【柴垣光希│2025年度CoSTEP受講生】
みなさんは、「大学院生」というワードにピンとくるでしょうか。
世間一般に言ういわゆる「大学生」は多くの場合、学部生を指すことが多いかと思います。

多くの学部では、上級生になると研究室・ゼミへの配属が行われ、それまでの講義中心の生活から、研究室・ゼミでの活動が中心となる生活になります(配属時期は学部によって異なります)。また、学部を卒業した後、大学院に進学すると「大学院生」と呼ばれるようになります。
日本の多くの大学院では、まず修士課程が2年あり、その後に博士課程が3年あります(医歯薬獣系の学部・学科では制度が異なります)。学士・修士・博士はそれぞれ英語でBachelor・Master・Doctorなので、学部1年はB1、修士2年はM2、博士3年はD3、のように呼んだりもします。
進学率を見てみると、北大文学部卒業生の修士への進学率は約2割で1、修士から博士に行くのはその中の約3割です2。
一方で、北大理学部卒業生の大学院進学率は約9割で、その中から約3割が博士進学を選びます3, 4。
このように、文系と理系では大学院への進学率に違いがみられます。
大学院生はそもそもの母数が少ないため、日常生活の中で大学院のことを知る機会はあまりないかと思います。そこで今回、「大学院生の生活を覗いてみよう!」ということで、大学院生にインタビューを行い、以下の質問について答えていただきました。また、筆者である柴垣も大学院生のため、自分視点での回答も付け加えてみました。
本インタビュー記事は、前編と後編の2部に分けてお届けします。
【前編】
≪大学院生とは?≫
ーどんな1日を過ごしているか?学部生と何が違う?
ーどんな研究をしている?
ー研究生活ってどう?何が楽しい?
【後編】
≪大学院生とは?≫
ーなぜ今の進路を選んだ?(学部選びや、大学院進学のきっかけなど)
ーお金はどうしてる?将来の進路の予定は?
ー気分転換は?休日何してる?
≪大学院生から、後輩へのメッセージ≫
ー学部生のうちにやっておいた方がよかったこと、やっておいてよかったことは?
みなさんが大学院というものをイメージする参考になりますように。
回答した大学院生
・植田康太郎(理学院 自然史科学専攻 科学コミュニケーション講座・修士2年)
・近藤智仁(理学院 宇宙理学専攻 低温ナノ物質科学グループ・修士1年)
・後藤純平(文学院 人間科学専攻 地域科学研究室・修士1年)
・吉川颯真 (理学院 宇宙理学専攻 惑星宇宙グループ・修士2年)
(筆者)
・柴垣光希(生命科学院 ソフトマター専攻 蛋白質科学研究室・博士3年)
回答者の学年およびインタビューの回答内容は、2026年3月時点の情報です。
大学院生とは?
- 吉川さんと、スーパーコンピューター「富岳」
- 近藤さんのポスター発表のようす
- 柴垣がカナダ出張の際に、モン・ロワイヤル山頂で撮った記念写真
- 植田さんが研究室旅行に出かけた際の写真
- 後藤さんと一面のお花畑
どんな1日を過ごしているか?学部生と何が違う?
(植田・M2)
基本的に本や論文を読む毎日です。研究対象が物理のテキストなので、文中の物理学の説明について調べています。また、先行研究について理解するために、過去の論文や本を読みます。学部生のときは、物理学や数学の専門書を読み、計算をしたり式変形を追ったりしていましたが、分野を変えてからあまりできていないです。
(近藤・M1)
昼頃に研究室に行き、論文を読んだり実験をしたりしています。帰宅は夜になることが多いです。学部4年生で研究室に配属されるまで授業を受けて帰宅するだけでしたが、研究室に配属されてからは基本的に研究室にいて、時々授業があると受けに向かいます。大学に生活拠点がもう一つ生まれた感じですね。
(後藤・M1)
朝起きて午前中は自宅で文献を読んだり、収集してきたデータを分析したりすることが多いです。気分を変えて同期と研究の進捗を共有するためにお昼過ぎから研究室に向かい、同様の作業をします。月に1〜2回は、データ集めとして調査協力者のもとにインタビューに向かったり、学外の図書館に文献を探しに行ったりすることもありますね。学部生の頃に多かった座学の講義はほとんどないため、時間的にも労力的にも自分の研究に注力できるのは楽しいですね。
(吉川・M2)
10時ごろに研究室に着いてから、教科書や論文を読んだり、研究に使う計算機のメンテナンスをしたり、学生部屋で留学生と雑談したりして気づいたら日が沈んでます(笑)。学部生のころより拘束時間が短いので、毎朝電車通学中にその日のスケジュールを自分で組み立てています。学会発表などが近くない限り、必ず21時までに家に帰るというルールを決めて、マンネリ化しないようにしています。
(柴垣・D3)
朝起きて研究室に行き、実験をしたり論文を読んだりしています。配属研究室にもよりますが、決まったスケジュールがあるわけではなく、研究や実験の計画を自分で考えながら進めるため、学部生の時よりも時間の自由度が高いです。研究に没頭していると気づけば夜遅くになっていることもありますが、家が近いので通勤時間が短く済み、ストレスが少ないと感じています。これは首都圏にはあまりない、北大生の特権かも。
どんな研究をしている?
- 柴垣さんが、バイオ系の実験をしているようす
- 植田さんが手に持っている雑誌には、自身が書いた記事が掲載されているそうです
(植田・M2)
物理学者の執筆活動でどのような科学技術コミュニケーションが行われてきたのかについて調べています。これまで、寺田寅彦や中谷宇吉郎など、研究者として活動するかたわらで、非専門家向けの科学本を執筆してきた物理学者はたくさんいます。現在はとくに石原純の文献に着目し、石原純のテキストがどのように市民への科学理論の普及に貢献したのかについて研究しています。
(近藤・M1)
隕石や小惑星中に特徴的なマグネタイトの形態を実験室で再現しようとしています。マグネタイトは砂鉄の主成分で、地球上にもありふれた鉱物ですが、小惑星や隕石中では、放射状の繊維が球状になっている粒子や、多数の粒子が規則正しく並ぶ様子など、地球上では見られない特徴的な形態が見られます。これらのマグネタイトがどのようにできたかは分かっておらず、小惑星の経験した環境を解き明かすヒントになるかもしれません。
(後藤・M1)
70年ほど前に北海道へ農業労働者として出稼ぎに来た方の研究をしています。春先に実家がある東北地方を離れ、北海道の農村で朝から晩まで農業に従事し、雪がチラつく晩秋に実家に戻るという暮らしが組織的に推し進められていたようです。その当事者にインタビューをして当時の話を聞くほか、当時の新聞記事や行政資料などを読み解いて、記録として体系化することを目指しています。
(吉川・M2)
太陽以外の星の周りを公転する「系外惑星」の環境を数値計算を駆使して推定しています。系外惑星には、太陽系内の惑星にはみられない多様性があることが近年分かってきています。「生命をたたえる惑星は地球以外に存在するのか」という、誰もが考えたことのある問題の答えに迫るべく日々研究に励んでいます。
(柴垣・D3)
ヒト由来の「抗菌ペプチド」と呼ばれる抗菌物質の生産手法の開発研究をしています。大腸菌などを培養して有用物質を生産させ、効率的に精製する方法を日々検討しています。わかりやすく科目名でいうと、化学・生物がメインで、ちょっと物理や数学、情報の知識も使ってマルチな手法を用いながら研究を進めているイメージです。
研究生活ってどう?何が楽しい?
(植田・M2)
学部までは物理学の研究をしていましたが、現在、物理学史や物理学と社会の関係という観点から研究を進めています。これまで勉強してきた物理学の歴史的形成過程などを調べることで、これまでとは異なる物理の側面について知ることができました。
(近藤・M1)
宇宙に直接触れることはなかなかできません。その環境を自分の手で再現して実験することで、遠く離れた宇宙を手元に持ってくることができるんです。ロマンがありますよね。もちろん実験は中々うまくいきませんが、その分自分で考えた実験が成功したり、面白い結果が得られたときは脳を焼かれます。なにせ、それはこの広い世界で自分が初めて発見した情報ですから。ある意味ギャンブルに近いのかもしれません。
(後藤・M1)
探し求めていた資料や記述が見つかったり、インタビューした内容と文献の内容が一致したりしたときの幸福感は他では感じ得ないもののように思います。研究で扱っているのが70年前の事象のためにインターネット上には情報がほとんどなく、文献としても体系化されているものが少ないために、資料収集は大変ですが、それだけに資料が見つかった時の「欠けていたパズルのピースが埋まった感覚」はひとしおですね。インタビューの中でもそれを感じる機会は多く、研究って楽しいなと日々感じています。
(吉川・M2)
惑星の研究というと、望遠鏡を使った観測をイメージする人が多いと思いますが、観測をする人も、私のようにスパコンを使って研究する人も、遠隔操作で観測機器やスパコンを操作するので、デスクワークが主です。自然科学系の研究者・大学院生はみんなそうだと思いますが、「この世で誰も考えたこと・発表したことのない仮説」を立てて、それが正しかった瞬間を楽しみに日々研究しています。
(柴垣・D3)
分子の物理化学的性質を注意深く洞察し、「こういう操作をすれば、目的物質と不純物との分離を効率的に達成できるかも?」という予想を立てて実験を行い、思った通りの結果が得られた時には脳内快感物質が出る感じがしますね。まあ大体思った通りにはいかないのですが、その場合は上手くいかない理由を考えて再トライして、それを上手くいくまで繰り返します。それでも本当にダメな時には一旦立ち止まり、アプローチを変えてみることも重要だと思います。持久走中のランナーズハイみたいな楽しさがあるような気がします。
前編はここまでとなります。
研究分野や研究室が違うと、大学院生活も大きく違うことがお分かりいただけたのではないでしょうか。それぞれが「自分にとっての研究の楽しさ」を感じながら研究に取り組んでいる姿が印象的でした。
後半では、大学院生活にかかる金銭面のことや、休日の趣味、そして後輩へのメッセージも伺いました。
(参考文献)
- 北海道大学大学院文学研究院・大学院文学院・文学部, 「進路・就職(学部)」, https://www.let.hokudai.ac.jp/general/career-employment-school, (最終閲覧日: 2026年2月1日)
- 北海道大学大学院文学研究院・大学院文学院・文学部, 「進路・就職(大学院)」, https://www.let.hokudai.ac.jp/general/career-employment-graduate-school, (最終閲覧日: 2026年2月1日)
- 北海道大学 理学部生物科学科 高分子機能学, 「就職データ」, https://life.sci.hokudai.ac.jp/mf/data-of-career, (最終閲覧日: 2026年2月1日)
- 北海道大学 理学部, 「大学院入試」, https://www2.sci.hokudai.ac.jp/graduate-adomission, (最終閲覧日: 2026年2月1日)






