現在北海道大学総合博物館1Fラウンジにて、2月17日から3月17日まで『色鉛筆の恐竜博』を開催しています。生気を宿ったような透き通った瞳、緻密でリアルな皮膚のシワ、ヒダ、鱗、羽毛・・・。色鉛筆でここまで表現できるとは!迫力ある原画の数々に囲まれた空間は圧巻で、博物館の厳格な雰囲気ともマッチしています。
作者はなんと、現役北大生のウツシロ ハルヒラさん。ウツシロさんは、総合博物館の進化古生物学研究室に所属し、現在博士課程3年生です。なるほど、あのスーパーリアルな恐竜たちは卓越した制作技術に専門的な恐竜の知識を掛け合わせているからこそ生み出せるのですね。しかし、何故色鉛筆画家に?いろいろお聞きしたいこともあり、ウツシロさんと会場のラウンジにてお会いしました。
【大内田美沙紀・北海道大学CoSTEP】
(『色鉛筆の恐竜博』会場の様子)
あの緻密で繊細な恐竜達を生み出すウツシロさんはどのような人なのでしょうか?ラウンジにて緊張して待つと、若々しく屈強な男性が現れました。
ウツシロさんは元北大のアメフト選手、趣味はウエイトリフティングとのこと。ペンネームの「ウツシロ ハルヒラ」はウェイトリフティングの大会で本名の宇津城 遥平(うつき ようへい)が間違って読まれたことが由来だとか。こんな力強い人からあんな繊細な色鉛筆画が!イメージのギャップに驚きつつ、インタビューを始めました。
色鉛筆画を始められたきっかけは何だったのですか?
実は、2018年に大学院入試に受からず浪人をしてしまい、半年間ほど暇な時期がありました。その間、何か趣味を見つけようと思い、カフェでイラストを描き始めたのがきっかけです。はじめは12色の手軽に持ち運べる色鉛筆を使って、ティラノザウルスなどの有名な恐竜から練習をしました。
完全独学ですか?
はい。YouTubeに色鉛筆画家の解説動画があるので、それを見ながら技術を磨きました。
それは凄い!現在は色鉛筆と紙はどのメーカーの物を使って、どのぐらい時間をかけて制作しているのですか?
自分は筆圧を込めて描くので、芯が丈夫なファーバーカステルのポリクロモスを中心に、足りない色はカランダッシュのルミナスなどから選んでいます。紙は、頑丈な厚口ケント紙を選んでいます。時間は・・・そうですね、毎日数時間描いて、3日から1週間で1作品が出来るので、1作品で10時間〜20時間ぐらいでしょうか。
目や鱗の白いハイライト部分や透き通った羽毛の表現は白の色鉛筆では作れないですよね?どのように工夫されているのですか?
ハイライト部分はマーカーのポスカを使っています。羽毛などは色鉛筆で厚みのある層を作った後、セラブレードなどで削って作っています。
ブレードで削って!?だから頑丈な紙が必要なのですね。
はい、そして削った後にまた薄く色をつけて微妙な濃淡を表現しています。
なるほど、手の込んだ技術ですね。今使っている画材ではもう、手軽にカフェでは制作できませんね。
そうですね(笑)今は主に自宅で制作しています。
アナログにこだわる理由はありますか?
デジタルでも制作したことはあります。デジタルの方が修正もしやすいですが、どうにも目がチカチカして・・・色鉛筆に戻りました。
色鉛筆画の修正はどのようにしていますか?
描き始めたばかりのときは消しゴムで消し、既に制作が進んでしまっている場合は削ったりします。どうしようもない場合はゼロから描き直しています。
今は存在しない恐竜達。いったいどのように復元しているのですか?
まずは文献を読み、既にプロによって復元されているならそれらを一通り調べます。そして、現存する生き物のポーズや色などを参考に、ときには複数の生き物の特徴を混ぜ合わせたりして描いています。よく参考にする動物はカメレオン、トカゲ、鳥類などです。
色はどう決めているのですか?
恐竜の色はほとんど分かっていないので、これはもう、参考にした動物の色か、自分の感覚で決めています。たとえば「ダイナソー小林」こと小林快次先生の研究で有名になったカムイサウルスには、目の周りや顎などに鮮やかなオレンジ色の飾りを入れてみました(※小林先生の監修で復元されたわけではありません)。これらがあったという科学的根拠はないですが、少なくともなかったという証拠は見つかっていません。他の部位で参考にした動物はイグアナで、イグアナが持つ顎の下の丸いこぶ(鼓膜下大型鱗)も付けています。
確かに、良く目にするカムイサウルスの復元画とはちょっと違いますね!
はい、こういったところで自分のオリジナリティを出しています。もちろん、これまでの復元画に倣って描く恐竜もあります。
これらの恐竜の復元画は、研究論文の挿絵としては使われないのですか?
今のところ、そういった依頼はありませんが、いずれ自分の研究論文の挿絵として使えればいいと思っています。
是非そうするべきだと思います!ウツシロさん、お忙しいところありがとうございました!
これからも色鉛筆画を描きながら研究を続けていく
ウツシロさんは現在、恐竜の形と動き方の進化について研究されています。来月からは博士課程4年生。これからもアカデミアに残り、色鉛筆画を続けていかれたいとのこと。ウツシロさんの今後のご活躍、そしてこれからも生み出される色鉛筆画が楽しみです!ウツシロさんのSNS(XおよびInstagram)では、数々の色鉛筆画を随時公開しているので、ご興味のある方はフォローしてみてください。
『色鉛筆の恐竜博』の開催は3月17日まで!原画をご覧になりたい方は是非北大総合博物館に足を運んでみてください。
開催情報
会期:2024年2月17日(土)~ 3月17日(日)・月曜日は休館日のためお休み
時間:10:00~17:00
会場:北大総合博物館1階ラウンジ
入場料:無料
北海道大学総合博物館 公式Facebook:【2月17日~3月17日 色鉛筆の恐竜博~アカデミアの魅力・アートの調べ~展開催のお知らせ】色鉛筆の恐竜博2023
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