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高山植物の保全に向けた北大植物園の取り組み

北海道で高山植物を見ようと思うと大雪山やアポイ岳など有名な場所がいくつもありますね。

山で見るのも醍醐味ですが、中には「ちょっと遠くまでは、、、」「山に登るのはちょっとハードルが、、、」という方もいらっしゃるのではないでしょうか。私がそうです。

この写真は北大植物園の中の高山植物園で撮影したものです。
ちょうど6月上旬にはハクサンシャクナゲやエゾフウロが見ごろを迎えています(2025年6月3日現在)。

北大植物園の高山植物園にて撮影(2025年6月3日撮影)。

北大の植物園では山に登らなくても、札幌駅のすぐ近くで簡単に高山植物を見ることができます。
いや、むしろ山ではなく植物園でしか見られなくなってきているものもあるのです。

どういうことでしょうか。

今日はそんな高山植物に生じている変化も含め、北大の植物園で勤務されている技術専門職員の稲川博紀さんに植物園のお話を伺いました。

稲川さんよろしくお願いします。

 

■ 気候変動の影響

— 稲川さんはすごく長く植物園で働かれていると聞きました

37年になります。実家の農家を継ぐつもりでいたんですけど、北大から声がかかって、栽培とか土いじりが嫌いじゃなかったら、植物園がいいかなと思いました。今は高山植物の絶滅危惧種を中心に扱っているんですけど、自分の思うようにやってみる、まず工夫するっていう栽培に関して全然嫌いじゃなかったんです。そしたらいつの間にか古株です。

インタビューに答えていただいている稲川さん

— 働かれている37年間の中で業務って年代によって変わってきているんですか?

時代とともに絶滅危惧種を扱うようになり、枯らしてはいけないので、色々と考えなければならなくなりました。絶滅危惧種を扱うようになってから20年以上たちますが、これまで悪戦苦闘がありました。
昔は本州の植物園の人が見に来たときに、屋外で高山植物を管理するのはすごいって言われてたんですよ。でも今は札幌も暑くて、そんなこと言ってられないですね。

 

— 気候変動に関連した業務ってどんなものがあるんですか。

北海道の他の機関から相談を受けて、北海道の様似町にあるアポイ岳を見に行ったことがあります。気候変動による影響が大変ですよ。乾燥していて、本来、山の下の方にある樹木が、もう上の方まで来てるんですよ。そこで北大植物園では、依頼を受けてアポイ岳に自生する高山植物のヒダカソウの保護と増殖を園内で始めました。今は増えたヒダカソウの株を様似町に戻して地元で栽培しています。

植物園で栽培しているヒダカソウ

 

— 植物園でも高山植物の栽培に力を入れているんですね。

高山植物は本当にシビアですよ。全国の植物園が加盟している植物園協会では植物園で絶滅危惧種を保護する生息域外保全に動いています。リスク分散のために北海道のものは北大植物園で持っていますというだけではなく、他の植物園にも保存してもらうっていう取り組みをしてるんです。逆に全国の他の植物園から来た植物を北大植物園でも保存しています。

 

■ 北大植物園での栽培法の変化

― 北大植物園ではどのように高山植物を栽培しているんですか。

鉢で植物を植え替えるときには火山礫や腐葉土、赤玉土とかいろんな用土があるんですけど、基本、火山礫と腐葉土を使うんですよ。でも最近は札幌も暑くなってきて、例えば気温が30℃とかになると鉢の中は40℃近くになったりするんですよ。そういう中でどうやって高山植物を残していくか試行錯誤していたときに、腐葉土はやめて火山礫をメインに赤玉土を入れた用土を用いると、けっこう色んな高山植物に対応できるっていうのがわかったんです。ただこの用土の配合は乾きやすいので、日中35℃とかになると朝夕の一日二回水やりしなきゃいけなくて、一回の水やりで一時間以上かかるんです。他にも、雨が続くと植物によくなかったりして屋根をかけたり、鳥とかの野生動物の被害に対策したり、すごく手間がかかります。

 

— 「かかる手間」と「枯らさない」、というのはトレードオフなんですね。

そうです。手をかけるしかないです。この方法で若い職員にも教えているので、自分がいなくなってもこの方法を続けていくと思います。

水やりの様子

■ 栽培法の継承

— どうやって栽培の技術を修得していくんですか

自分は教わったこと、ないんですよ。本当に見て覚えろって言われた世代でした。マニュアルなんてないですよ。その中でもいろいろと試すんですけど、基本は原点に戻りますね。

いや、教えるのも苦労しました。栽培は経験です。

前は一週間休みを取って、他の人に水やりを頼んで帰ってくると、枯れて無かったりするんです。

でも腐葉土を使わない方法にしてから、水やりに関しては、本当に誰がしても大丈夫なんです。人に教えるんだったらそういう方法がいいんじゃないかと。

ただ日々の水やりで鉢の状態を見ていくんですけど、水をやっているだけではわからないんです。それは栽培が本当に好きじゃなかったらわからないです。毎日見てるから、その植物の状態を確認できるんですよ。

 

— 腐葉土を使わない方法は継承という意味でも活きているんですね

もう一鉢ずつ見ていくっていうのは人数的にも無理で、みんな忙しくて覚えられないんですよ。この方法は手間がかかるんですけど、植物が確実に残る方法だし、他の業務にも少し時間を回せるような形になります。

ちょうどインタビュー時期の5月に植え替えをしていたサギソウ。エゾリスやヤマガラ対策に周りに囲いが。エゾリスが勝手にクルミを鉢の中に隠したり、ヤマガラが鉢をいたずらしたりしてしまうんだそう。傍からだとかわいく聞こえますが、これもまた植物を守る大変な業務。

稲川さん、インタビューにお答えいただきありがとうございました。

稲川さんのインタビューを通じ、「高山植物の保全に対する植物園の取り組み」と「好きじゃないとできない仕事」というお話がとても印象的でした。

植物園は13.3ヘクタールの広さに4000種類の植物が育成されており、行くたびに違う喜びがあります。しかし、北大の植物園は、こうした「緑のオアシス」としてだけではなく、高山植物の保全にも欠かせない役割を担っています。

稲川さんのように植物の栽培が本当に好きな方々がいて、その方々の試行錯誤のうえ、今の植物園が維持されているんですね。

ぜひ皆さまもそんな植物園にお越しください。

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2025.06.04

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