学生の頃は探検部に所属し、ぼろぼろの部室に入り浸っていましたが、幸い何とか留年を免れ(他の同期は全員留年)、大学に入る前からの夢だった「味の研究」を仕事にすることができました(ご本人談)。
芝田さんの会社は、カップラーメンなどの加工食品の原料資材をつくっています。原料資材とは、加工食品に含まれる調味料や品質改良剤、食品添加物などのこと。
例えば、最終商品が100円だとすると、こうした原料資材が売上に占める単価は0.5円。MCフードスペシャリティーズの売上700億円の向こうには、14兆円という巨大な食品市場が存在します。
一般に知られているのは、昆布のうまみの主成分であるグルタミン酸。1908年に東京帝大の池田博士が突き止め、独特の味を「旨味」と名づけました。“UMAMI”(うまみ)という言葉は1985年に世界共通の公式用語になり、海外の学会でも普通にUMAMIという言葉が使われているそうです。
和食だと昆布だしとかつおだしの組み合わせ、洋食だと野菜系と肉系、中華ならネギや生姜に、鶏肉とホタテの貝柱などの組み合わせです。これらは、無意識のうちにグルタミン酸とイノシン酸を混ぜるという科学的な操作を行っているのです。
次に、加工食品の味のベースとなる「タンパク加水分解物」についてお話がありました。タンパクには、大豆や小麦などの「植物タンパク」と、ゼラチンや魚などの「動物タンパク」があります。タンパク自体に味はありませんが、アミノ酸まで分解すると、特有の強い味が出てきます。甘い、塩っぱい、苦いなど。これらをタンパク加水分解物といいます。
例えば、ハッピーターンという有名なお菓子の味の元になっているハッピーパウダーという粉末の正体も、タンパク加水分解物です。
芝田さんはこうした味の組み立て方について「味のピラミッド」を示して分かりやすく説明してくださいました。
うま味調味料の上に、タンパク加水分解物があり、その上に、酵母エキス、畜肉魚介エキス、醸造調味料があって、最後に頂点に香辛料や香料が特徴付けとなるというピラミッド構造で、味が形作られているのです。
そして芝田さんがいま研究しているのが、「加熱フレーバー」です。
加熱フレーバーの研究で基礎となる反応が「メイラード反応」です。何か難しく聞こえますが、要は加熱や熟成によって「茶色くなる反応」のこと。焼いた肉や、魚の焦げ目、シチューや味噌、燻製、干物などの茶色は、全てメイラード反応なのです。
メイラード反応では、食品の成分同士が複雑に反応し、様々な味、香り、色、物性が作り出されますが、芝田さんはこのような反応を調味料で再現する仕事をしています。
具体的にいうと、例えばビーフシチューの香り成分とはどのようなものなのか特定し、化学物質を使って再現する、というような研究です。芝田さんは、肉を焼いた時の香りを、肉を使わずにそのフレーバーを表現する研究も行っています。例えば、BSE問題があった時、肉を使わずに肉の味を出せる、このような調味料に対してニーズが高まりました。
後半では、仕事の選び方や学生時代にやっておくべきことについてお話がありました。
就職先は偶然に決まるものであり、自分にとって良い会社なんて、結局のところ入ってみないとよく分かりません。それは結婚に似ていて、簡単に決められないものだと芝田さんは言います。世の中の女性全員に会って確認するわけにはいかないし、ちょっと会ったくらいで分かるものでもない。限られた時間で理解できる部分を評価し、一瞬、一瞬に対して本気でのぞみ、一つ一つの出会いを大切にするしかないというのが、芝田さんの考えです。
仕事のやり方には、「プラモデル型」と「粘土細工型」があります。プラモデルは、誰でも説明書に従って組み立てれば同じ結果が得られます。そのような仕事ばかりしていては、いくらでも他にも自分の代わりとなる人間がいるということになってしまいます。
芝田さんが北大の後輩たちに望むのは「粘土細工型」の働き方です。それは、説明書も何も無い中から、自らの頭で考え、何度も自分で試しながら、創意工夫を重ねていくという仕事のやり方です。
こうした自分の考え方のベースとして、探検部時代の経験があると芝田さんは言います。雪山で遭難して死にかけるなど、これまでかけがえのない体験をしてきました。
思い出に残っている探検として、理学部のジオグラフィーマップで北海道の地層を調べ、洞窟のありそうなところを探し、実際に北斗市で長さ二百メートル以上の道内最長規模の鍾乳洞を発見して、ニュースでも取り上げられた経験があるそうです。
最後に、学生たちへのメッセージとして、次のような思考と行動のプロセスを紹介してくださいました。それは「調べる」→「予想する」→「試す」→「考える」→「調べる(に戻る)」というサイクルです。
例えば、現在の社会背景を踏まえて、自分の頭で考え、予想をたて、実際にそれを試して(行動して)、結果を出す。そのようなサイクルを意識してエントリーシートを書けば、ぐっと面接官の印象が変わるとのことです。
研究開発から探検部時代のエピソード、就職活動のアドバイスに至るまで、興味深いお話をたくさん聞かせてくださいました。芝田宗久さん、どうもありがとうございました。
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柴田さんが講義したのは、全学教育科目の「大学と社会」です。次回の講師は経済学部出身の船越ゆかりさん(北海道放送株式会社)です。お楽しみに。