北大のだだっ広い構内を真っ直ぐに貫くメインストリート、その中間と言えなくもない地点には、大野池という池があります。通称は「ひょうたん池」らしいのですが、普通に大野池大野池と呼んでいる人が多数であるように見受けられます。鴨たちがノンキに泳いだり歩き回ったりして、 夏季には蓮の葉が生い茂りぽつぽつと綺麗な花を咲かす憩いの場。
さて、その大野池、奥のベンチに陣取っているわたしとアリハラせんぱいです。
阿川せんり『アリハラせんぱいと救えないやっかいさん』(KADOKAWA2017, p25)
木々の葉が色づき始め、今週から後期授業も始まりました。今回の「物語の中の北大」で紹介する『アリハラせんぱいと救えないやっかいさん』はまさに今時期から始まる物語です。
わたし=子鳥多喜(コドリタキ)は真の変人と出会うために北大に入った文学部2年生。彼女は変人と思われた文学部3年のマイ先輩や、理学部2年のミレイさんに近づきますが、しばらく付き合ってみると、二人は特別な存在になりたいために変人を装っているだけの人=「やっかいさん」だと気づき、距離をとろうとします。しかしマイ先輩もミレイさんもそうはさせず、事あるごとにコドリにまとわりつきます。
そのいざこざの間にわって入ったのが「アリハラせんぱい」ことアリハラミレイ文学部人間システム科学コース4年。彼女の卒研テーマは、質問紙調査で少数派の回答をする人は囚人のジレンマゲーム等でどのような回答をするのか、要するに「変人」の行動や心理を分析する研究であり、それ故3人に関心を持ったのだと言います。
ゆるゆるとした文体のドタバタコメディめいた物語ですが、全体の2/3をすぎたあたりから怒涛の転回を見せます。いろいろこじらせている彼女たちの関係はどうなるのか? 気になる方、そして物語の中の北大・札幌に行きたい方はぜひご一読ください。
今回紹介した一節で描写されている大野池は、その後もたびたび登場し、重要な舞台となっています(ちなみに年代によっては大野池ではなく、ひょうたん池と呼ぶ人が多いかもしれません)。本作ではその他にも、文学部図書室前、北図書館、北部食堂、工学部食、サークル会館が登場し、学外では札幌駅のスタバ等、すすきののノルベサ、琴似のレンタルビデオ屋、大通公園のクリスマス市、北18条界隈、北12条のホルモン屋やぼろアパート、コーヒー焼酎なども描かれます。北大文学部出身である阿川せんりさんだからこそのディティールといえるでしょう。