家の中に観葉植物や鉢植えの花があると素敵だなと思うのですが、すぐ枯らしてしまうなんて経験をしたことはありませんか。かくいう私がそうです。水やり?肥料?日当たり?気温?何が悪かったのか。植物を世話することはなかなか難しいものです。みなさんは植物を育てるのは得意でしょうか。
北大植物園では絶滅危惧種をはじめとするたくさんの植物を栽培しています。技術職員として植物園に長く勤務され現在は高山植物・絶滅危惧種の栽培を担当している稲川博紀さんにお話をお伺いしました。

■高山植物を育てる
――これまでどんなお仕事をされてきたか教えてください。
私は基本的に園内全般、芝生管理から何から全部やってきて、今高山植物中心に絶滅危惧種を担当しています。
それぞれの担当の経験はまるっきり別物ですね。絶滅危惧種、例えばラン関係、好きな人は胡蝶蘭とか家で栽培したりするじゃないですか。愛好家の人たちってやっぱりそれに特化して自分でやってきているから栽培の仕方も分かっているんですよ。すごい詳しいんですよ。ただ、ここは大学植物園としていろんな種類を扱わなきゃいけない。これやったことないよなっていう植物がたまに出てくるんです。でももうあとは文献調べたりとかして対応しています。
ただ札幌の気候変わってきているんで、この街の中で高山植物・絶滅危惧種の栽培は今限界にきているのかなっていう気がします。

――どのように栽培しているのですか。
昔は栽培棚って木の板を引いて、その上に鉢を置いていました。今は違うんです。私がやるようになってからもう20何年経ちますけど、気候に合わせて対応しています。やっぱり暑くもなってきているし湿度もかなり高くなってきているんです。
どういう風にしたらいいのか色々考えた時に、足場パイプ、工事現場で使うような単管あるじゃないですか、それを支柱に金網エキスパンドメタルっていう金網のタイプの棚にしているんです。その上で鉢物栽培、通気性を良くする。
そうすると後でこういう風にしたいとかって時に簡単にばらして棚を組み替えることができるので、臨機応変に対応できるようにしているんです。

――工夫しながら対応しているのですね。
ここ数年だんだん暑くなってきて、それでもダメになってきているんです。今度は本当に貴重なものに関しては、棚下に送風機付けて風を動かしてあげるっていうことをしています。やっぱり棚全体で見ていて、暑さでやられているよなとかっていうのは出てきています。じゃあこういう風にしようっていうのを判断してやります。
送風機も1台だけだったのが、去年ぐらいからこっちも必要だよなっていうのが出てきていますよね。本州の植物園の人たちから“北海道いいよね。屋外で栽培できるからいいよね”って言われていたんですけど、今ここもそうは言っていられないぐらいになっています。もうちょっと涼しいとこに行かないとまずいのかなっていうぐらいになってきています。

■若手を育てる
――どのくらい栽培していますか
3000鉢とか管理しますから。大変ですよ。
一回の水やりだけで1時間から1時間半は普通にかかるんですよ。それは毎日ですからね。北海道も雨が続くようになってきたじゃないですか、蝦夷梅雨って言われるように。なんで、そういうのも考慮して屋根をかけています。だから逆に雨降りでも水やりをしなきゃいけない。だから結構大変ですよ。夏の暑い日だったら朝1時間から1時間半水やり、夕方ももしかしたらやらなきゃいけないから、一日の1/3とか水やりで終わっちゃいます。
でも、水やりをして毎日観察しなかったら、やっぱり中にダメになるものが出てきます。若い職員に頼んで1週間休み取っていなく、戻ってきたら枯れているということもあるんです。
――何が違うのでしょうか。
結局植物とはいえ生き物なので、ちょっとした変化を見逃さずに、やばいと思った時にどういう風に対応するかっていうことが必要になってくるんです。
3000鉢全部覚えているわけじゃないですよ。でも当然ながら毎日のように水やりをすることによって、この植物はこうなったらやばいっていうのが分かってくるんです。経験なんですよ。結局、栽培って経験が一番ものを言うので、やっぱり。なおかつ自分なりにこうなったらこういう風にやってみようというのをやっているからこそ対応できるっていう部分が出てくるんです。

――どうのように覚えていったのですか。
基本的に私教わったことがないんです。見て覚えろって言われて育ってきたんですよ。分からなかったら聞けよって言われて、分からないことは何個か聞きますけど、基本的に見て覚えろと言われていたんです。自分でどういう風にしてやるかというのを自分でも工夫してきたんですよね。長年ずっと色々試して、自分の中で試して、試して、試してやっているんで、その対応もできる。
――今とは違いますね。
今若い職員もいるんですけど、マニュアルがないと動けないし、自分の意見が入ってきちゃうんですよね。これをお願いしていても、やってと言っても、こうした方がいいんじゃないですかって。いや、経験ないだろうって言っても分かんないんです。私は色々やっているからこうやって欲しいって言っているんだけど、納得しないんですよ。
自分教わってないからどう教えていいか分からないじゃないですか。10年、15年やってきてやっと何とかなったっていうのがあるんです。多分職人、技術職って結局経験だと思うんです。やっぱり経験があるからこういう風にできる、対応できる。技術者って結局経験なんだと思います。

■学生を育てる
――植物園は学生も使うことがあるのですか。
うちにも学生がいるんです。学生の研究対象の植物とか管理に関しては、これを置かしてとか言われたらいいよって。
その代わり管理は全部自分でやらせるんです。水やりから全部やらせますよ。うちにいる学生の実験対象の植物の栽培に関しては全部自分でやらせます。植物を研究するなら少なくとも自分が使っているものぐらい栽培できるようになってもらわないと、とは思っていますよ。
その植物、植物ってそれぞれ全然違うのです。どうせそれを研究するんだったら、もうとことん全部1から10まで全部できるようにならなきゃだめなんじゃないの、研究者は特にと思うんです。

ただその栽培環境をこういう風にしたいんですっていえば環境は作ってあげます。それもやっぱり技術職員の仕事なので。こういう風な実験したいんですけどと学生から言われたら、じゃあこれが必要だ、あれが必要だよね、これはこういう風にした方がいいよっていうのは教えてあげます。
ただ、基本的に何でも自分たちでやらせています。ちょっと材料あって作らなきゃいけないようなものは作らせたりとかしています。
多分今植物園にいる職員のうちにそういう風に教えられるのは俺ぐらいかな。どうやったらいいんじゃないかっていうのは経験してないと言えないじゃないですか。私は基本的に何でも自分で作ってきましたから。結局最初に戻るけど経験なんですよね。

高山植物・絶滅危惧種をどう栽培するのか、近年の気候変動にどう対応するのか。稲川さんの培ってきた「経験」とそれに裏付けられた工夫がきらりと光るインタビューでした。そして植物園の若手職員や学生にも経験を積んで育っていって欲しいという気持ちも伝わってきました。