのワクチンや治療薬の開発、運用にも役立てたいと語っています。すなわち、下水サーベイランスによって、どのウイルスが流行しているか、あるいは、そのウイルスのどの変異株が流行しているかを知ることができれば、その流行にあわせたワクチン接種を進めたり、治療薬を製造したりすることができます。また、流行しているウイルス、ウイルス株を知ることは、薬剤耐性ウイルスの出現を予測することにも繋がります。

ますます価値が高まってきている下水サーベイランス。下水サーベイランスで感染症の今を知り、知見を蓄積していくことで、より感染症に強い社会になっていくのでしょう。

参考文献

  1. Kitajima, M. et al. 2020: “SARS-CoV-2 in wastewater: State of the knowledge and research needs”, Science of the Total Environment, 739.

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Update

2023.09.14

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