【植田康太郎│2025年度CoSTEP受講生】
北海道大学の正門近くに位置する「北大マルシェCafé&Labo」は、北大の農場の牛からとれた牛乳を中心とした北海道の食材にこだわったカフェです1。
牛乳は餌の違いによって、季節で味が変わります。一般的に、牛乳は夏はあっさり、冬は濃厚になります。「北大マルシェCafé&Labo」で提供される北大牛乳は、この季節による味の変化をハッキリと感じられます。
今回は、北大マルシェCafé&Laboの店長である白戸雄翼さんに、そんな北大牛乳の特徴や店舗の遍歴、そして食材へのこだわりについてお話を伺いました。

北大マルシェCafé&Laboの誕生
北大マルシェCafé&Laboが誕生したのは2017年。
きっかけは、北大農場で丁寧に育てられた牛の牛乳が、一般の牛乳と混ざって出荷され、北大の牛乳であることがわからない形で流通していたという現状でした。
白戸さんは語ります。
「北大の牛には長い歴史があります。そのうえ、飼育方法もこだわっているのに、名前のない牛乳として流れていくのがもったいない。北大牛乳を“北大の牛乳”として味わえる場所を作りたいという思いが出発点でした」
このような思いから、北海道大学大学院農学研究院の小林国之さんと三谷朋弘さん、そして酪農家の大黒宏さんの三人が中心となって、北大牛乳の価値を伝える拠点として北大マルシェCafé&Laboが誕生しました。
名前の由来は、大学院の授業の一環として、毎年夏に小林さんが農学部で開催している「北大マルシェ」という大学内イベントからきています。「北大マルシェ」には北海道内から食品関連業者が集い、生産者と地域住民や観光客が食を通じて交流します。その中で、日本の食や農業、私たちの暮らし方について、ほんの少し先の未来を考えるというコンセプトで開催されているそうです2。
北大マルシェCafé&Laboでも、このような北大マルシェのコンセプトを受け継いでおり、北大マルシェ基準で商品を選んでいます。その基準は、「持続すること、正直であること、適正な価格であること、気候風土に合致すること」の4つです。

北大牛乳の特徴
北大の牛の歴史は古く、明治時代にクラーク博士らによって北海道に導入された牛が起源とされています。「百数十年前に日本に初めて牛を連れてきたと言われており、珍しいことに血統表も残されています。親が誰で何の系統かがわかる記録があるんです」と白戸さんが語るように北大の牛には特別な歴史があります。当時は、農場でとれた牛乳やバターを教師や学生に供する文化がありました。しかし、時代が経つにつれ、そうした文化は薄れ、北大牛乳が提供されることはなくなりました。
平成にこの北大牛乳を復活させたのが、北大マルシェCafé&Laboです。
北大牛乳には一般の牛乳と異なる4つの特徴があります。それぞれが季節の味の変化を生み出す重要な要素となっています。
餌へのこだわり
北大農場の牛が食べる餌の7〜8割は、農場内で収穫された牧草やトウモロコシなどを発酵させたサイレージです。一般的な酪農では外部から飼料を購入することが多いのに対し、北大の牛はこの土地で育った飼料を中心に育てられています。
「だから北大牛乳には、この土地ならではの味があるんです」と白戸さん。
放牧の実施
春~秋には放牧も行われ、牛は北大農場に生えている草を食べています。日本では、つなぎ飼いが主流で、放牧されている牛の割合は全体の10〜20%と少ないのが現状です。それに対して、北大農場ではより自然に近い環境で牛が育てられています。
白戸さんによると、「温暖化の影響で牛にとって夏の暑さが厳しくなってきています。2024年夏からは、暑さに弱い牛のために、日中は牛舎で過ごしてもらい、夕方から朝にかけて放牧する新しい方法も試しています」とのこと。日々、牛の健康を第一に考えた飼育方法の改良が続けられています。
ノンホモジナイズ製法
市販の牛乳は通常、乳脂肪分を均一化するホモジナイズという処理が施されています。一方、北大牛乳はノンホモジナイズ製法を採用しています。賞味期限が短くなるなど管理は大変ですが、この製法により本来の牛乳の味に近くなります。
低温殺菌法
市販の牛乳が超高温殺菌(130度で2秒程度)されるのに対し、北大牛乳は低温殺菌(70度前後で30分以上)を採用しています。これにより、本来の風味を失わないようにしています。
こうしたこだわりにより、北大牛乳は季節によって味わいが変わるという特徴があります。
白戸さんによると「冬は夏の間に採った飼料を発酵させたサイレージを与えているので、甘みのある濃厚な牛乳になります。夏は放牧が中心なので、草の香りがして冬に比べるとあっさりした味わいになります」とのこと。
白戸さんは学生時代を振り返ってこう語ります。
「2017年のオープン当時、僕が学生アルバイトとして働いていた頃は、夏の牛乳は牧草のような香りがしました。今は牧草の香りも残しつつ、同時に牛乳の味も楽しめるようにバランスをとり、さらにグレードアップしています」
このように魅力のある北大牛乳ですが、この魅力を大学外へ伝えるのにかなり苦労しているようです。
「北大牛乳の特徴や農場のこだわりをもっと伝えていきたいのですが、現在来店されるお客様は観光客、特に外国人の方が多いので、いろんな言語で伝えていくのは難しいところです」。
現在は口コミやGoogleマップの評価などを通じて、その魅力を知ってもらうことが多いようです。今後はさらにSNSの発信も強化していきたいとお話しされていました。
北大マルシェCafé&Laboのこだわり
北大マルシェCafé&Laboでは、北大牛乳を使った様々な商品を提供しています。特に人気なのはジェラートで、一年を通して多くの人に愛されています。
「お店で出しているジェラートは北大牛乳で作っています。このジェラートは、普通なら安定剤や乳化剤を入れるところを、米粉などで代用しています。うちでは添加物を基本的に使わない方針で営業しており、店内に置いているものも自然により近いものを使うようにしています」と白戸さんは語ります。
ジェラートのフレーバーも北海道由来のものにこだわっています。キャラメルは北大牛乳を元に店内で作られ、抹茶は北海道で焙煎・熟成されたものを使用し、粒あんは北海道北部の朱鞠内(しゅまりない)の小豆を使用するなど、北海道の無農薬食材を中心に使ったジェラートを提供しています。
また、店内には「ラボ」と呼ばれる製造室が併設されており、牛乳やチーズ、ジェラートが製造されています。チーズは毎週土曜日に製造され、現在はモッツァレラチーズを提供しています。チーズの製造風景は、店内の窓から覗くこともできます。

店長の白戸さんは、2017年の北大マルシェCafé&Labo開店時は、大学3年生でした。当時、農学部で小林国之さんの研究室に所属していた白戸さんは、小林さんに誘われる形で北大マルシェCafé&Laboでアルバイトを始めました。大学卒業後、5年ほど他業種での経験を経て、当時の店長であった宮脇崇文さんからお誘いがあり、2023年12月に入社、2025年5月から店長を務めています。
白戸さんは店長就任後、学生スタッフの役割の見直しとメニューのリニューアルを行いました。その結果、土日祝日は学生スタッフが活躍できるようになりました。また、今年は新しいメニューも開発され、道産小麦のパンを北大牛乳と卵で浸して作ったフレンチトーストが追加されました。
さいごに
最後に、北大マルシェCafé&Laboの今後の展望、課題について、白戸さんは以下のように語りました。
「現在、北大マルシェCafé&Laboでは北大農場で生産される生乳の2〜3割程度しか使えていません。もっと多くの牛乳を活用して、北大牛乳の価値を広めていきたいです。そのためには製造場所や販売チャネルの拡大が必要です」
続けて、白戸さんは「北大マルシェCafé&Laboは北大牛乳が飲める場所ということを一番伝えたい。北大牛乳、ジェラート、モッツァレラチーズという3つの商品を全て味わえる場所は北大マルシェCafé&Laboだけです」と強調します。
季節ごとに変わる味わいを確かめに、ぜひ何度でも足を運んでみてください。きっと、あなたのお気に入りの季節の味が見つかるはずです。

『いいね!Hokudai』取材班が北大マルシェCafé&Laboの「北大牛乳」をふんだんに活用したメニューを紹介する記事も公開しています。あわせてご覧ください。記事はこちらから。
北大マルシェCafé&Labo
〒060-0809
北海道札幌市北区北9条西5丁目 北海道大学百年記念会館1階
Open 10:00-16:30 (Last Order : 16:00)
定休日 なし
参考文献
- 北大マルシェCafé&Labo, https://marche-cafelabo.com/(最終閲覧日:2025年12月18日)
- 小林 国之 2014, 大学院の授業「北大マルシェ」が大切にしていること, 産学官連携ジャーナル, 10 巻, 12 号, p. 20-21, https://doi.org/10.1241/sangakukanjournal.10.12_20.