大食堂は戦場のようにごった返していた。券売機で食券を買い、調理場のカウンターでラーメンを受け取り、空いた席を見つけて腰を下ろすまでに、十分近くもかかった。
食卓の上は、マルクス派、民主派、全闘委、その他のビラの洪水だ。俺たちも負けてはいられない。今日中に会議を開いて、明日には今年初めてのビラを出さなければ……。
北野慶『復刻版 極北のレクイエム』(kindle版2021)彩流社1986
大学は単なる学びの場ではなく、多様な人々の生活の場でもあります。その中でも、空腹を満たそうとする人々でごった返す食堂は、学術の世界とは違う一種異様な熱気がこもる場所です。
そんな教養食堂(現・北部食堂)を描写した冒頭の一節は、北大文学部哲学科出身の北野慶さんによる小説『極北のレクイエム』からの引用です。時は1969年、主人公の島浩一郎(教養部2年)は学生運動に微妙な距離をとりつつも、徐々に活動の主体となっていきます。しかし、様々な党派が入り乱れる中で、友人でもあり活動家でもある山根慧(教養部2年)や小竹伊知郎(理学部4年)たちとすれ違い始めます。
そして引用したシーンの直後、ビラを見ていた山根は教養食堂で、小竹はクラーク会館近くの路上で鉄パイプを持ったマルクス派に襲撃されます。2名とも中央派との疑いをかけられたことによる、いわゆる「内ゲバ」での惨劇です。
本作では、吹雪舞う北大通りや紅葉の銀杏並木、クラーク会館なども描写されており、島や学生たちの討論からは、当時の学生たちの言葉や心理をうかがうことができます。学生運動に文字通り命をささげる島たちと現在の大学を比べると隔世の感があります。今はもう食堂の机の上にも、学生運動のビラはまったく見当たりません。
北部生協は当時の雰囲気を残しつつ、何度も改装を経ています。今日1月31日から3月14日までは、2階の購買部と書籍部は改装のため休業となります。食堂は営業していますが、授業終了等に伴い、2月3日から3月31日まで短縮営業(11時-18時)となります。新入生でごったがえす4月まで、しばし静かな時間が流れることになるでしょう。